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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1540

津波での対応を私に徹底的に批判された監理部長は女性事務官にコーヒーのお代わりを持ってこさせて間を置くと運用班長に基地周辺での救援活動の説明を始めさせた。
「松島基地は市街地での捜索活動を円滑に実施するため基地からの流出物を回収すると言う理由で市民に協力を呼び掛けています」要するに陸上自衛隊の災害派遣部隊が直面している私有地への無断立ち入りの問題を防ぐため事前に同意を獲得する知恵を絞ったつもりのようだ。
「基地から流出した官物の捜索であれば公務の執行にはなる」「それを拒否すれば公務執行妨害です」私の独り言に運用班長は自慢げに補足した。どうやら知恵袋はこの3佐のようだ。
「それは少し違うな」「えッ・・・」私の指摘に運用班長は困惑した顔を監理部長に向けた。そこで手短に法律講座を開設することにした。
「公務の執行を妨害する罪は刑法第5章に規定されていますが、貴官はその第95条の『公務執行妨害及び職務強要』のことを言っているのでしょう。次の第96条の各項は『封印等の破棄』『強制執行妨害』『競売等妨害』ですから該当しません。第95条には『公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は3年以下の懲役若しくは禁固又は50万円以下の罰金に処する。公務員にある職務をさせ、若しくはさせないために、又はその職を辞させるために暴行又は脅迫を加えた者も前項と同様とする』とあります。つまり協力要請を拒否することは正当な権利であって、警察の捜査令状のように法的手続きを踏んで強制権を付与されなければ犯罪とすることは無理です」この条文は災害派遣部隊からの法律相談で説明することが多いため暗記していたのだが、全文を記憶していると思ったらしい監理部長と運用班長は感心したように溜息をついた。
「それでも虚偽説明にならない程度に臭わせて圧力を加えるくらいは合法と違法の境界線でしょう。指摘されれば『えッ、そうですか』ととぼけられる範囲でね」先ほどに比べれば指摘が甘いので監理部長と運用班長は安堵したように苦笑いを見せた。
「それにしてもこの対応は下甑事案を思い出させますね」「下甑島の不法入国者の事案をご存知なんですか」私の所見に運用班長は驚いたような声を上げた。下甑事案とは海が荒れて連絡船が止まっていた1997年2月3日の早朝に鹿児島県の下甑島にある釣り客相手の民宿に日本語を話せない男4人が現れたことから不法侵入事件として大騒動になった事案だ。当時、韓国では北朝鮮のスパイを潜入させるための潜水艇が座礁しているのが見つかり、軍や武装警察が出動しての大規模な捜索の結果、銃撃戦も生起しており、島民からは下甑島に所在する航空自衛隊のレーダー・サイトの出動を期待する声が高まった。しかし、平時の自衛隊には戦闘行為は言うまでもなく逮捕権はおろか捜査のために私有地に立ち入る権限さえも認められておらず、ハイキングや海水浴と同様の野外訓練の一般命令を切り、丸腰で消防団の後を付いて回っただけだった。それでも東京のマスコミは「自衛隊が出動」と批判報道を始めたが、下甑島には駐在所の警察官が2名しかいない実情と島民の「自衛隊の対応に失望した」との声を聞いて報道を止めた。今回の流出物の回収もわずかな権限内で悪あがきする苦肉の策と言うことだ。この無念の歯噛みと知恵を絞り切った苦労には深く同情するしかない。
「やはり缶政権が非常事態を宣言して災害派遣する自衛隊の職務権限の拡大と私的財産権の制限を時限立法するべきなんだ」「それにマスコミの立ち入り制限も加えてもらいたいな」私の政府批判に常識の体現者であるはずの監理部長が同調した。やはり現場の部隊は事態を放置しながら制限ばかりを連発してくる缶政権と粗探し=妨害以外の役割を果たしていないマスコミに対する不満をかなり蓄積させているようだ。
「ところでモリヤ2佐はどうしてそこまで空自の内情に詳しいんだね」時計を見て次の予定がある私が話を終えようとすると監理部長が質問してきた。隣りで運用班長も身を乗り出して私の顔を見ている。日本の防衛大学校は陸海空共通の士官学校なので陸上の幹部が航空に詳しくても不思議はないはずだが、それが自衛隊の現状らしい。
「私の義父はアメリカ空軍の元パイロットですから空軍時代の話はよく聞いています」「それでは奥さんはアメリカ人なのかね」2人の目には妙な好奇心が点った。
「いいえ、日系3世ではありますが、帰国子女として陸上自衛隊に入っています」「若しかしてモリヤ佳織1佐かね。トモダチ作戦で自衛隊との調整窓口になっていた」「妻をご存知ですか」意外な展開で話が長引きそうになったがそこは決然と立ち上がった。
「Fー2の甚大な損失も隊舎などへの自然災害による被害の中に加えられるよう上手く処置されますことを弁護士としてご助言申し上げます」帰り際の挨拶で司令に率直な所見を述べると立ち合った監理部長は苦虫を口一杯頬張ったような顔で天井を見上げた。
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  1. 2019/05/02(木) 11:22:50|
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