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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ 1488(かなり実話です)

翌日は朝5時45分の日の出には出発できるように早朝から準備を始めた。糧食班は徹夜態勢で朝食の準備をしたようだ。その甲斐もあって朝食にしては作業のスタミナ源になるような栄養価が高いオカズがついている。
「肉類は今のうちに食べておけ。被災現場で遺骸を掘り出したら喉を通らなくなるぞ」朝食を兼ねた朝礼で分隊長の1曹が陸士たちに助言を与えると一斉に顔を強張らせた。分隊長は名寄に転属してくる前に奥尻島が津波で壊滅的被害を受けた1993年の北海道南西沖地震で現地に派遣された経験があるそうだ。
「今はまだ寒いから心配ないが、暖かくなって遺体の腐敗が始まると臭いだけで吐き気をもよおすようになる」実際、奥尻島の地震は7月12日に発生したため、折り重なって倒壊した家屋の下敷きになっている遺骸は死臭と集る(たかる)蝿の群れで探したらしい。
「兎に角、食べられるだけ食べておけ。我々の頑張りを待っている人間と仏さんが大勢いるんだ」そう言って分隊長もご飯に味噌汁を掛けて腹に流し込んだ。
「1号車、乗車完了」「2号車、乗車完了」「3号車、乗車完了」空き地にしてある朝礼場で人員掌握と編成を執った後、各中隊、各小隊ごとにトラックに乗り込んだ。車長は助手席の下で小隊長に報告し、小隊長が中隊長、中隊長が連隊長に報告する手順に変わりはない。
昨日のうちに行方不明者の捜索を担当する小隊の車両にはチェーンソーや鋸(ノコギリ)、鉈(ナタ)などの木工器材、被害復旧を担当する小隊にはショベルや十字(ツルハシ)などの土木器材を分けて積載してある。このため夕方に姿を見せたマスコミ関係者と思われる男たちを警戒して不寝番たちの重点監視地点になっていた。御巣鷹山への日航機墜落事故や阪神大震災でマスコミ各社は執拗なまでに自衛隊の粗探しを繰り広げたが、結果的に国民の絶大な支持を与えてしまった。今回はそれを阻止することを報道の目的にしているのかも知れない。
「第3連隊はこれより宮古市内の災害復興作業に向かう。先導は名寄駐屯地司令の職権で第2偵察隊に委託する。出発」早朝の明るくなりかけた空に連隊長の声が響き、続いてモトクロス式バイク特有のエンジン音が高まり、間もなく走り出した。それに続いて第3普通科連隊は閉伊川沿いを下って宮古市内向かった。
沿道の集落ではまだ6時過ぎにも関わらず倒壊を免れた家の前では道路脇に家族が出迎えている。先発した偵察隊のバイクのエンジン音で自衛隊の通過を察したようだ。笑顔で手を振る子供たちや主人の音頭で万歳している家族、深々と頭を下げる高齢者、中には手を合わせて拝んでいる老女もいる。その姿を荷台から見て隊員たちは被災者の期待に応えるべく全力を尽くす決意を新たにして互いに気合を入れ合った。
宮古市内に入った第3普通科連隊は宮古市の市街地と最も大きな被害を受けた田老地区に分かれた。一部は避難所での炊き出しや医療支援も始める。
安川3曹や森田曹侯補士の4中隊は市街地での被害復旧の担当だ。しかし、現場に出た2小隊の隊員たちは山のように積もった瓦礫に、どこが道なのかさえ判らず手を着けられないでいた。
小隊長と小隊先任、各分隊長たちは同行している市の職員と地図を見ながら作業場所を特定しようとしているが目印にする電柱や壁も倒れ、撤去する場所も見分けがつかないようだ。
「取りあえず地面が見えるまでどかしてみよう」「はい、そうですね」状況確認に来た松山3佐の指示で2小隊長が作業の指示を与えようとするが先ずは手作業から始めなければならない。隊員たちは持っていたシャベルを並べて置き、手分けして瓦礫をどかし始めた。
撤去した瓦礫はトラックの荷台に積んでいるが全てが人力だけに効率が悪い。陸士2名が荷台の上で奥に運んでいるものの次々に運び上げている訳ではないので「流れるように」とは言えない。このトラックの積載量は3か2分の1トンになっているが、瓦礫ではどの程度の量なのかも判らない。何よりも瓦礫を捨てる場所の指示も受けていなかった。
「よし、下はアスファルトだ。ここが道路なんだ」作業にかかって30分以上が経過した頃、分隊長が声を上げた。倒壊したブロック塀や散乱している屋根瓦を撤去してようやく路地の痕跡が見えてきたのだ。
「となるとこの路地は裏通りにつながっていたはずです」「距離は長いのですか」「いいえ、家2軒分ですから50メートルくらいでしょう」分隊長の声を聞いて歩み寄ってきた市の職員が確認しながら説明した。この職員の顔には疲労の色が濃厚に塗り込まれている。それでも地方公務員たちは生まれ育った土地が襲われた未曽有の大災害に身を呈して立ち向かう覚悟を決めているようだ。そんな彼らの姿に安川3曹は自衛官の服務の宣誓の文末を重ねていた。
「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、もって国民の負託に応える・・・」
東北地区太平洋沖地震2名寄駐屯地の広報紙から転用
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  1. 2019/03/11(月) 10:44:39|
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