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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1471

「最終弁論までは何とか所望の戦果を上げることができたが問題はここから先だぞ」最終弁論の翌日、統合幕僚監部首席法務官室に集まった私たちに向かって首席法務官・境1佐は厳しい顔をして見解を披歴した。昨日は境1佐も傍聴人席で最終弁論を見ていたのだが、問題は公判そのものではない。日本の司法制度の構造的欠陥は判事と検事が共に法務省の職員=国家公務員であり、弁護人だけが個人経営の私人であることだ。だから法廷では判事を裁判官、検事を検察官と「官」を付けるのに対して弁護士は弁護人と呼ばれている。その点、私は自衛官だがこの「官」は法廷では何の権能も持たない。
「今回、検察官は裁判官の信頼を失墜しましたが、それでも千石官房長官からの圧迫を訴えて同情を買うなどして全面無罪ではなく過失を一部認めさせるように仕向けるんでしょう」「おまけに大阪地検の不祥事がありましたから苦しい立場を訴えるには格好の材料です」確かに本来、公正中立であるべき判事が同じ法務省の職員である検事に同僚的な親近感を抱き、立場を慮る(おもんばかる)ことが横行していると聞く。判事と検事、弁護士が公判に関する話し合いを持つ機会は平等に与えられ、三者が同席するのが原則だが、検事は口実を作って判事に会い、自分の苦しい立場を訴えることで判決や量刑に手心を加えてもらうこともあるそうだ。
「わずかな過失でもマスコミは『有罪』と書き立てて事実化します。そうなれば前潟3佐と大岩3佐の職務復帰は2審、最高裁の判決まで延期になりかねません」牧野弁護士、滝沢弁護士の後に私が補足的な見解を述べたが、これだけは自衛隊の内部事情に関係している。
「やはり判事と検事の接触を監視しなければなりません。阻止はできなくても問題化することで影響を削ぐことは可能でしょう」「流石は陸上自衛官、発想が政治的だな」私の提案に境1佐が変な賛辞を与えた。確かに帝国陸軍では山口陸閥が政治権力の奪取と行使を専らにして日本を軍国化する元凶になっていたが、陸上自衛官は「政治的活動に関与せず、強い責任感を持って専心職務の遂行に当たり」の服務の宣誓に忠実なのだ。
この手の話題はやはり個人経営の私人である弁護士2人は門外漢のようで黙って境1佐と私の顔を見ている。こうなると若干は政治色を帯びた作戦会議になってしまう。
「この場合、情報収集が目的ではありませんから威示行動として存在を誇示するべきでしょう。横浜地裁に入庁する者に自衛隊が見ていることを認識させるためには制服を着た隊員を玄関付近に張り付けるだけで十分です」「その隊員に検事たちの顔写真を持たせて指名手配するんですね」刑事事件が専門の滝沢弁護士は警察の捜査手法を模倣すると考えたようだ。
「そこまでやれば完璧ですが隊員を長期間拘束する公的根拠がない。だから噂として法務省に漏らした上で数週間だけ実際に張り付けて、それを見た人間が検事に伝えて接触を躊躇させれば十分でしょう」「確かに接触するのは検事からのみだから地裁に立ち入れなければ事実上は阻止できますな」流石に牧野弁護士とはつき合いが長いので私の思考形態をよく理解している。
「やはり陸上自衛隊には帝国陸軍以来の政治的風土が残っているんだね。その点、我が海上自衛隊は海が職場だから陸(おか)の上のことは門外漢だ」私の作戦私案を聞いて境1佐は皮肉に笑いながら自分の指摘が正しかったことを得心していた。
「陸上自衛隊に限らず陸軍と言うのは占領地の行政も任務に含まれますから海空よりは政治性があるのかも知れません。しかし、戦前の名宰相・鈴木貫太郎大将と米内光政大将は海軍でしょう」「うん、特に米内閣下は別格だったね」私は元来、海軍少年だったので帝国海軍に関する知識は並みの海上自衛官に引けは取らない。この反論に境1佐も黙ってしまった。
早速、私はハーグにある国際法裁判所の公判記録の入手先の1つである法務省の知人に電話をした。国際裁判所は外務官僚の天下り先になっているため法務省は積極的には関わっていないのだがやはり疎遠にはできないらしく、外務省よりも詳細な資料を提供してくれる。
「モリヤ弁護士のことだから虚偽告訴罪での告発を考えているんだろう」電話口でいきなり知人はこちらが秘かに考えていることを指摘してきた。こうなれば占めたものだ。
「うん、向こうが控訴するなら対抗措置として発動するかも知れないな」これは無罪判決を前提に言っているのだが知人は指摘しなかった。
「・・・同じ国家公務員同士なんだから、あまり事を荒立てないでくれよ」知人は平静を装いながらも懇願するように答えた。やはり法務省内ではその可能性を危惧しているようだ。
「その前に検事が判事に接触しないかを監視して、確認すれば政治問題化することにしたよ・・・おっと口が滑った」「自衛隊にはプロが揃っているからな」演技としては非常に臭かったが知人は重く受け止めたらしい。この二滴が波紋になって検事の耳に届くまでに何日かかるのか。今日から横浜地裁の前では某機関の隊員が制服姿で立哨している。
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  1. 2019/02/22(金) 10:51:48|
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