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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1506(かなり実話です)

4月6日をもって気仙沼市大島でのトモダチ作戦が終結する。3月下旬に強襲揚陸艦・エセックスが島の沖に停泊して以来、海上では津波に巻き込まれて漂流している犠牲者を収容するだけでなく、潜水員が浮遊している多くの建材や転覆している漁船の中を捜索してきた。
同時に先行して上陸した工兵隊は建設機械で島の主要な道路を啓開し、4月1日に主力300名が上陸すると倒壊した家屋を撤去して多くの遺骸を発見し、衛生隊が2008年の映画「おくりびと」のように処置して納棺した上、発見現場の消毒も行っていた。
さらに気仙沼市との連絡橋が崩落したため小型船で支援物資などの運搬も担ってきた。それだけでなく避難所で子供たちに野球やバスケットボールを教え、超初級の英会話教室も開催していて1週間とは思えない充実した支援を繰り広げてくれた。
「マリンコさん、帰っちゃうの」別れを告げた海兵隊員にバスケットを習っている子供たちは半ベソをかいて念を押してきた。子供たちだけでなく島民たちも海兵隊員が誇りを持って自称する「U・S・マリン・コー(アメリカ海兵隊)」をそのまま仇名にしている。
「うん、U・S・マリン・コーには命令が下れば『イエス・サー』以外の返事はないんだ」沖縄勤務で覚えた日本語なのであまり上手いとは言えないが子供たちに判るようには説明できた。
「だって『イエス・サー』って『はい、判りました』ってことでしょう。嫌な時はどうするの」「僕だってお父さんやお母さんに命令されても『嫌だ』って言うことあるよ」「嫌なことは嫌って言わないと損するよ。それでも良いの」子供たちの疑問に答えるにはこの上等兵の語学力はやや弱い。そこに日本語に堪能な軍曹が通り掛かった。この軍曹は日本人女性と結婚している。
「軍曹、助けて下さい」唐突に上等兵に声をかけられて軍曹は一瞬、怒ったような顔をしたが、子供たちに取り囲まれているのを見て状況を察して笑顔になった。
「どうした」「私の説明を日本語に通訳して下さい」歩み寄った軍曹に上等兵は懇願した。これは英語での遣り取りだが、子供たちも事情を察して軍曹の顔を注視した。
「それでお前は何と答えるつもりなんだ」子供たちとの質疑応答の説明を受けた軍曹は肝心の回答を確認してきた。確かに翻訳するのはここだ。
「『アメリカ海兵隊員の身体は忠誠心だけでできているから、国家からの命令が嫌なことはあり得ないんだ』と答えるつもりでした」上等兵の答えを聞いて軍曹は呆れてしまった。これはアメリカ海兵隊員としては模範回答だが日本人の子供たちに通じるとは思えない。むしろ高齢の祖父に話せば「上官の命令は天皇陛下の御命令」と教えていた帝国陸軍と同様なのかと誤解を与える危険がある。軍曹は難しい顔で考え込んでから頬を緩めて上等兵に話しかけた。
「子供たちが理解できるように表現を変えるぞ。良いな」「イエス・サー」上等兵の返事に子供たちは実演を聞いたような気がして顔を見合わせた。
「U・S・マリン・コーは自分の国をとても大切に思っているんだ。だから大切な国の命令が嫌なはずがないんだよ」これが子供の説明する上では模範回答だ。すると子供たちは目を輝かせて即席の精神教育の成果を口にし始めた。
「僕も大島が大切だよ」「うん、僕たちがマリンコさんが頑張ってくれた仕事の続きをやるんだ」「その時は呼ぶから見に来てね」思い掛けない子供たちの決意表明に軍曹は通訳を忘れて感動を噛み締めた。上等兵も子供たちの表情を見て意味が理解できたのか胸を熱くしていた。
「兵隊さん、有り難うござりる」避難所でも支援物資の最終便を届けに来た海兵隊員が被災者に取り囲まれていた。中でも高齢者たちは子供の頃に「ギブ・ミー・チョコレート」と叫んで追いかけていた頃を再現しているかのように周囲を固めて放さない。
「ワシらは進駐軍にも助けてもらったが、死ぬ前にもう一度、アメリカさんの世話になるとはな・・・これで太平洋の向こうのお国に足を向けて寝られなくなったわい」最高齢者は進駐軍の実像を知っているので感想が違う。確かに進駐軍は支配者として横柄に振舞っていた面もあるが、実際は戦火で荒廃していた日本の復興のための大規模な土木工事や消毒による伝染病予防などで助けられてきた。何よりも軍国主義・国粋主義の狂気が蔓延していた日本に江戸時代の庶民文化のような自由で闊達な社会を取り戻してくれた。その恩恵を一部の負の側面ばかりを強調して否定したのはソ連と共産党中国を賛美するマスコミと教育者たちだ。だからアメリカ海兵隊が来ることを聞いた島民の大半がレイプ事件の発生を危惧していたのだ。
「沖縄へ行って苛められたら何時でも帰って来なさい。大歓迎するよ」「ウチの家と畑を上げるから島の住民になりなさい」通訳抜きで一方的に話しかけられても海兵隊員には理解できないのだが、島民たちの表情と口調で親愛の情と感謝の意に満ち溢れていることは判った。
「記念にハグしてよ」いきなり老婆が抱きついてきた。この単語は誰に習ったのだろうか。
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  1. 2019/03/29(金) 11:05:29|
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