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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1490

大震災が発生した翌日、モリヤ佳織1佐は陸上幕僚監部防衛部長から横田基地の在日アメリカ軍司令部に呼び出された。佳織にとって横田基地は志織がアメリカン・スクールの生徒だった頃には毎日通っていた慣れた場所だ。それにしても唐突な呼び出しには困惑してしまう。モリヤ1佐身は通信学校の副校長兼企画室長として年度末の報告と来年度の業務計画の策定に追われている中、この大震災に対する災害派遣が最大規模になることを予測して部隊編成の検討や通信機材の貸与などの検討にも手をつけたところだった。
「始めまして。陸幕防衛部長の晩鐘光一郎です」佳織が副校長用のOD色のライトバンで第5空軍司令部兼在日アメリカ空軍司令部、そして在日アメリカ軍司令部の庁舎につくと黒塗りの将官用の官用車が止まっていてロビーで迷彩服を着た陸将補が待っていた。その陸将補は丸顔に愛嬌がある目鼻立ちで淳之介や志織も好きだったアニメ・アンパンマンにそっくりだ。勿論、陸将補に対してそんな失礼なことは言えないんでその印象を笑顔に代えて立ち止った。
「通信学校副校長のモリヤ佳織1佐です」そう言って十度の敬礼をすると晩鐘将補は右手を挙げて応え、そのまま差し出して握手した。どうやら自衛隊式に固まった人物ではないようだ。晩鐘将補は第イラク派遣の第1陣である第3普通科連隊の連隊長だったので日本では顔と名前は知られているのだが佳織はアメリカ陸軍のCGS課程に留学中だったため知らなかった。その晩鐘将補もアメリカ陸軍の戦略大学校を卒業している。
握手を終えると晩鐘将補はロビーの隅に置いてある第5空軍や在日米空軍、在日米軍がアメリカ本国や外国政府、外国軍などから授与された盾や記念品を展示するガラス・ケースの前に移動して立ち話を続けた。普通の局線電話では話せない秘密に属する内容あるようだ。
「今日、君に来てもらったのは在日アメリカ軍から災害派遣に参加したいと言う申し出があったんだ。それを受けて私は本日付で統幕に新設された東北地方太平洋沖地震二国間危機対応チームリーダを兼ねることになった」これはニュースでは報じられていない。それにしても「日米」と呼ばずに「二国間」とアメリカを打ち消すような表現にしたのは誰なのか。少なくとも防衛省・自衛隊では聞いたことがない。
「在日アメリカ軍が災害派遣に出動するのは初めてじゃあないですか。これは歴史的な事業になりますが、マスコミ対応を間違えると禍根を残すことになりかねません」モリヤ1佐の反応の中に予防線を感じたのか、晩鐘将補は身体から発する圧力を強めて話を続けた。それにしてもこの顔は「アンパンチ」を繰り出す時のアンパンマンそのものだ。
「君も多忙であることは十分に承知しているが、この歴史的事業を成功させるために貢献して欲しい」要するに晩鐘将補は陸幕防衛部長として東京を離れることができないためアメリカ軍に精通し、太平洋軍内に豊富な人脈を持つモリヤ1佐に実務を担当させると言うことだ。
「もう少し災害派遣に熟練した適任者はいないんですか」これは日本的な謙遜と言うよりも佳織自身の経験不足に対する不安だった。モリヤ1佐は入校・留学・海外勤務が長く災害派遣は阪神大震災しか経験していない。助言者を務めるだけの知識を持っていないように思う。
「大丈夫、君はカンボジアPKOにも行っている。あの時のマスコミの執拗な粗探しを経験しているんだから今回も適切な助言を与えることができるはずだ・・・ところで君は政界進出を考えていないだろうな」そう言って晩鐘将補はモリヤ1佐の肩を叩くと2階にある司令官室に向かった。晩鐘将補と一緒にイラク派遣で活躍した加藤正文1佐は自民党から参議院議員選挙に出馬して政治家に転身してしまった。しかし、全く知名度がないモリヤ1佐が誘われているはずがなく、これはあくまでも晩鐘将補の冗談だ。
「現在、日本政府は在日アメリカ軍の災害派遣には難色を示しています」作戦会議に先立って在日アメリカ軍司令官であるウィランド空軍大将と面談した晩鐘将補は複雑な顔をして実情を説明した。隣りで聞いているモリヤ1佐は唖然としている。同盟国が救援の手を差し伸べてくれたのを政府が拒む理由が理解できない、と言うよりも被災者の救援よりも反米の政治信条をを優先する現政権の態度に阪神大震災の時の村山政権や神戸市の許し難い暴挙の数々が胸に甦ってしまったのだ。やはり「二国間」と言う用語を選んだのも政府のようだ。
「やはり現政権は我々が見ているように反米親中のコミュニスト(共産主義者)なんだね」「いいえ、ソシャリスト(社会主義者)まででしょう」ウィランド大将が皮肉に笑いながらアメリカ政府の分析を披歴すると晩鐘将補は弁護を演じる高度な皮肉で返した。
「救援に当たる人員は自衛隊では絶対数が足りませんから最終的にはお願いすることになりますが、政府は決して肯定的に評価しないことを理解して下さい」「うん、マスコミが仕事に励むんだな」やはり在日アメリカ軍も日本のマスコミの悪意をもった報道には慣れているようだ。
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  1. 2019/03/13(水) 11:59:17|
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