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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1437

3学期に入って虹ノ花高校ではこれまで実態とは関係なく東三河地域で築き上げてきた「お嬢さま学校」としての信頼を根底から崩壊させる不祥事が発生していた。1年生が売春の疑いで警察に補導されたのだ。その生徒は警察での取り調べで同級生に紹介された成人男性と肉体関係を持ち、その男の卓越した性技で快楽に溺れさせられて肉体を金に替える術を教えられたと言う。その同級生は照美だった。
「君は商業高校を失敗してウチに来たんだろう。成績だって悪くない。どうしてこんなことをしたんだ」警察から戻った照美は教師からの事情聴取を受けた。会議室のコの字型に並んだ机の中央に椅子を置き、正面に教頭、向かって左に生徒指導部長、右に担任が座っている。照美にとっては受験時の面接試験の再現のようなものだ。すでに警察には高校の顧問弁護士を通じて不起訴とするように強く働きかけ、マスコミへの口止めも手を打ってある。
「だって学校の前に並んでいる車はウチらをナンパしようと集まっているんだもん。紹介して金を取れば好い商売になるじゃない」照美は悪ぶれることなく軽い口調で答えた。確かに下校時間には虹ノ花高校の正門から市電の駅に続く道沿いには車が列を作り、若い男が通る生徒に声をかけている。生徒の方は高級車を選んで乗り込み、駅まで送るだけのアッシーくんにするか、夜のドライブにつき合って朝まで過ごすかは気分次第だ。そのような生徒の家庭は放任主義が多く反抗的な学校としては登校さえすれば言うべきことはない。
「売春が犯罪だと言うことを知らないのか」あまりにも平然としている照美の態度に生徒指導部長が社会常識を確認した。
「犯罪の訳ないじゃん。私が子供の頃に愛人バンクって言う会社の宣伝をテレビがやってたよ。社長の筒見待子か『笑っていいとも』に出てたのを見たもん」思いがけない答えに面接試験の要領で対面している教師たちは困惑した顔を見合わせた。
愛人バンク・夕ぐれ族がマスコミに登場して公然と愛人契約を募っていたのは1982年頃の話だ。翌年には売春防止法違反・売春斡旋罪で摘発され、筒見待子=本名・鶴見雅子も逮捕されている。大人であればこの顛末を見て契約愛人も犯罪であることを理解するのだが、この生徒たちは小学校の低学年だった。親としても生理が始まっていない子供に性教育をすることはなく人気番組に出演して脚光を浴びる存在として記憶に刷り込まれたようだ。
「それで同級生を男たちに紹介して金を取ったのか」「ううん、若い男は金を持ってないからネンネを調教させてやるだけ。それで使えるのを選んで仕事をさせるんだよ。だから男もテクニシャンじゃなくっちゃあ駄目」照美の仕事の段取りはかつて娼婦を遊郭に斡旋していた女衒(せげん)そのものだ。おそらく男たちのテクニックも自分で試したのだろう。
教師たちにも家庭があり、生徒指導部長には同世代の娘がいる。日頃は世間知らずな言動を物足らなく感じていたが果たしてそれが素顔なのかが不安になった。
「君の紹介で男と肉体関係を持った同級生は何人いる」担任の質問は自分の指導責任の不行き届きを証言させるための自爆に等しい。教頭と生活指導部長は青ざめて汗をかいている担任の横顔を一瞥してから照美を注視した。こちらは平然としたままだ。
「まだ両手かな。市電で通学してないと車の前を通らないから紹介できないだらァ(三河弁の語尾)」担任は頭の中で生徒の指導簿の家庭の欄を開いた。10人では市電で通学している生徒の過半数になってしまう。その中には公立の進学校を失敗して虹ノ花高校にきた模範生と信頼している生徒も少なくない。担任は沈痛な表情でうなだれた。
「それだけの生徒が純潔を失ったんだな」ここで教頭が妙な質問をした。話を聞いていると背筋が凍りつくほど恐ろしくなる照美も昨年までは中学生だった1学年であり、同級生たちも子供から大人に脱皮し始める時期だと考えているのだ。
「ううん、バージンだったのは郁子だけじゃあないかな。みんな中学の彼氏と春休みに姦ったんだって。クラスでバージンなんて貴重品だよ。郁子も姦られたから絶滅したかな」「そうか・・・」教師たちは照美の口か意外な事実を聞かされて言葉を失った。お嬢さま学校を自負している虹ノ花高校としては生徒が清純無垢であることを前提に教育している。だから照美と補導された生徒だけを退学処分にして厄介払いすれば残りの生徒は不問に伏すつもりだったのだ。そんな教師たちを照美は嘲笑するかのように脚を組んだ。
郁子と言う名前を聞いてそれが本間であることを知ったのは担任だけだ。担任にとって本間は成績優秀で生真面目な最も信頼している生徒だった。その本間も「小」がつかない悪魔・照美の手にかかってしまった。本間が照美につけ入れられる隙を作った原因に気づけなかった自分の迂闊さが教師として許せなくなる。担任が強く噛んだ唇から血が流れ始めた。
筒見待子(鶴見雅子) ・筒見待子
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  1. 2019/01/18(金) 09:20:10|
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