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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1502

松田のようなフリー・ジャーナリストに限らずマスコミ関係者の過半数は学生時代に教授の政治批判に共鳴し、反政府活動に参加して社会の改革を自分の使命と信じているらしい。そのため自衛隊はその討ち滅ぼすべき保守政治を守る飼い犬であり、明らかに敵である。ただし、会社と言う看板を背負っている以上、手放しでフリー・ジャーナリストと言う自営業者に同調する訳にはいかない。そんな彼らは姑息で巧妙な手段で自衛隊の活躍を妨害していた。
「M日新聞の畠中です」この日も首相官邸では官房長官による記者会見が行われていた。最近は福島第1原子力発電所の事故の状況説明と放射能の影響、避難させた住民への支援に終始しているため記者たちの間にはマンネリ感が漂っている。そこに一石を投じるのが今日の戦術だ。
「実は被災地では行方不明者の捜索に当たっている自衛隊が所有者の許可も取らずに家屋を破壊して室内に立ち入っていることが問題になっているようですが、政府としては許可しているんですか」これは記事としては採用されなかった情報だが、政権中枢に投げつければ効果は期待できる。案の定、杖野官房長官は険しい顔になって黙り込んだ。
「その件については現地からの報告を聞いていないのでこの場では回答はしかねます。確かに自衛隊には警察や消防のような法的特権は与えられていませんから緊急事態とは言え活動には一定の限界があります。その点については政府内で検討して自衛隊に指導したいと思います」「それは今回に限ると言うことですか」畠中記者の追い討ちに杖野官房長官は1つ息を呑んだ。
「関係法令が改定されない限り、今後の同様の事例に適用されることになります」極めて弁護士的模範解答に畠中記者は満足げにうなずいた。本来であれば保守系新聞の記者が現実的な必要性から自衛隊の立場を擁護し、官房長官の発言に疑問を呈さなければならないのだが、質問の背景にある事態を知らないので口をつぐんでいた。
「A日新聞の鈴木です」次の質問者・鈴木は机の上にA日新聞を広げた。それは1面ではなく途中の記事のようだが、自衛隊の災害派遣の光景の写真が載っている。
「これは今日の我がA日新聞の社会面ですが、この写真に写っている自衛官たちの行為に対する疑問、と言うよりも批判の声が多数寄せられています」そこまで説明して鈴木は立ち上がると紙面を掲げながら一回りして周囲の記者にも写真を見せた。記者たちは競合する他紙の記事には目を通しているので、この写真にも記憶がある。
「この隊員たちは運び出す遺骸に対して合掌して頭を下げていますが、それは宗教的儀礼に当たるのではないかと言う声が上がっています」本当は疑問や批判の声などは全く寄せられていないのだが、この記者が反戦平和運動の取材で親しくしている護憲派のキリスト教牧師に連絡を入れて感想を求めたのだ。今回も杖野官房長官は険しい顔をしかめた。頭の中では日本国憲法が定める政教分離原則だけでなく遺骸がクリスチャンだった場合の信教の自由への侵害の判例にまで思考が及んでいるのかも知れない。
「死者に儀礼を尽くすことには問題がないとは思いますが、それが特定の宗教の作法となると死者が信仰していた宗教と齟齬が生じる可能性があります。その点は慎重にするべきでしょう。この件も自衛隊に指導します」「自衛隊にだけですか」鈴木の追い討ちは牧師から申し入れられた批判の請け売りだ。牧師は3月15日の東京都知事の「天罰」発言を「旧約聖書の説話の曲解だ」と批判しており、「ならばカミの怒りに触れて死んだ被災者の慰霊はキリスト教会が行うべきだ」と強弁していた。宗教に関心を持たない現実主義者の鈴木にはどうでも良いことだが、利用し易い協力者の意向は尊重しておいて損はない。
「判りました。中央官庁に限らず地方自治体にも周知徹底します」「自治会はどうですか。公的助成金で神社の祭礼を行っているくらいだから、慰霊行事を寺院に依頼して代金に流用するのではないですか」この粘着質な追及がA日新聞とM日新聞の社風・気質の違いだ。
「流石に自治会まで指導することには問題がありそうです。公費の支出を監視するように指導します」杖野官房長官は何とか常識の範囲で踏み止まったが、どちらの記者の質問も現場の被災者たちの意思とは真逆の方向に政府を動かしている。そこまで杖野官房長官の思考が働かなかったのは慢性的な寝不足が原因なのだろうか。
「モリヤ1佐さん、政府から公的機関の宗教行為を禁ずる指導が来たんです」業務調整のためモリヤ佳織1佐が大島出張所を訪れると所長が困り切った顔で申し出た。大島ではチャップレン(宗教士官)の慰霊ミサ以来、島内の各寺院が交代で収容された遺骸の法要を勤めるようになっており、出張所としても住民を精神的に落ち着かせる効果を実感している。
「在日アメリカ軍は日本政府の強制を受けませんから大丈夫です」モリヤ1佐の即答に所長は複雑な顔をしながらうなずいた。確かにそれが「戦時も」となると恐ろしくなる。
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  1. 2019/03/25(月) 09:32:51|
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