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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1546

数日後、仙台駐屯地の統合任務部隊司令部に島田元准尉から電話があり、再び仙台FMを訪ねることになった。毎日の番組を抱えている島田元准尉は今夜も小会議室でタイム・スケジュール表を作っていた。それにしても元自衛官とは言え年齢を考えると健康が少し心配になってくる。
「モリヤ2佐、前回の選曲は中々好評でしたよ。亡くなった奥さんの愛唱歌と言うリクエストでしたけど若い頃の恋愛を思い出したと言う反響が大きくて追悼番組から一歩踏み出せました」島田元准尉は激賞してくれるが、私自身も若い頃の恋愛の思い出の曲だ。
「今回もフォーク・ソングですか。私も聴きたい歌は山ほどありますよ」災害派遣にはCDラジカセは持って来ていないので、私はそろそろBGMの禁断症状が出始めている。
「そちらもお願いしたいんですが、今日は幹部候補生学校隊歌係を見込んでの相談に乗って下さい」私は前川原の幹部候補生課程では隊歌係として朝礼前に同期に隊歌や軍歌を教えていた。それを島田元准尉が知っているのは妻のモリヤ1佐、あの頃は伊藤佳織3尉が部隊で披露したからだろう。私も善通寺ではやらなかった隊歌演習を佳織は守山でやっていたらしい。
「実は高齢者から亡くなった夫が好きだった軍歌のリクエストがかなり届いていて、局としても無視できなくなっているんです。ところが日本の放送業界では軍歌は自主規制の対象になっていて放送できないと来た」日本にも放送禁止の楽曲があることは聞いているが、それは猥褻な歌詞や差別用語が含まれる歌、そして極端に扇動的な革命歌だと思っていた。あえて軍歌を放送する必要は感じないものの禁止することにも納得できない。嫌ならスイッチを切れば良いのであって自主規制などは必要最小限にするべきだ。
「そこで『軍国歌謡なら自主規制に該当しない』と説明して上層部の承諾を得たんです。実は可児市でも同じ手を使いました」「なるほど。今の日本人は軍歌と軍国歌謡の違いが判っていませんからね」軍歌とは「抜刀隊」や「軍艦」「敵は幾万」などの帝国陸海軍が将兵の精神教育や士気発揚を目的として制定した楽曲や「加藤隼戦闘隊歌」に代表される部隊歌のことで、昭和になって軍部主導で流行させた軍国歌謡とは区別されることもある。ただし、明治・大正期には「戦友」や「雪の進軍」「勇敢なる水兵」などの戦場の情景や軍隊生活を唄った流行歌を兵士が愛唱するようになったことで軍歌に準ずる扱いを受けた楽曲も少なくない。
「と言う訳で今後は軍国歌謡を戦前の歌の中に加えることにしました」そこまで説明して島田元准尉はリクエストが届いている軍国歌謡のメモを見せた。すると「軍歌特集」と銘打っているレコードやCDに収められている曲の大半が並んでいる。つまり今では軍歌と軍国歌謡の区分は不可能に近く、必要も特にないと言うことだ。
「今回は何が良いと思いますか」「あまり悲壮感が強過ぎる曲や死を期待するような歌詞のモノは避けたいですね」私の意見に島田元准尉もうなずいた。
「それにしても戦時下とは言え家族が出征しているのに『死んで帰れ』『よこぞ死んでくれた』なんて歌のレコードが売れたんですけな」「確かにそれは疑問ですね」戦時下と言え本気で息子や夫の死を願う家族がいたはずがない。いたとすれば国家神道の洗脳が狂気を生んだのだ。
「そうなると『麦と兵隊』と『梅と兵隊』に『愛馬進軍歌』『空の神兵』『ラバウル小唄』くらいですね。東北は畜産家出身の輜重兵が多かったらしいですから『愛馬進軍歌』はどうでしょう」この歌はリクエストとしては少数派だが、子供に聴かせても気に入ってもらえる曲調だ。
「実はもう1つ、相談があるんです」私の意見をメモして島田元准尉は話を続けた。フォーク・ソング、軍国歌謡以外で私が得意・特異なジャンルは沖縄民謡と御詠歌・讃美歌くらいだ。
「被災者からは作業に汗を流している自衛隊を激励する歌の依頼が集っているんです」「軍歌ならぬ隊歌ですね」軍歌は自主規制の対象でも隊歌は存在そのものを無視されているはずだ。確かにこの分野の相談相手は私しかいない。
「でも隊歌の大半は部隊歌ですから共通して激励になるような歌はあまりないでしょう。強いて言えば『この国は』『君のその手で』『理想の歌』『若鳩の歌』くらいですかね。あとは『ひそかな祈り』『男の群れ』もあるけど駄作ですよ」これは自衛隊創立10周年などを記念して制定した隊歌だが、今では聴くことがなく、唄える現役の隊員は絶滅したのではないか。ところが警察予備隊組の島田元准尉は乗り気になってしまった。
「流石はモリヤ2佐です。問題は音源ですが、地連、今の地本にならありますかね」「地本か駐屯地の渉外室にならあるでしょう。しかし、残念ながら今の隊員は知りませんよ。『この国は』は名曲なんだけどな」私の嘆き節に島田元准尉も渋い顔で考え込んだ。
「そう言えばモリヤ2佐が伊藤3尉に捧げた映画の主題歌があったでしょう」「ゲッ」我が妻はそんな歌まで披露していたようだ。結論は「野性の証明」の主題歌「戦士の休息」になった。
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  1. 2019/05/08(水) 11:32:00|
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