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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1541

営業を再開していた松島基地の売店で昼食を取った後、次の目的地である石巻市に向かった。東松島市と石巻市は松島基地の滑走路の東側エンドを流れる鳴瀬川が境界線だ。
「モリヤ2佐、またお地蔵さんが倒れていますよ」防波堤の橋からの坂を下りながら足立2曹が前方に倒壊している地蔵堂を発見した。
「あれは街道の安全祈願か、水害の犠牲者を弔った地蔵さんだな」この他にも石地蔵を建立するには色々な発願があるが、それは現佛(げんぶつ=「物」ではない)を確認して判断する。
「六地蔵さんがなぎ倒されているじゃあないか」おそらく鳴瀬川を逆流してきた津波が橋で遮られて堤防を超え、道路沿いに流れ落ちた水で六地蔵が将棋倒しになったようだ。比較的新しい石地蔵のため低い石積みの台から倒れても首は折れていない。石地蔵は長年野晒しにされていると石が劣化してわずかな衝撃で首が落ちてしまうことも珍しくないのだ。
「それにしても震災から1カ月近く放置してあるなんて地元の人は何をやっているんだ」街道沿いの石地蔵を倒したままにしている地元民の不信心に多少の憤りを感じたが、周囲を見渡すと民家は全て屋根を残して破壊されており人の気配がなかった。
「前から不思議だったんですが、どうして地蔵さんは6人組なんですか」今回も2人で慎重に1体ずつ起こして台に立てていくと足立2曹が質問してきた。私は寺の孫なので佛教の知識は自然に植えつけられているが、親と2世帯の家庭環境で育った在家の人間は信仰心を持つ以前の基礎知識が欠落しているのかも知れない。
「この6体を六地蔵、チーム・シックス・ジゾ―と言うんだ。この世は天道、人道(にんどう)、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄の6つの世界に分かれていて地蔵さんはそれぞれの世界に在って苦しむ者を救って下さるんだよ」「ふーん、天国と地獄はよく聞きますけど阿修羅、畜生、餓鬼もセットとは知りませんでした」この理解には幾つか誤りがある。佛教の天道とキリスト教の天国は似て非なるものだ。阿修羅は個人名であって争いを好む者が堕ちる三悪道ではない。
基礎知識を教えたところで6体を立て終わり、前回と同様に供養の読経の準備を始めると足立2曹がさらに補習講座を要求してきた。
「何だか形が違うようですが、やっぱり担当部署で別れているんですか」使っている用語は不適切だが意味は通じる。そこで祖父から習った知識を何とか絞り出して詳細に解説した。
「この左手に宝珠を持って右手は説法の印を結んでいるのが天道の大堅固預天加地蔵尊、左手に錫杖、右手は与願の印を結んでいるのが人道の大清浄放光王地蔵尊、左手に金剛の旗、右手は施無畏の印を結んでいるのは修羅道の清浄無垢金剛幢地蔵尊、左手に錫杖、右手は引接の印は畜生道の大光明金剛悲地蔵尊、左手に宝珠、右手は甘露の印は餓鬼道の大徳清浄金剛宝地蔵尊、そして左に錫杖、右に宝珠を持っているのが地獄の大定智悲金剛願地蔵尊だ。地域や石工の都合で形は違うことがあるがそんなところだな」、私の解説は祖父からの請け売りなので根拠不明だが、最近の石工は個人的な美的センスと工作の容易さで形を変えてしまうことが多いと言う。ただし、この六地蔵さんが私の説明と合致しないのは地域特性の方だろう。
「自衛隊さん、どうしました」その時、路側帯の業務車2号の後ろに停車したワゴン車から男性が声をかけてきた。後部ドアに宮城県と書いてあるところを見ると県の職員のようだ。
「この地蔵さんが倒れていてはこの地区に安全と復興の加護が及ばないと思いまして復旧しました。これから法要を勤めるところです」私の説明に県の職員は最初に訪れた避難所の受付の仙台市の女性職員のような顔をした。つまり同じことを言いたいようだ。
「私は副業で坊主をやっていまして、これは自衛官ではなく坊主としての私的行為ですからご心配なく」そう言って帽子を撮り、剃り上げている頭を見せると県の職員は困惑した顔で黙った後、意外な話を口にした。
「そう言えば数日前、仙台市内の石地蔵の前でお経を詠んでいませんでしたか」「はい、勤めました」「同じ日に仙台市内の避難所で念佛供養をやったでしょう」「はい、勤めました」この県の職員はどちらも目撃したのだろうか。私は一歩踏み出すと確認のため顔を注視した。するとその視線に困った県の職員は事情を説明してくれた。
「インターネットの震災関連の動画サイトに投稿されていましたよ。投稿者は感動実話のつもりのようで閲覧者もそう受け取っているようですが、マスコミが取り上げるとどのように変質されるか判りません」確かにそれが現代社会の恐ろしさではある。
「今の缶政権はやったことの善悪・是非・適否ではなく自分の命令に服従しなかったことを問題視するはずですから、これは楽しみですね」私としては違法ではない行為にまでマスコミが独断で批判報道を加え、政府に制限・禁止を迫っている現状を糾弾する場を獲得したいのだ。
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  1. 2019/05/03(金) 12:21:26|
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