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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1548

次の目的地・陸前高田市は岩手県なので県境をまたぐことでかえって道路が整備されているようだ。気仙沼からも海岸沿いの道路は不通でも内陸に入れば連絡路的な道路がある。このため今回は気仙沼大島では宿泊せず陸前高田の自衛隊の宿営地に間借りすることにした。
陸前高田市も大規模な津波に襲われ、市街地は全家屋8069軒のうち4063軒が被災し、そのうち3081軒が全壊と言う壊滅的被害を受けた。そのため倒れずに残った「奇跡の一本松」が全国に知られることになった。
陸前高田から大船渡、釜石、大槌町などの太平洋岸には八戸駐屯地の所在部隊が派遣されている。ただし、部隊単位ではなく第9施設大隊の機械力を分散投入して、それを中核に他の部隊が人力で作業に当たる形を取っているようだ。
「あれ、モリヤくんじゃあないか」宿営地には事前に連絡しておいたおかげで糧食班は2人分の夕食を取っておいてくれた。それを足立2曹と一緒に炊事天幕でいただいていると懐かしい人物に声をかけられた。それは茶山元3佐だった。
「これは茶山中隊長、ご無沙汰しています」私は立ち上がるとその場で敬礼した。茶山元3佐は今では使用していないOD色の作業服を着ていて懐かしさを全身から発散している。私が立っていると足立2曹が食事をできないので向かい合って腰を下ろした。
「もしかして自主災害派遣ですか」この服装を見れば復興ボランティアであることは一目瞭然だが、年齢的に予備自衛官ではないので部隊行動に参加することはできないはずだ。
「うん、船岡の施設OB部隊で被災地復興の手助けしているんだよ。名取市から始めて北上している間に県境を越えて里帰りしたんだ」考えてみれば茶山元3佐は岩手県人だ。通信OBの島田元准尉がラジオ放送で活躍していることにも感心しているが施設OBの現場復帰には驚嘆すら覚える。やはり糖尿病による食事制限=慢性栄養失調で衰弱している場合ではない。
「私は八戸で入隊したから後輩たちの仕事に参加することができて初心に返った気分で張り切っているよ」茶山元3佐は相変わらず少し岩手訛りが入った口調で説明した。炊事天幕は自家発電の裸電球なので薄暗い。その頼りない明りに照らされた茶山元3佐は白髪混じりの頭や目尻や額の皺も目立たず、本当に新隊員・茶山2士のように見えた。
「参加者は何人なんですか」「始めは15名だったんだが、年齢順に継続不能になって今回は8名、私が最高齢、最先任の指揮官なんだよ」それは仕方ないことだ。残念ながら防衛省・自衛隊は災害ボランティアに参加したOBの過労死を殉職扱いにはしないはずだ。
「毎日、土木作業に参加しておられるのですか」ここで食事を再開した私に代わって食べ終えた足立2曹が質問した。何となく私に対してよりも言葉遣いが丁寧なようだ。
「OBの中には昔取った杵柄を揮いたがっている者も多いが部隊に断わられてしまってね。今は部隊からの要望で海岸線の捜索を実施しているよ」これは適切な作業配分だ。陸前高田市としては津波で海に引き出された行方不明者を放置する訳にはいかず、その一方で宿泊施設が確保できない現状ではボランティアを要望することもできない。それで自衛隊に期待したくても復旧作業で手一杯なのは判っているから「余裕があれば」と言わざるを得なくなる。そこに登場した施設OB部隊は願ったり叶ったりの渡りに船なのだ。
「やっぱり遺骸を見つけることがありますか」裸電球だから判らないが足立2曹はおそらく顔を青褪めさせて質問した。足立2曹は石巻市での心霊体験以来、この手の話に怯えるようになっている。これも心的外傷症候群と診断されれば公務災害になるかも知れない。
「そのために捜索しているんだからね」茶山元3佐は無表情に答えた。丸顔で目が小さい茶山元3佐が無表情になると石地蔵に見える。思わず手を合わせたくなったが、それを察したらしい足立2曹が墓穴を掘るような質問をした。
「遺骸を見つけると本人の幽霊がお礼に来るって聞きますけど・・・」「うん、相棒たちは見たって言うが私は見られないんだ」これは実際にある話で、寺の住職だった祖父は葬式の夜に死んだ本人が挨拶に来て色々な世間話をしていた。
「どうして見られないんですか」「子供の頃から『幽霊がいる』って友だちが怖がっても何も感じないんだな」茶山元3佐の説明に足立2曹は羨望の眼差しを向けた。ここで食事を終えた私も話に加わった。これこそ足立2曹を墓穴に突き落とす話題だ。
「仲間の方たちに中途半端な供養はしないように伝えて下さい。下手すると供養を期待して死霊が殺到してくる危険があります。朝まで念佛でも唱えながら無視していれば諦めます。必要なら私が正式に供養を勤めましょう」茶山元3佐は真顔でうなずいていたが、私の隣りで足立2曹はそれこそ死人(しびと)のように青ざめて硬直していた。
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  1. 2019/05/10(金) 12:02:01|
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