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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1500

大震災が発生して以降、連日招集されるようになった閣議の主役は原子力発電所を統括する資源エネルギー庁を傘下に置く経済産業大臣と被災地での活動に全力を傾注している警察の国家公安委員長、海上保安庁の国土交通大臣、そして防衛大臣になっている。
この中で経済産業大臣は官邸が直接、東京電力から説明を受けるようになっているため逆に突っ込まれることが多く場の空気を険悪にしている。一方、国家公安委員長、国土交通大臣、防衛大臣は被災地での警察、海上保安庁、自衛隊の活動実績を披歴するため、それを「内閣の危機管理能力」と自負している缶首相は妙に誇らしげに聞いている。特に日頃は無関心な防衛大臣の報告には自衛隊の意外な忠犬ぶりに満足しているらしい。
「続いて国土交通省からの報告です」杖野官房長官の進行に、経済評論家が本業の経済産業大臣を袋叩きにして工学部出身の理数系としての自尊心を癒した缶首相は少し表情を緩めた。
「昨日の海上保安庁の活躍だね」「いいえ、大震災が発生して以降、沖縄の尖閣諸島周辺海域での中国漁船の活動が活発化しています」国土交通大臣の報告は缶首相の期待を裏切った。
「昨年の体当たり事件以降」「あれは体当たり事件ではなく衝突事故だ」杖野官房長官が表現を訂正した。しかし、そのような気配りに関係なく缶首相の顔は発火寸前になっている。
「失礼しました。あの衝突事故以降、中国漁船は我が国の取り締まりを無視するようになっていますから数的に圧力を加えられるように巡視船と航空機を増強する必要があります。そうなると被災地で捜索活動に当たっている巡視船と航空機の一部を引き揚げなければなりません」国土交通大臣が報告を終えて顔を窺うと缶首相は無表情になって何かを考えていた。ここに千石前官房長官がいれば首相気取りで勝手な判断を下すのだが、杖野官房長官はそのように強権的な性格ではない。赤く充血した目で缶首相の横顔を見ていた。
「今は震災への対応を最優先しなければならない。海上保安庁も津波による行方不明者の救助と安否確認に専念するように」「つまり尖閣は・・・」国土交通大臣の無謀な確認を杖野官房長官が首相の隣りで首を振って制止した。
「次に防衛大臣が報告します」外見は温和な防衛大臣の登場で重くなった閣議室の空気が微かに和んだような気がした。ここは華々しい自衛隊の活躍を最高指揮官である缶首相の功績として持ち上げてもらいたいものだ。
「震災発生直後からロシア軍機と中国軍機による我が国領空への異常接近が続発しています」今度は防衛大臣が缶首相だけでなく閣僚たちの期待を裏切った。
「ロシア軍機はほぼ連日、定期便のように太平洋沿いを南下する偵察飛行を繰り返しています。これは太平洋岸の航空基地とレーダー・サイトの被害状況を確認している模様です。中国軍機も尖閣諸島空域を含む東シナ海での軍用機の飛行を頻発させおり、ロシア軍と連携して震災による我が国の防衛態勢への影響を確認している公算が大です」「それは災害派遣に直接の影響はないんですね」ここでも杖野官房長官が気を配った。
「対処しているのは航空自衛隊ですから人員的な影響は大きくありませんが」すると防衛大臣はここで一呼吸を置いた。「が」で切ったところに嫌な予感がする。
「今後、救難活動で航空燃料を大量に消費し続けると調達予算の問題で備蓄が確保できなくなり、緊急発進を優先しなければならなる可能性があります」防衛大臣は元自民党で雀山内閣からの留任のため素人の国土交通大臣とは違って結論を示して報告を締め括った。
「今後、ヘリコプターの必要性は益々高まるだろう。戦闘機の訓練を縮小して燃料を確保してはどうか」「パイロットには年次飛行時間が義務づけられています。何よりも車両での輸送が可能な事例にまで気軽にヘリコプターを要請する風潮は政府として自粛を呼び掛けるべきでしょう」防衛大臣の正論にその「自粛」を呼び掛ける役回りの杖野官房長官は渋い顔をした。
「国家公安委員長から報告します」海上保安庁、自衛隊と期待を裏切られ続けた閣僚たちは身構えて発言を待った。
「現在、首都圏を中心に治安の悪化が懸念されています」こうなれば被災地に投入されている警察官を削減することになるのは目に見えている。閣議室に一斉の溜息が響いた。
「特にアジアから不法在留している外国人の組織が生活物資を買い占めて被災地で高額で売りさばく商売を画策している模様です。その資金調達のために刑法犯罪にも手を染め始めています」流石の缶首相も政治が災害に対応するには綺麗事では済まない暗部が発生する事実を踏まえなければならないことを噛み締めたようだ。
「各省庁は所管業務の水準を維持しながら被災地で可能な限り最大の対応を実施できるよう組織と勤務態勢の検討を進めるように」結局、何の具体性もない指導で閣議は終わった。
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  1. 2019/03/23(土) 10:31:23|
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