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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1497 (かなり実話です)

大島での「トモダチ作戦」として行方不明者の捜索と津波被害の復旧を始めたアメリカ海兵隊の作業を見て地元住民は困惑した。
この島でアメリカ軍を知っているのは敗戦後に進駐軍を見たことがある老人だけだ。複数の老人は戦争末期に学徒動員で海軍航空隊の矢本飛行場(現在の航空自衛隊松島基地)に動員されて本土決戦用の陣地を構築していたのだが昭和20年の7月14日、15日、17日と8月9日、10日に徹底的な空襲を受けたため陣地は勿論、滑走路も使用不能になった。そこにアメリカ軍の空挺部隊が進駐して来たのだが、自分たちが人力の手作業で陣地を作っていたのに対してアメリカ軍は初めて見るブルドーザーと言う機械を使って数週間かけて構築した陣地と無数の爆撃痕を数時間で埋め戻してしまった。あの時も老人たちは「戦車が来た。殺される」と怯えたものだ。
「黙祷」毎朝、アメリカ兵たちは宿舎にしている空母に見える強襲揚陸艦・エセックスから上陸すると必ず岸壁で海に向かって黙祷を捧げている。
「南無阿弥陀佛、南無阿弥陀佛・・・」最近はアメリカ軍が同時に沖で開始する捜索を見学しながら出迎えて一緒に手を合わせる島民も増えており、朝の風景が厳粛な空気に包まれている。
「ありがとうござりす」「お願いします」「けっぱって下さい」島民は黙祷を終えてトラックに乗り込む兵士たちに仙台弁で声をかけ、深く頭を下げる。
「ありがとうってサンキューって意味だよな」「お願いしますって何を依頼されたんだ」「けっぱって何だ(=頑張って)」トラックの荷台で兵士たちは顔を見合わせて言葉の意味を確認し始める。島民たちの顔は笑顔ではないが悪意は全く感じない。沖縄のアメリカ海兵隊の兵士たちは不祥事を防止するため夜間外出や飲酒、地元の人間との接触を制限されており、日本人の口から聞こえてくるのはキャンプを取り囲んだデモ隊の罵詈雑言ばかりだった。この島の人たちと沖縄で会う奴らでは同じ民族とは思えない。兵士たちは「弱者救済」と言うアメリカ人的使命感で派遣に志願したのだが、素朴な島民たちの姿を見ていると自分の判断が崇高な啓示だったような気がしてくる。
「今日はこの集落での行方不明者の捜索をお願いします」トラックは先導してきた大島出張所の公用車に続いて停車した。ここまでの道路は最初に上陸した工兵隊の手で啓開されているが、集落では津波で破壊された家屋が折り重なりながらも引き潮で海に流された痕跡もある。
「行方不明者の多くは海に流されたと思われますが、家屋の下敷きになっている場合も考えられます」職員の説明を通訳が説明すると兵士たちは納得したようにうなずいた。兵士たちは移動してくるまでエセックス艦内での教育で不用意に「ボディ(肉体=戦場や被災地では遺骸を指す)」と言う単語を使用しないように指導されていた。日本人は死亡が確定するまで生存の可能性を否定しないため「行方不明者」と表現する。だから「パーソン(人間=行方不明はミッシング)」と言わなければ通訳によっては感情を傷つける可能性があるのだ。
「今日はお前が係だ」職員の説明に続き指揮官が注意事項を与えると作業が始まる前、作業単位のうち1名にプラスチック製の大きな籠が配られた。それを見て職員が「何に使うのか」を訊くと意外な答えが返ってきた。
「遺品が見つかればこれに集めて貴方たちに預けるつもりだ」この遺品の回収は阪神大震災以降の自衛隊の災害派遣で始まった配慮で、避難していた生存者が受け取って亡くなった家族の形見とすることや遺骸が見つからない行方不明者の遺骨の代わりに墓に収められることもある。そんなきめ細かい配慮もアメリカ海兵隊は自衛隊から学んでいるようだ。
「ヒヤー・ウィ・ゴー」「レディー・セット・ゴー」「レッツ・ゴー」英語の掛け声は映画などでは尻を叩くように早口に言うが、作業では呼吸を合わせるため調子は似ている。
大男たちが倒れた家屋に圧し掛かっている屋根の骨材に取りつくと声を合わせて持ち上げる。職員たちが呆気に取られている間に太い梁は持ち上がり、別の兵士が支えにする廃材を差し入れた。
「アルバムだ」兵士たちが手作業で廃材を除去していくと倒れた本棚が見つかり、そこには数冊のアルバムが落ちていた。表紙の柄から見て子供の物のようだ。
「完全に濡れてしまっているが写真は大丈夫か」「待て、開くな」拾った兵士がその場で確認しようとするのを別の兵士が制止した。
「写真については海軍の写真班員にまかせよう」「そうだな。専門家にまかせた方が間違いない。できれば鮮明な状態で返したいからな」そう答えると兵士は籠を持っている回収係に手渡した。しかし、愛読書も全て思い出の遺品になる。これでは捜索と復旧の作業は進まない。そこが習った手順の限界のようだ。そんな兵士たちの様子を見て指揮官が無線機で連絡した。
「カーネル(1佐)・モリヤ。遺品を回収していては捜索や復旧の作業が進まないんだが」相手は知恵袋らしい。その答えは「パーソンの捜索が優先」と単純明快だった。
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  1. 2019/03/20(水) 11:03:50|
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