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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1465

12月になって早々に島田元准尉は年末大掃除に取りかかっている。島田元准尉は自衛隊の退役後に再就職した河川パトロールの仕事を定年退職してからも地元のFMラジオ局で「昭和歌謡曲」の専門番組のDJを勤めながら自治会や隊友会の役員として八面六臂の活躍をしているため大掃除は長期戦にせざるを得ないのだ。
「先ずは秘密基地の整理だな」久しぶりの休日に妻の順子の手料理を食べ終えた島田元准尉は自分が立てた作業実施計画を発声確認した。担当場所は子供たちが家を出て空いた部屋のうち自分専用に使っている部屋と庭の手入れだ。今日の天気予報では冷え込みが厳しいと言うことなので屋外作業は午後にした。
「使わない資料は整理して下さいよ。貴方に何かあった時、処分に困るような物は捨てるなり誰かにあげるなり・・・」洗い上げを終えた順子は居間に戻って新聞を広げている。その席を譲って2階の廊下の突き当たりの倉庫に向かう島田元准尉に顔をかけてきた。
「俺は使わなくても信繁が先任になった頃に役立つ資料ばかり残してあるんだ。何かあったら信繁に渡せば良い」島田元准尉は順子が反論してくる前に廊下に出て階段を昇っていった。
「確かに形見にしても困るような物が多いなァ」島田元准尉の秘密基地=倉庫は左右の壁に棚を立ててあり、格段に衣類を積めた衣装ケースと資料のバインダー、それに関係図書が並べてある。DJ・昭和太郎としての仕事部屋にも年代物のレコードからカセット・テープ、MD、CDと歌謡史や分野別の歌詞集、芸能人の評伝などの書籍が山積みになっているので一筋縄ではいかない。先ずは衣装ケースの衣類の点検から始めた。
「うん、カビは生えてないな」衣装ケースの中には警察予備隊のアイゼンハウアー・ジャケットから保安隊、自衛隊草創期、そして中曽根康弘防衛庁長官の肝煎りで更新された灰茶色の制服と正帽・略帽、さらに各時代の作業服、戦闘服、迷彩服が詰まっている。クリーニングから戻った状態で収納しているのでカビが生える可能性は低いが湿気を帯びれば皆無とは言えない。
「そう言えば何でも鑑定団って番組があったな。あれに出したら幾らになるのかな」岐阜県ではテレビ愛知が放送している「開運!なんでも鑑定団」は好きな番組だが、ごく稀に帝国陸海軍の遺物が出品されることがある。自衛隊関連の品物としてはプロレスラーの大仁田厚が航空自衛隊の戦闘機のスティック・グリップを出品したくらいだが、あの鑑定額は分野別の市場価格のようなのでこれほどの貴重品であれば思い掛けない値段がつくかも知れない。
「それよりも昔の嵐山美術館みたいに日本軍の軍服を展示する施設があれば無料で貸し出すんだけどな」年に一度だけの懐かしい衣類との再会で島田元准尉も独り言が増えてくる。京都嵐山美術館は1991年に閉館した私設美術館だが武具・武家工芸品が表看板だったものの実際は帝国陸海軍の武器や軍装コレクションが有名でそれを目的にした入場者が多かった。帝国陸海軍の軍装を歴史資料として展示しているのなら自衛隊の被服を加えても良いはずだ。軍隊経験者が高齢化していることを考えれば自衛隊経験者を狙った展示も悪くはないだろう。それにしても個人で秘蔵しているのは惜しい品揃えではある。
衣類に続いてバインダーのカビの点検になった。すると守山時代の雑資料のバインダーに見覚えがない冊子がとじてあることに気がついた。表紙には玄会(げんかい=玄海)とある。
「ふーん、玄会かァ。確か無法松の会と合同で親睦会をやったんだったな」それは守山駐屯地と愛知地方連絡部で勤務する北九州市出身の隊員の無法松の会と名古屋市在住者の玄会が合同で開催した親睦会で配られた会員名簿だった。
「この名簿は地連で勤務している時、人脈探しで読んだ以外はとじ放しだったな」とじ放しだっただけに表紙の色は変わっていない。島田元准尉は何気なく名簿を開きアイウエオ順に並ぶ会員の名前と年齢、就職先に目を通し始めた。
「待てよ。高浦賢一郎・・・どこかで聞き覚えがあるな」見知らぬ人の名前を素通りしていくと何故か一カ所で目が止ってしまった。年齢を見ると自分と大差はない。職業は大手企業の課長になっている。あの親睦会で話した記憶はなかった。考え込みそうになったが時間を浪費する訳にはいかない。バインダーを閉じると次に手を伸ばした。
「そうかッ、高浦は小倉で井手先生の墓参りした時に韓国のWACが来ていた墓の名前だ」この昔懐かしい連想ゲームのような記憶回復機能は棚に並んでいるバインダーの背に表題が書いてある光景が墓苑に結びついたのかも知れない。
「住職は高浦家の息子が岐阜の岡倉家の養子に入ったと言っていたな。その岡倉家の息子の嫁が韓国陸軍の少佐なんだ。つながったぞ」島田元准尉の頭脳は全く衰えていない。自衛隊に在籍したこと自体が抹消されている岡倉と言う隊員に対する興味は推理小説の域に入っていった。
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  1. 2019/02/16(土) 10:12:29|
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