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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1457

夕方、18時4分からの政府の談話発表に続き国防部が状況説明の記者会見を開いた。杉本は安楷林の帰宅を待ちながらテレビの中継を注視していた。説明を担当するのは海兵隊の広報担当官のようで迷彩服姿でも容貌は知的で表情も柔らかい。
「本日14時34分の初弾の着弾から15時41分までの約1時間にわたって行われた砲撃戦について説明します」ここで広報官の背後のスクリーンに延坪島と対岸の地図が映しだされた。広報官はレーザー・ビームで地点を示しながら説明を始める。
「こちらが延坪島です。この島と対岸の間の西海(=黄海)に国連軍が定めた北方限界線があります。北韓(=北朝鮮)軍はこの境界線を越えて延坪島に対し砲撃を加えてきました。発射弾数としては14時34分から55分までの間に150発、15分間の中断を挟んで15時10分から41分の間に20発、着弾数は前半に70発、後半に10発です」この砲撃に関する数字は杉本が見ていたニュースの記録と一致している。ニュースでは「仁川支局で砲声を数えている」と説明していたがアナログ方式も大したものだ。
「我が海兵隊側は北韓軍のケモリ海岸砲陣地と茂島陣地に向けて前半に50発、後半に30発を応射しました。また14時38分には空軍のKFー16戦闘機2機が緊急発進しています」詳細な説明に記者たちも熱心にメモしていて会見場は妙に静かになっている。
「次に被害の状況です」ここで広報官の顔が険しくなり、記者たちも条件反射で姿勢を正した。
「初弾4発のうち1発が1番砲台に、もう1発が3番砲台に命中して訓練終了後に弾薬庫に格納するために集積してあった装薬に引火しました」これが日本であれば「装薬=薬莢内に装填する火薬」と言う専門用語を理解する者は皆無だが、徴兵制の韓国では常識として通じるらしい。
「そう言えば海兵隊が実施していた訓練の説明がありません」ここで記者から指摘が入ったが、指名を受けていない不規則発言のため広報官は無視して先に進めた。
「次に人的被害ですが海兵隊では死者2名、重軽傷者16名、民間人では死者2名、軽傷3名の犠牲者と被害者が出ています。民間人は砲撃戦が発生した直後に地元自治体が避難所に誘導したことにより、約200名の観光客を含めてこれだけの被害ですみました」それは誘導だけでなく日頃から避難訓練を繰り返してきた成果なのは言うまでもない。
「政府と軍の対応ですが」ここでスクリーンは時系列の対応事項の一覧表に変わった。本来であればこの部分は一覧表のコピーを配布すれば説明は不要なのだが、この記者会見がテレビ中継されている以上、国民への宣伝のためにも力を入れなければならない。
「初弾の着弾直後に現地部隊から合同参謀本部指揮所に急報が入り、速やかに参謀長に報告して14時50分に珍島犬1号を発令しました」やはり「珍島犬」の説明は不要だ。
「砲声が止んで7分が経過しだ15時48分に北韓政府に対して『挑発を止めるように』とのファックスを送付しまsたが回答はありませんでした」これは初耳だったらしく多くの記者がメモを取った。しかし、これではスクリーンの一覧表の意味がない。
「以降、15時50分に消防防災庁が民防隊の動員準備を伝達し、16時30分に政府が全ての公務員に対して非常待機命令を発令し、16時35分から安全保障関係閣僚会議を開催しました。18時過ぎからの政府の声明発表はご存知の通りですが・・・」「はい、大韓日報の金です」ここで先ほど指摘を無視された記者が手を上げた。こうなれば質問は予想できる。
「北韓の砲撃が始まるまで現地の海兵隊は実弾射撃訓練を実施していたと言う情報がありますが、どうしてその説明を省略したのですか」いきなり敵意に満ちた質問になった。それでも広報官は無理に表情を和らげて大きく息を吸った。
「省略した訳ではなく事件を詳細に説明して理解を容易にしようと言う配慮です。確かに海兵隊は西海に向けて実弾射撃訓練を実施していましたが月例訓練なのでマスコミ各社に対しては事前に情報は伝達してあるはずです」確かにニュースでも海兵隊が実施していた訓練の概要に触れていた。ところが記者の追撃はいきなり喉元に刃(やいば)を突きつけるものだった。
「北韓は領海内に着弾すれば報復を加えると通告していたと聞いています。原因は我が方にあったのではないですか」マスコミがこのような質問をしてくるのは真偽の確認ではなく、すでに確定している報道方針に根拠を与えるための手順に過ぎない。つまり軍事政権の時代であれば北朝鮮の暴挙に対する怒りを扇動する報道を課せられていたマスコミも今回は現政権に責任を転嫁し、むしろ金大中・盧武鉉政権当時の融和政策の正当性を証明する材料にするつもりなのだ。これは日本の朝日新聞の常套手段でもある。
「訓練は南南西に向けて射撃していますから北韓の領海に着弾することはありません」「それを証明する資料を見せろ」広報官の事実の説明も記者たちの野次で音声が不鮮明になっていた。
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  1. 2019/02/08(金) 09:49:29|
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