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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1511

隠密仕事人の5人は陸将補の訓示に続き実務を担当するらしい3等陸佐の説明受けた。5人が集められている広い部屋を仕切っている壁カーテンを開けると会議室になっており、3等陸佐の指示で移動するとそのまま席についた。
「諸官たちも承知しているように我が国には外国人の立ち入りを制限する法律がない。したがって今回も自由に取材させざるを得ない。強いて言えば危険防止や業務への支障を理由に接近するのを制止することくらいだ」これは今回に限らず基地警備などで感じている不満で海上の陸警隊の隼人(寺田2曹)と航空の警備教導隊の小弥太(塩谷2曹)は苦々しげに鼻息を吹いた。
「自衛隊・・・としては防衛省を通じて団体行動での取材を条件にするよう要望しているが、今の政府はマスコミの顔色を優先するからどこまで実効が伴うかは期待できない」3等陸佐は自衛隊の後に無用の間を置いた。口の中で何かを続けたようだが、勘解由以外の4人には判らなかった。その防諜部隊の司令である陸将補の隣りで空軍少将は通訳から説明を聞いて険しい顔をしている。それは日本の法制度の問題よりも必要な処置を採らない政府に対する不信のようだ。
「したがって諸君たちには中国と韓国の取材陣に貼りついて怪しい素振りを見せれば威圧することで諜報活動を阻止してもらいたい。そこから先は現場の判断とする」最後のまとめは責任の回避のようだが、イギリスで教えられた軍事情報の世界での常識だ。ここで主水(山田1曹)が左門(植本3曹)に小声でささやいたので3等陸佐が指名した。
「何か疑問があるのかね」「はい、中国を警戒するのは判りますが、韓国は同盟国じゃあないですか。ここまで警戒する必要が・・・」主水が全てを言う前に勘解由(朝山3佐)と隼人が失笑したため、それに困惑した主水は左門と顔を見合わせた。小弥太は蚊帳の外だ。
「韓国は同盟国だったのは遠い昔の話だよ。今では敵じゃあなくても味方とも言えない。むしろ要警戒対象国だ」3等陸佐を遮る形で勘解由が説明した。海上自衛隊は組織として外国と対峙しているため国際情勢も直視している。その点、陸上自衛隊はPKOなどを除けば島国を天下としていた戦国武将の世界観と大差はない。ましてや陸曹は演習場と言う架空の戦場と日常生活を送る駐屯地を往復するだけなので一般社会の常識からも隔離されている。
「しかし、我々は中国語や韓国語は理解できません、彼らが自国の言葉で会話していれば内容を確認することは困難です」「大丈夫だ。そこは心強い助っ人を手配している」隼人の問題提起には陸将補が答えた。確かに自衛隊にも語学専門の部署と隊員が存在するらしいが、いくら情報要員とは言え隠密仕事人の存在を知らせることはできないはずだ。勘解由と隼人はさらに困惑を深めた顔を見合わせ直した。
「丁度、助っ人が到着する時間になった。ターミナルへ出迎えに行こう」ここで3等陸佐が腕時計を見て声をかけた。横田基地の空輸ターミナルに到着するのは国内なら三沢、嘉手納、板付の各空軍基地、それ以外は海外からの便になる。隠密仕事人に同行するのなら少なくともアジア人でなければ困る。流石の勘解由の推理力も容量を超えてしまった。
アメリカ空軍の大型輸送機・Cー17から下りてきたアメリカ軍の迷彩服を着た集団の中に一見して日本人と判る男女がいた。2人ともアメリカ軍の迷彩服を着て作業帽を被り、サングラスをかけているが、日系アメリカ人とは顎の造りが違う。
「閣下、お久しぶりです」2人はターミナルの前に立っている陸将補の前で立ち止まると挙手の敬礼をした。その動作から見てどちらも陸上自衛官のようだ。
「おう、勘解由」男性の方が3等陸佐を飛び越して勘解由に声をかけた。それはイギリスでコゴローと名乗っていた謎の隊員の1人だった。それでも握手を交わさないのはあの時、受けた教育の成果かも知れない。握手をしながら画鋲状の小型注射器で相手の掌に心臓発作を起こす毒物を接種して即死させる方法も習っている。
「菊子、元気そうだな。君のレポートを受け取っているよ」陸将補は女性と談笑を始めた。特別に親しい間柄のようだ。その女性は引き締まった細身で髪は首筋で短く刈り上げている。コゴローと同じレイバンのサングラスが面長の顔からはみ出している。
「諸君らに引き合わせよう。アメリカ陸軍の語学士官で韓国語が専門のアケチ中佐と中国語のコンダ少佐だ」再会の挨拶が終わったところで3等陸佐が2人を紹介した。これを聞いて信じた者はおそらく誰もいない。少なくともコゴローとはイギリスで接しており、コンダ菊子と紹介された女性もキャンプ富士や横須賀で会う女性兵士たちとは全く雰囲気が違う。それでもこれが今回の任務を遂行している間は2人の人格になることもイギリスの座学で学んできた。
「2人は日本語も堪能だから会話は気にしないで良い」3等陸佐の補足説明も言い訳のように感じて5人は苦笑した。しかし、このコンダ菊子からも「死の臭い」を感じるのは何故だろうか。
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  1. 2019/04/03(水) 10:59:11|
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