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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1509(少し実話です)

災害派遣の長期化に伴って私のところには各部隊からの法律相談が殺到している。以前であれば被災者の救助や倒壊した地域の復旧に当たっている自衛隊に対しては先ず感謝の念を抱き、自分が被った多少の迷惑には目をつぶったものだが、今回は反自衛隊活動家たちがボランティアとして現地に乗り込み、住民たちをけしかけているらしい。結局、反自衛隊の団体にとって災害派遣は国民の支持を固める宣伝活動に過ぎないのだ。
「はい、陸幕法務官室、モリヤ2佐です」今朝も8時前から電話は鳴りっ放しだ。最近は私が職場に泊まり込んでいることが知られているため、現場の方もそのつもりで掛けてくる。
「多賀城の混成派遣隊ですか」相手はやはり仙台市内で活動している多賀城駐屯地の派遣隊からだった。多賀城駐屯地は官舎も津波の被害を受けているはずだが近傍の仙台市に出動している。
現段階では道路網が復旧できていないためボランティアは津波の被害を受けた三陸の各市町村へはまだ入っておらず、被災者の数が多い仙台市に集中している。そうなると反自衛隊の活動家の人数も多くなり、下手をすれば組織的に暗躍している可能性も否定できない。
「炊き出した食事で子供がアレルギーを発症したから損害賠償しろと母親が言ってきたんですが」苦情処理を担当しているらしい第22即応機動連隊1科の総務課長の口調は妙に丁寧だ。おそらく当事者が傍にいるのだろう。それにしても子供のアレルギーを知っているのは親であり、一緒に食べていてそれを見逃したのは親の責任のはずだ。しかし、私への相談は法律上の責任と対応なので一般常識で憤っていても仕方ない。
「それで被害者の症状は入院加療が必要なくらい重篤なんですか」「それが。ひどい下痢と湿疹が出ているからアレルギーだと母親が言ってきたんです・・・医師の診断はこれからだそうです」私の質問に総務班長が答えていると電話の向こうで若い女性の声が聞こえてきた。
「だってボランティアの人が自衛隊の食事のせいだから文句を言えってうるさいんだもん」案の定だった。女性が周囲の隊員に弁明している声が続いている。
「有り難うございました」やがて電話の向こうで母親が退散する騒ぎが響き、総務班長は安堵したような声で礼を言った。ここで私が法務幹部としての仕事をした。
「ボランティアの責任者に陸上幕僚監部法務官室付の弁護士が『悪質な妨害活動を行う者を公務執行妨害で告発する用意がある』と言っていると厳し目に伝えなさい」「それは脅迫みたいですよ」「脅迫じゃあない。本気だ」私の返事を聞いて総務班長は息を呑んだ。この2等陸尉も被害を受けた官舎に家庭を残して被災者のために働いているはずだ。そんな自衛隊の献身・努力を都会から潜入する政治活動家たちから守る方策を研究するのも私の職務なのかも知れない。
電話を切ったところで国旗掲揚のラッパが響き、「君が代」が流れ始めた。昔から嫌いな歌だが、今の陰鬱な気分では鎮魂歌にしか聞こえない。今朝も朝礼には出られなかった。
「モリヤ2佐、ただいま」8日の金曜日の夜、横田基地での検証会議を終えたモリヤ1佐が顔を出した。気仙沼市大島での「トモダチ作戦」は1週間で終わったようだ。それにしても現在は民政党の代表代行になっている千石前官房長官が「アメリカ軍の救援活動を封殺するように弱みを握る缶首相を恫喝した」と言う噂が真実であるかのように新聞やテレビでは全く報じられていない。あの噂の出所はイージス艦衝突事故の裁判の取材を通じて知り合ったマスコミ関係者だ。
何にしろ時間が遅いので私たちのラブ・シーンのファンになった女性事務官だけでなく曹長、1曹も帰宅している。そうなると遠慮なく抱き締めた。
「御苦労さん、こちらでは情報が入っていないんだ。一段落したら話を聞かせてくれよ」「うん、土産話は山ほどあるわ」熱い口づけを終えた後、モリヤ1佐は佳織に戻った。
「そうそう。貴方に訊きたいことがあったんや」佳織に戻った途端に言葉が関西弁になった。私としてはこちらの方が佳織らしいので好みだ。
「ところでキンドンの気仙沼ちゃんって知ってる」唐突に難問が飛び出した。「欽ドン」は私が高校時代に放送していた「欽ちゃんのドンと言ってみよう』と言うお笑い番組で、気仙沼ちゃんは公募で出演していた素人の女の子で東北弁と音痴が人気だったはずだ。
「うん、憶えてはいるよ。丸顔の田舎娘だろう」「欽ドン」を放送していた頃、ハワイの中学生だった佳織がどうして気仙沼ちゃんを知っているのか。謎は深まる。
「その気仙沼ちゃんは大島で民宿を経営してるんや。津波で全壊したけど絶対に再建するって宣言してたよ」意外な事実が判明した。「欽ドン」の中でも海産物が美味しいことを自慢していたような気もするが、島の住人であれば当然だろう。
「でもワシは静岡ちゃんの方が好きだったな」私の返事に佳織は「静岡ちゃん」に興味を持ったようだが説明できるほど記憶はない。小柄でパッチリした目が可愛かったはずだがそこまでだ。
す・モリヤ佳織イメージ画像
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  1. 2019/04/01(月) 11:24:12|
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