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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1517

午後の取材は記者団の強い要望で自由行動になった。総務省の役人は自衛隊側が取材に応じる条件としている秘密保全よりも口やかましい海外マスコミの機嫌を取って無事に東京に連れ帰ること以外に意識が働かないようだ。
「韓国の記者は間違いなく軍人ですね」記者たちの春の日差しを満喫しながらの散策が始まると廊下での喫食を監視していた塩谷2曹が立ち話をしていた朝山3佐と杉本に報告した。
「集団の中に序列と指揮系統が存在しているのは明らかで行動様式は完全に軍隊です」「取材中も隊員個々の能力や組織としての指揮機能を詳細に分析しているぞ。情報と言うよりも教育を担当している軍人のようだな」杉本も彼らの会話から察知した見解を補足した。
「確かに1人の隊員を目で追って実施している作業をチャックしながら累計の労働量を記録しているようでした。それも年齢層別にです」ここまでくると流石に唖然とするしかないが、それを見抜いた塩谷2曹の観察力にも感心してしまう。
「指揮官が何か言って振り向く隊員の人数もチャックしています」「それが指揮の基本だからな」今度は朝山3佐が相槌を打った。海上自衛隊ではこの躾けも常に騒音が響いている艦内で指揮官の号令を聴き逃すことを防ぐための工夫の1つだ。この他にも帝国海軍から「復唱」を作法として継承している。
「どちらにしろ自衛隊の戦力を調査しているんだから友好的とは言えないぞ」「確かに」朝山3佐の返事を聞いて杉本は深くうなずいた。韓国軍がここまで細部にわたって自衛隊の能力を調査しているのは、すでに開戦意思が確定しているのか、それとも韓国軍内に何か問題が発生しているのか。むしろこちらから調査に踏み込むべきだろう。それが杉本の本業でもある。
「どうせ韓国軍は団体行動でしょう。遠目に監視を継続します」「それじゃあ、俺も盗み聞きに励むか」杉本と塩谷2曹は学校の前の集落で撤去した廃材を人力でトラックに積んでいる隊員を立ち止って注視している韓国人の記者たちの後を追った。韓国軍としては廃材の重量を計って、それを何人で運搬するかで筋力を割り出したいところかも知れない。
「日本のテレビ局がいなくなりましたね」朝山3佐が片づけを終えた炊き出し要員が引き揚げた調理場で海を眺めていると松山3佐が近づいてきた。本間と寺田2曹は中国人記者の会話の聴取と行動監視に出ている。山田1曹と根本3曹は完全に分散してしまったアメリカとヨーロッパの記者たちを監視するため周囲を歩き回っている。
自衛隊は都市部の災害派遣ではマスコミの粗探しを避けるため食事も暗いトラックの荷台で済まさなければならないが、田舎では気楽に口にすることができる。松山3佐もヨーロッパ人の記者たちと通訳抜きで会食を楽しんでいた。それでも日本のテレビ局の行動には気づいていたらしい。朝山3佐は内藤1尉として上官に対する態度で答えた。
「無断で車両を調査していたので注意しました。それでバツが悪くなって退散したのでしょう」先ほどの顛末は出演者2名から報告を受けている。
根本3曹はトラックの後方に引き摺って行った男に馬乗りになると鼻を挟むようにして口を押さえ(掌を噛むことはできない)、窒息寸前に息を吸わせてまた押さえるレンジャー式の拷問を加えた。そうして意識が遠のいて行く中、「自分たちは極秘防諜組織の人間だ。名乗った以上殺す」と脅しをかけた。実際に人間を殺めた根本3曹の殺気に男は失禁して気絶した。
山田1曹は男が覗いた顔の首筋にドアを押しつけ、骨が軋むまで責めた。そして「この国を舐めていると痛い目だけではすまないだよ」と冷たく言い放って気絶させた。その後、ドアを開けて下に落としたが意識は取り戻さなかった。
2人とも気絶していたので自分たちが経験したことへの確証は持てなくなったはずだ。山田1曹と根本3曹が戻った後、ワンボックス・カーから男がトラックに向かい、苦労しながら2人を収容して引き上げるまでの一部始終を見ていたが痛快なハード・ボイルド笑劇場だった。
「ウチとしては海外記者団の取材の依頼は受けていますが、日本のマスコミは取材権の行使で押し入ってきますから自発的に消えてくれれば助かりますわ」松山3佐は相変わらず感情を見せずに本音を口にした。朝山3佐としてはヨーロッパ各国の言語を自由自在に操りながらそれを誇示することなく「趣味だ」と言い捨てるこの人物には困惑するしかなかった。
「松山、お前の仕事は現場監督なんだな。だから一緒に国家公務員試験を受けようって誘ったじゃあないか」今度は大学の同級生だったと言う総務省官僚の青木が声を掛けてきた。
「現場監督だけじゃあなくて保育士や体育の教師、食堂の親父から運送屋の社長まで兼務しているぞ。残念ながらPKOでの外交官は経験していないがな」「要するに雑用が仕事なんだ」松山3佐の説明を青木は鼻で笑った。やはり陸上自衛隊はこの人材の活用ができていないようだ。
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  1. 2019/04/09(火) 12:16:44|
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