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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1547

足立2曹と「同行二人」での宮城県内の自衛隊が災害派遣されている被災地への遍路は終わった。次は岩手県内になる。しかし、太平洋岸の道路や鉄道は復旧しておらず、盛岡市に向かう国道4号線を起点にして岩手県の山間部を抜けて海辺まで出なければならない。こうなると日帰りは無理なので仙台駐屯地業務隊で借りた個人天幕と寝袋で足立2曹と野営になる。
「先ずは気仙沼大島ですね。ここは在沖縄アメリカ海兵隊がトモダチ作戦を実施したんですよ」朝一番で出発して一関市で進路変更して東に向かう車内で足立2曹が唐突に説明を始めた。
「そうみたいだな。幕(ばく=陸上幕僚監部)でも概略は聞いているよ」本当は私には参加者からの現地「生」情報も入っているのだが、秘密区分が判らないので適当に誤魔化した。
「統合任務部隊からの命令で幹部の広報官が事前説明に行ったんですが島民の拒絶反応は激烈でした。『沖縄みたいな性犯罪が起こるんじゃあないか』って使える女性を隔離することも真剣に考えていたようです」この「使える」とは「性行為の対象として」と言う意味だが、敗戦後の映画や小説、漫画などで占領軍の兵士による性暴力が誇張して描かれ、さらにマスコミの沖縄での海兵隊員による犯罪の過大報道が重なって、本来は規律厳正であるアメリカ海兵隊員が凶悪な犯罪者の集団であるかのように思われていたようだ。
「ところが撤収後に入った広報官が聞いた話では、今回は自衛隊的な配慮が行き届いた活動だったそうで、島民は漏れなく海兵隊ファンになっていました」どうやら足立2曹は単にアメリカ海兵隊によるトモダチ作戦を賞賛したいようだ。私としては自衛隊的な配慮を行き届かせた人物を自慢したいところだがこれも胸に封印した。
気仙沼市の大島出張所には事前に連絡してあったため渡船から島内での案内まで行き届いていて順調に現状確認は終わった。
「それでは相変わらずマスコミは入っていませんか」最後に気仙沼大島の出張所で話を聞くとアメリカ海兵隊によるトモダチ作戦終了後もマスコミは取材に入っていないようだ。
それは民政党の千石代表代行の意向を受けた缶政権がマスコミ各社に協力を求めたのらしいが、ここまで綿密に処理する能力があるのなら他に使ってもらいたいものだ。ただし、現場で粗探しに励み、火のないところにワザワザ放火して黒煙を立てるだけでなく、弁護士まで送り込んで訴訟に勧誘する連中が立ち入らないことはアメリカ海兵隊の活躍が周知されない無念さの一方で安堵もできる。
「ところでモリヤ2佐さんはアメリカ海兵隊の顧問をしていたモリヤ佳織1佐さんのお知り合いですか」話が終わったところで出張所長が最初に私が手渡した名刺を確認しながら質問してきた。今回は運悪く足立2曹は隣りに座っていて当然、覗き込むようにして私の顔を見ている。こうなると佛戒の不妄語戒(嘘をつかない戒律)を保つしかない。
「はい、妻がお世話になりました」私が素直に認めると3人の間の変に張りつめた空気が緩み、何故か揃って溜息をついた。
「モリヤ1佐さん・・・奥さまは非常に優れた方で、日本人とアメリカ人のどちらの感情や思考方法も熟知していて絶妙の整合を図っておられました」誉めてくれるのは有り難いが、階級に「さん」を付けるのは返事をするタイミングを外してしまうから止めてもらいたい。ここでモリヤ1佐が「帰国子女だ」と種明かしするべきかと思ったが個人情報の公開は控えた。
「ところでモリヤ2佐さんはお坊さんなんですか」最近の地方公務員は市民の苦情を避けるため、業務上必要な質問まで遠慮がちにする傾向があるが、この島では役所と市民の距離感が近く気楽に立ち入って来られるらしい。
「はい、見た通りのテンプレン(従軍坊主)ですよ」「なるほど・・・」私の造語が理解できたのかは不明だが所長は妙に納得した。
「マリンコ(海兵隊員)たちが島に上陸する時、波止場の岸壁に整列して犠牲者に黙祷を捧げてくれたんです。それを見て島民は本当に感激して彼らを信頼するようになりました。今日、モリヤ2佐さんが島の各地で供養を勤めておられる様子を見て、あれも奥さまの助言だったのかなと思ったんです」「それは違いますよ。常に生死をかけた任務を遂行している海兵隊には陸海空軍よりも強い死者に対する畏敬の念がありますから彼らの自然な行動だったんでしょう」私はこの件についてはモリヤ1佐から説明を受けていないので、妻の手柄にするよりも海兵隊への信頼に結びつけることを選んだ。実際、ベトナム戦争当時の日本では海兵隊の残虐行為が報道されていたが、大半は韓国軍の蛮行の後始末に入った海兵隊員たちの姿だったのだ。
「今回のトモダチ作戦のおかげで東北の田舎の離島の住民に国際性が芽生えました。奥さまにもよろしくお伝え下さい」所長の言葉にナニは起たない私も心だけモリヤ佳織1佐に捧げ銃した。
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  1. 2019/05/09(木) 11:19:07|
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