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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1522

「今日はこの通りを片付けます。後で建設業者がトラックとクレーンで回収しますから廃材を道路沿いに積んでおいて下さい」若い職員はボランティアたちを整地だけされている売れ残りの空き地に駐車させるとハンド・マイクで説明した。どうや人数割りすることもなく参加単位で実施させるつもりらしい。これも作業中の些細な行き違いから口論に発展することを防ぐのと同時に仲裁に入る職員の負担を避けるための予防策のようだ。何にしても平成の時代の災害派遣は過剰な気配りで身体よりも気分の方が疲れる。
15人と言う大所帯のOB隊は数軒の家屋が折り重なって倒壊している区画を割り振られた。ここまでは市役所が配った杭打ち用木槌や十字(=つるはし)、柄つき鉈(=まさかり)などの道具に自分たちが持ってきたチェインソーも手分けてして運んできた。
「それでは準備運動から始めよう」作業現場に到着すると先任順=定年順1位の元3佐が声を掛け、一番若い元曹長を指名した。指名された元曹長は抱えてきたチェインソーを地面に置くと整列し始めた部隊の前に走り出た。この時も両脈処(みゃくどころ=手首)を腰につけた基本教練の駆け足の姿勢だ。ただし、基本教練の教範では「両手は自然に振る」とある。
「気をつけ」元曹長の号令に新山元群長と茶山元3佐を除く元幹部3名は一瞬戸惑った。本来は定年退官して制服を脱げば階級による序列は解消されるのだが、元幹部にとってはそれを継続できることも自衛隊OBの集りに参加する理由の1つだ。その点、茶山元3佐は定年と同時に気分は新隊員に戻っているので何の抵抗もなく列員(その他大勢)になり切れる。
「自衛隊体操、実施します」指揮官の元曹長が新山元群長に申告するとOBたちは顔を見合わせた。この元曹長は数年前まで自衛隊体操をやっていたが、退官して10年以上経過していると順番は覚えていても流石に動作は怪しくなっている。
「それでは遅めに番号を賭けますからユックリ合わせて下さい」指揮官になった元曹長の気配りにOBたちもうなずいて身構えた。整列していないので各人の間隔は体操隊形になっている。
「自衛隊体操、用意。その場駆け足の運動から」この元曹長の自衛隊体操はかなり本格的だ。
「1、2、3、4、5、6、7、8・・・」卒寿(77歳)の新山元群長と還暦(60歳)過ぎの茶山元3佐、そして元曹長たちの半分はテンポを遅らせた自衛隊体操を始めたが、古稀(70歳)を過ぎた元幹部と元曹長たちは関節が固く跳躍になっていない。
第2動作の「脚前屈腕斜上振」から第3「腕回旋膝半屈」第4「腕水平振側開」第5「首の運動」第6「片膝屈伸」第7「胸の運動」くらいまでは何とかなるが第8動作の「体の前後屈」あたりからは身体的危険を感じる。施設職種は重量物を運ぶことが多いため若い頃に痛めた腰の故障が高齢化による筋力の衰えで再発することも少なくないのだ。
「ここからはラジオ体操にします」指揮官の元曹長もOBたちの動作を見て途中で止めた。このまま続けていれば作業を始める前に半数は戦力外になるところだ。
指揮官の元曹長はラジオ体操と言うよりも膝屈伸や体の前後屈などの柔軟運動を繰り返した後、姿勢を正した。本当は自衛隊体操の象徴である第12「統制運動」と第16「開脚跳躍」を加えたいところだが無理はさせられない。
「自衛隊体操18番から。腕前上脚後振。1、2、3、4・・・」結局、無難にまとめたところで次級者である元3佐が作業分担を指示して撤去作業にかかった。
「閣下まで手を出す必要はありません。安全な場所で作業を監督していて下さい」新山元群長が元曹長たちと一緒に倒壊した家屋のスレート式の屋根瓦を取り外し始めると元1科の元1尉が慌てて声をかけた。その後ろでは茶山元3佐を除く元3佐たちが困惑した顔で見ている。元3佐たちは現役時代と同様に現場監督になるつもりらしい。
「いくら私が高齢者だからと言って見学するだけだったら現場には来ないよ。これでも施設職種だったんだから施設基礎作業ぐらいは習っているんだ」新山元群長は説明していても作業の手は止めない。防衛大学で土木建築を専攻した新山元群長は卒業後には施設学校で施設基礎作業も経験している。その点、部内出身者は1選抜で陸曹、幹部になっていて陸士を3年9カ月、陸曹は4年経験しているの昔取っていた杵柄は実用だったはずだ。それを目の前で元曹長たちの先頭に立って動き回っている茶山元3佐が証明している。
「船頭は5人も必要ないな。ワシらも作業員になろう」「体が動く限り頑張るぞ」「無理はしないで下さいよ」元3佐2人の決意表明に3尉候補者=特幹出身の元1科の元1尉が注意を与えた。
「重材料運搬、腕に」「1、2。思ったほど重くないな」「今の建材はそんなものだ」「強度は計算してたのかね」施設職種の熟練者たちの手にかかれば倒壊した家屋は迅速に建材になった。その運搬の施設基礎作業で土木工学の見解が混じるのは元幹部なので仕方ない。
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  1. 2019/04/14(日) 12:28:21|
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