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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1464 (かなり実話です)

森田士長との面接を終えて間もなく松山3佐は副連隊長に呼ばれた。そこには1科長も同席している。こうなれば思い当たる用件は1つしかない。
「松山3佐、森田曹侯補士は退職に同意したのかね」副連隊長はすでに森田士長を依願退職させる腹積もりらしい。陸上自衛隊と言う組織では上意下達・絶対服従が鉄則であり、上官の意向の是非を考えることが反抗と受け取られる。
「本人としては父親に相談したいと言うことなので正月休暇で帰省させることにしました」副連隊長としては父親に相談してもこの決定がくつがえる訳ではないのだから時間の無駄・余計な手順のように感じていた。すると1科長が連隊長と副連隊長の側近らしく補足説明した。
「森田曹侯補士の父親は航空自衛隊でしょう。北部方面隊の人事に関する問題を漏らすのは避けた方がよろしいのではないでしょうか」これを聞いて副連隊長の顔が険しくなった。
「曹侯補士は陸海空共通の制度だ。陸でも我が北方だけが実施する特殊な人事処理を外部に漏らすのは好ましくないな」どうやら副連隊長は西方も同様の不当人事を実施することは知らないようだ。松山3佐が状況判断する時に可能な限り広範囲の情報を収集することを学んだのは守山の第35普通科連隊の中隊長からだった。その中隊長は大学中退の癖に一般(部外)で幹部に任官した変わり種だったが、下手な大学を複数卒業したような幅広い専門知識に精通していた。松山3佐が必要性に関係なく興味を持ったことを徹底的に追及する異常な好奇心を見につけたのは本人として認めたくないがその中隊長の影響だ。
「しかし、陸士の退職には保護者の同意が必要ですから事情説明は避けようがありません」「確かにな・・・」松山3佐の反論に副連隊長と1科長は渋い顔を見合わせた。
「ならば父親が本人を説得してくれるようにこちらの事情を説明するのか得策ではないかと考えますが」「うん、父親の階級は何だ」「確か3等空佐です」1科長の提案に副連隊長も同調しながら妙な確認をした。どうやら説明して理解させられる相手であるかを階級で判断するつもりらしい。松山3佐はすでに森田士長の父親についても調査しているが曹侯学生出身の部内で、輸送幹部から警備幹部に職種転換して現在は芦屋基地の第3術科学校に新設された警備課程の課長を務めている人物だ。曹侯学生出身の部内は守山の1小隊長で前の前の前の4中隊長だった田島1尉も同様だ。不思議に頭が柔らかく議論する相手としては手強い面もある。
「説得を依頼するのは無理かも知れませんが、同意してもらえるように説明します」心にもないことを口にできるだけでも松山3佐は陸上自衛隊に染まっている。本当は父親に徹底抗戦を叫んでもらい、問題を陸海空自衛隊に飛び火させて政治問題化することで北部方面総監・滋賀徳次郎陸将に痛撃を与えたいところだ。
「説明するにしても総監閣下に傷がつかないように細心の注意を払ってくれ。飛行クラブの連中は階級の序列を尊重する気持ちが弱いから要注意だ」航空自衛隊を「飛行クラブ」と呼ぶのは主に陸上自衛隊が用いる蔑称だ。副連隊長は航空自衛隊に対して腹に一物あるようだ。防衛大学校では2年次に進む時に陸海空に分けられるのだが、航空を熱望していながら陸上になった者の中には殊更に毛嫌いする人間もいるようだ。しかし、度が強い眼鏡をかけている副連隊長がパイロット志望だったとは思えない。はそうなると陸上幕僚監部で勤務中の予算の争奪戦で煮え湯を飲まさせられた場合もある。どちらにしても松山3佐の好奇心は反応しなかった。
「ところで松山3佐は青森から冬戦教の初級幹部戦技訓練に参加したのかね」森田士長の話に区切りがついたところで副連隊長が質問してきた。このような経歴は1科の人事記録を確認すれば判明することであり、実際は質問の形式を取った強制案内だ。
「いいえ、部隊でのスキー合宿には参加しました」「5普連は八甲田の雪中登山訓練があるからスキー訓練には力を入れているんだろう。しかし・・・」一度引いて追い討ちをかけるのも陸上自衛隊式討論の基本技法だ。しかし、副連隊長と中隊長の対話が討論になること自体があってはならない掟破りだ。
「ウチの隊員には冬季リンピック選手や強化要員が揃っている。指揮官として求められる技量は部隊の合宿程度では心もとないだろう」副連隊長にここまで言われれば松山3佐は集合訓練への参加に同意するしかない。1科長は集合訓練の説明をするための息を吸った。
「僕は頭脳労働者として陸上自衛隊で勤務しています。部隊に置き去りにされるようでは困りますが先頭に立つ必要はないでしょう」いきなり松山3佐が言ってはならない台詞を吐いた。副連隊長は想定外の反論に唖然として我を失い、1科長は顔面蒼白になって硬直した。
守山時代の中隊長は副連隊長に嫌われたことでCGSの受験から除外されて人事的に不利益を被ったのだが、大学出たてで駆け出しの松山3尉には興味がない他人事だった。
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  1. 2019/02/15(金) 09:23:59|
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