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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1429

「島村(岡倉の偽名)、ジェームズが連絡を求めているぞ」岡倉がアメリカに戻り、職場に顔を出すと今日もパソコンに向かっている杉本が声をかけてきた。実は岡倉も今回のイランでの調査についてイギリスの諜報機関・MI6のジェームズに相談したことがある。
「秘匿メールは使えるのか」「うん、向こうからアクセスしてきたから身元確認したところだ」杉本はそう言って席を譲ると今日の当番・本間が入れたコーヒーを汲みに流しに向かった。このメールの回線は民間の通信業者を介在させずイギリスの軍と情報機関専用の周波数と通信衛星を使用している。このため身元確認には乱数表式のパスワードだけでなく数多くの手順を踏まなければ送受機能が作動しない。ロンドンとニューヨークでは5時間の時差があるので向こうは午後であり、こちらが出勤するのを待ってアクセスしてきたのだろう。
「ハンゾー(岡倉のイギリス用の偽名)、今回は国務省を怒らせたみたいだな」ジェームズはいきなり核心を突いてきた。どうやらテイラーはイギリスに寄って岡倉の非協力的な態度を揶揄していったようだ。相手はおそらくイギリス外務省だがその情報はMI6にも伝わる。
「イラクの時のイギリスの代役を求められたが、私には祖国を裏切るような嘘はつけない」杉本はコーヒーを入れたマグカップを持って工藤や松本、本間が新聞を広げている長机の席に座った。やはり秘匿メールでの対話は個人と個人の情報交換なので、呼ばれない限り立ち入ることはしないのだ。すると岡倉の送信にジェームズは即答しない。この間が妙に気になる。
「アメリカ国務省はオバマ政権の平和外交に苛立った軍事産業の圧力を受けて新たな戦争を画策している。それがイランなのだろう」この見解は言われるまでもなく判っている。ジェームズがあえてそれを書き送ってきたのは次の言葉に意味があるからだ。
「アメリカは日本の雀山政権の裏切りを挽回するチャンスとしてイラン制裁への参加を日本に命じてくる可能性が高い。我が国としては日章丸事件の反省を示すためにも自衛隊員に血を流してもらいたいものだが、これ以上のアメリカの暴走は制止しなければならない」あえて日章丸事件を持ち出したのはジェームズ流のイギリス式ブラック・ジョークのようだ。
やはりアメリカは雀山政権の「最低でも県外、できれば海外」との政権公約を同盟関係に対する裏切りと考えており、その後、辺野古への移設を閣議決定しても信用は回復できず、それを証明するための事実を要求してくると言うことだ。
「裏切り者」が悲惨な目に遭うのは西部劇やギャング物のハリウッド映画の定番だが、アメリカ人は日本人のように同情はしない。裏切り者は真の悪役以上の憎悪と侮蔑の対象なのだ。
「アメリカ人にとってイランはサダーム・フセインのイラク以上の宿敵だから火を点ければ産出する石油が燃えるように大炎上しそうだ」「イラン人の反米感情はどうだったんだ」岡倉の見解にジェームズが質問してきた。やはりテイラーとの調査旅行は把握されている。
「イラン人は商売の相手として利用する意識が強いようだ。若し、アメリカが撤退すれば中国が介入してくることになる。すでに中国の在外企業がかなり進出していた」岡倉の回答にジェームズは再び長めの間を置いた。
「我が国でも急速に中国が進出を始めている。長期不況で経営不振に陥っている企業の株式を在外中国人に買収させて経営権を奪取するのが常套手段だ。それに先立って新聞やテレビ局を手中に収めて親中的な世論を形成する。中国に批判的な声が起こるとアヘン戦争を持ち出したり、香港の1国2制度の成功を喧伝して打ち消しに走るんだ。今ではお前も知っているようなイギリス企業の多くが中国に乗っ取られているぞ」ジェームズの説明に今度は岡倉の方が考え込んでしまった。岡倉がアメリカに来た頃の日本はバブル経済が崩壊した直後だったが、その後の長期不況の中、日本企業の多くが人件費が安い中国に生産拠点を移し、中国版地産地消のように販売にも力を入れ始めている。つまり着々と中国への依存体質が作られつつあるのだ。それを日本のマスコミは中国に進出して業績を回復している企業を成功例として喧伝し、経営者たちの間の流行にしようと画策していることは日本発の報道でも明らかだ。
ジアエが語っていた韓国の現状がまさしくそれであり、それは台湾、フィリピン、タイと東アジア・東南アジアだけだと考えていたが相手の方が数枚上手のようだ。
「オバマ政権が国民の絶大な支持を受けて成立したのにはアメリカ国民の中にベトナム戦争後と同じような『疲戦』気分が蔓延しているからだろう。ならばインターネットを活用して反戦を扇動すれば国務省の策謀も制止できるはずだ。国務省が虚偽報告でイラク侵攻を始めさせた罪を頭が悪いアメリカ人も忘れていないだろうからな」ジェームズが「厭戦(ウォー・ウェイリネス)」ではなく「疲戦(ウォー・タイアドネス)」と言ったのは戦争に疲れることはあっても厭にはならないアメリカ人気質を表現している。「制止」と「阻止」の使い分けも同様だ。
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  1. 2019/01/10(木) 11:48:13|
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