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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1469

佳織がハワイへ行っている1月14日、横浜地裁でイージス護衛艦・あまごと漁船・軽得丸の衝突事故に関する裁判の論告求刑が行われた。
法廷の傍聴席には航跡図の捏造が発覚するなど検察側の劣勢が明らかになって以来、激減していた取材記者や漁協関係者が顔を揃え、久しぶりに満席になっている。その一角には黒のダブルの制服を着た幹部と海曹の海上自衛官たちが座って存在感を発揮していた。
取材記者たちは被告人が入廷する前に席についている裁判官と検察官、弁護人の写真を撮影することが許されているのだが、今回の弁護側意見陳述は牧野弁護士の担当なので私は影になって写らないはずだ。その点は期待外れだったかも知れない。
「只今から刑事訴訟法第293条に基づき最終弁論を行います。検察官は事実及び法律の適用について意見を陳述して下さい」裁判官に促されて検察官が立ち上がった。これから検察官が行う意見陳述を論告と呼ぶ。本来はここまで行ってきた証拠調べや証人尋問によって明らかになった被告人の罪状をどの法律に適用させ、どの程度に評価するかを述べるのだが、この裁判で検察側は罪状を明らかにできていない。立ち上がったままうつむいている検察官の異常に長い間(ま)は不利を突破するための気力を貯めているようにも見える。
「最終弁論として意見陳述を行います」大きく息を吸った検察官は顔を上げると妙に力を込めた声で弁論を始めた。傍聴席の原告側応援団も一斉に身構えた。
「本件は平成20年2月19日午前4時7分頃に房総半島野島崎沖、北緯34度31分5秒、東経139度48分6秒の太平洋上でハワイでの艦対空ミサイルの装備試験を終えて海上自衛隊横須賀基地に寄港するために航行していた舞鶴基地所属の護衛艦・あまごが三宅島周辺海域での操業に向かっていた新勝浦漁協所属の漁船・軽得丸に衝突し、同船は現場に沈没して船長の被害者・岸西(きしせい)丸夫と乗組員の被害者・岸西節広を死亡させたものです」ここまでは事故の概要だ。ここからが検察側の罪状の見解になる。私と牧野弁護士、滝沢弁護士は正面の検察官席に座っている同じ人数の検察官と睨めっこを始めた。ここで顔面芸を披露して笑いを取れば代表で意見を陳述している検察官の気合が削がれるのだが、残念ながら地顔が変なだけで芸はない。勿論、冗談だ。
「事故の原因は当直士官として当該護衛艦を指揮していた被告人・大岩智人が被告人・前潟啓一郎から十分な申し送りを受けずに業務を引き継いで漫然と航行を継続し、海上衝突予防法14条が規定する回避義務があるにも関わらず必要な回避行動を取らずに同地点で衝突したことにあります。また、またあまごは寒冷であることを理由に洋上監視を艦橋内から窓越しに実施しており、月齢14のほぼ満月とは言え日の出前で暗く視界が十分に確保できない状況で安全運航に関する配慮を怠っています」これがあまご側の過失と言うことのようだ。
「しかし、被告人2名は当法廷において自己の過失によって2名の尊い人命を奪った責任の重大さを説明されても反省の態度を見せず、弁護人と共に無罪に固執し、過失は死亡した被害者側にあるかのような弁論を繰り返してきました」要するに裁判官の心証を害する以外に有罪を勝ち取る術(すべ)がないようだ。それにしても検察側は被告と弁護人が自分たちの主張を受け容れないことを「反省の態度を見せない」と断ずることを常套手段にしているが、それでは裁判にならない。特に今回は海難審判の理事官と一緒に刑法第172条の虚偽告訴罪で告発したいくらいだ。果たして検察当局は大阪地方検察庁のエース級の同僚たちが厚生労働省の女性官僚を捏造した証拠で告発した罪で刑事告発されたことを教訓にしているのだろうか。
「したがって本件における被告人・大岩智人、被告人・前潟啓一郎の過失責任は重大かつ同等であり、海上衝突予防法第14条の回避義務違反は有罪、海上衝突予防法第5条の見張り不十分は有罪、海上衝突予防法第7条の衝突のおそれの防止は有罪、海上衝突予防法第8条の衝突を避けるための動作は有罪、海上衝突予防法第14条の行会い船の順守事項は有罪、そして刑法211条の業務上過失致死は有罪であり・・・」ここで検察官は一度、呼吸を整え、大きく息を吸うと被告人席の2人の顔に視線を送った後、裁判官に正対した。
「以上の罪状により被告人・大岩智人に禁固2年、被告人・前潟啓一郎に禁固2年を求刑します」求刑を終えて代表の検察官は裁判官に一礼すると腰を下ろし、机を向いて大きく息を吐いた。かなりの疲労感が見て取れる。裁判が始まった頃であれば検察官の追及に傍聴席の関係者たちも反応し、無言でも荒くなった鼻息や口の中で息む声で応援していたが、今回は静かなままだ。
刑法第211条に定められている量刑は5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金だから、2名が死亡した事故の量刑としてはかなり抑えている。ここにも検察側が自信を喪失いる様子が窺えるが、ならば告発を取り下げてこの2人を職務に戻させてもらいたい。
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  1. 2019/02/20(水) 10:29:22|
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