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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1539

私は仙台市内に続き、マスコミと弁護士の後追うように石巻市に向かった。足立2曹は私の専属になったようで今回も早朝に迎えに来て各所で民間業者による復旧作業が行われている道路を北に向かった。今回は統合任務部隊の指揮下には入っていないが周辺地域にマスコミが出没しているらしい航空自衛隊の松島基地に立ち寄ることになっている。
「鉄道はまだ開通していないみたいだね」やはり太平洋に近づくと津波の被害は凄まじく市街地があった地域も瓦礫の山と化していた。国道とは着かず離れず並走している線路に列車が通過しないのを見て私が相変わらずの所見を述べると足立2曹は前を向いたままうなずいた。
「仙石線は全線電化されていますから電力が回復しないと無理なんです。3月下旬に仙台市内の路線が部分復旧しましたが4月7日の大きな余震で不通になってしまいました」4月7日の余震については気仙沼大島にいたモリヤ佳織1佐からも聞いている。ただし、モリヤ1佐はアメリカ軍の上陸強襲艦・エセックスに乗っていたので上陸していた隊員から聞いた話だった。
「JR東日本は架線に雪が積もると保線に人手と経費がかかるから東北地方のローカル線はディーゼルにしていると聞いてたけど仙石線は電化してたんだね」「だから石巻の人間は仙石線の駅を電車駅、その他のローカル線の駅を汽車駅と呼んで自慢していたんです。それが裏目に出ました」裏目と言う表現が適切なのかは難しいところだが、確かにディーゼルであれば線路の復旧が終わればそれだけで路線も開通できるはずだ。
「ここからが東松島市です。松島基地に向かいます」足立2曹は広報官として入隊希望者を松島基地に連れて行くことがあるようで風景が変わっていても位置を確認して説明した。私にとって松島基地は浜松基地で墜落事故を目撃したブルー・インパルスの母基地であり、第83航空隊司令だった生越ドラゴンが定年を迎えた基地でもある。久しぶりに航空自衛隊の基地の空気は吸えるが呼び出された理由が気になって浮かれることはできなかった。
第4航空団では到着すると基地司令に挨拶し(申告ではない)、その後は法務官としての業務を所管している監理部長の2佐と防衛部の運用班長の3佐が対応に当たった。部長室の応接セットの隣りに画像装置を設置し、大震災発生後の第4航空団の対応の説明に熱弁を揮うが、その大半は津波の被害の詳細な説明に終始していた。
「あれほど大規模な地震ですから津波が襲来することは予測できましたが、人員掌握と施設の被害確認に時間を要して滑走路の亀裂等の確認までは・・・」「したがって司令は人命優先を決意されて避難を命じられたのです」2人は第4航空団が保有する複座型Fー2戦闘機を全て津波で失った理由を詳細に説明した後の結論は掛け合いにした。どうやら結果的に巨額の損失を出した判断が法的に問題ないことを私に認めさせたいらしい。おそらく門外漢の陸上自衛官であれば航空自衛隊の専門用語を並べれば煙に巻くのは容易いことと考えているようだ。
「司令は人命と防衛力の維持のどちらを優先するべきだとお考えだったのですか。第4航空団は航空教育集団隷下の教育部隊とは言え複座型でもFー2は戦闘機でしょう。震災の被害に乗じた我が国への侵攻の可能性を考えれば、その損失の回避は最優先事項ではないですか」思い掛けない見解に2人は顔を見合わせ、目で相談してから運用班長が口を開いた。
「航空機が離陸する時は高速度を出していますからわずかな凹凸でも重大事故につながります。飛行前点検も全機となると30分以上は必要です」「それは平時の話でしょう。緊急事態であればランナップは省略してエンジンを起動してパイロットが乗り込んだ機体から発進させればかなりの機数がテイク・オフ(離陸)できたはずです。ラン・ウェイ(滑走路)の安全確認も飛勤隊(飛行場勤務隊)のフォロウ・ミー・ジープ(先導車)を走行させるだけで十分でしょう。必要であればタクシー・ウェイ(誘導路)からのテイク・オフも加えれば助かった機体はさらに増えます」素人のはずの陸上自衛官の口から業界用語が連続発射されて運用班長は唖然として動かなくなった。すると監理部長が反論してきた。
「要するに我が4空団の対応は間違っていたと言うんですか」この質問に「過失責任があるのか」と言う確認があることは判っている。
「人命優先を金箇条にしている日本の国内法では過失責任を問われる可能性は低いでしょう。しかし、緊急事態に隊員に任務からの離脱を命じて多くの戦闘機を喪失させたのですから日本に軍事法廷があれば間違いなく有罪です」私の説明に2人は再び見合って深刻で複雑な顔をした。
「司令に人命を奪う危険を伴う命令を下させることは余りにも酷ではないですか」「それが上に立つ者の責任じゃあないですか」私の反論に2人は浪花節を聞くような白けた顔をした。
「私もこの手で3名の人命を奪いましたよ。元殺人事件の刑事被告人ですわ」そう言って両手を広げて突き出すと2人はようやく私の過去に気づいたようで顔を強張らせてうつむいた。
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  1. 2019/05/01(水) 11:41:41|
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