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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1551

次の目的地の大船渡市は陸前高田市からは峠を1つ越えるだけだ。八戸からの災害派遣部隊はこの両地域を一体化して復興するため全力を投入して道路を復旧したらしい。その点が第9施設大隊を要する八戸駐屯地の強みだったようだ。
「中隊長はいつまで陸前高田におられる予定ですか」海岸で亡くなった漁師と市民の供養を勤めた後、通行可能な道路に停めてきた業務車2号に戻る私たちを見送ってくれた茶山元3佐に今後の予定を訊ねてみた。宮城県内から始めてここまで北上してきたことは聞いているので、次が大船渡市、その後は釜石市、山田町、宮古市になるのなら現地部隊に事前情報として伝えておこうと考えたのだ。
「うん、基本的には中2日の1週間単位で行動しているよ。年をとると疲れが抜けなくて脱落者が続出しているんだ。それでも岩手県内の惨状を話せば復帰する人も出るんじゃあないかな」茶山元3佐は自信あり気な口調で期待を示した。確かに岩手県三陸のリアス式海岸の津波被害は想像を絶している。松島基地でも「隊舎の2階は水に浸かった」と言っていたが3階の屋上までは届いていない。これから向かう大船渡市や釜石市も地図で見る限り、同様の地形なので市街地の深部まで徹底的に破壊されているはずだ。
東京の大手マスコミ各社がこの惨状を詳しく伝えてこなかったことは職務怠慢以前の自己の存在理由の否定に他ならない。大手マスコミでは放射能漏れの人体への影響を懸念した労組が記者やカメラマンを取材に派遣することを反対したと聞いている。結局、連日にわたる震災報道が福島原発の放射能漏れに終始していたのは東京の人間の不安を煽ることで積極的に取材ができない組織力の限界を糊塗するつもりだったのかも知れない。
「そう言えば豊川の小椋くんが我々のボランティアに参加したいって言ってきたんだ」「小椋1尉は災害派遣に来ていないんですか」これは意外な情報だった。小椋1尉は第6施設群の1科長のはずだからすでに災害派遣に出動していると思っていた。阪神大震災の時も中部方面隊に限界が見えてきた段階で西部方面隊や東部方面隊からも部隊が派遣されたが、今回は当初から陸海空3自衛隊の統合任務として全力投入のはずだ。
「小椋くんは今月末で定年退官するから2月から付になっているんだよ。本人は付でも特例で参加させてくれと申し入れたそうだが、群としては派遣中に何かあった時の責任の問題を考えて断ったらしい」「むしろ『忙しい時に余計な希望を持ち込むな』ってケンモホロロにあしわられたんでしょう」私は第6施設群とはカンボジアPKOで一緒になっただけだが、所在する豊川の土地柄を考えると体質は想像できるような気がする。豊川がある東三河では歩調を乱すことは絶対悪であり、かつて流行った「赤信号、みんなで渡れば こわくない」と言う川柳も「赤信号 みんなが渡るぞ さあ渡れ」と言い直されていた。
小椋1尉も部隊が災害派遣に向けて動いている時に個人の希望を申し出たことを「幹部にあるまじき悪事」にされたのではないか。そのような希望の本意・主旨など始めから考慮の対象にならない地下牢のような暗黒世界に私も就職家出するまで苦しめられてきたのだ。
「モリヤくんは豊川の出身だろう。そんなに地元が嫌いなのかい。私には忘れられない土地だけどな」茶山元3佐は私の敵意に満ちた返事に顔は変えないまま口調を重くして訊いてきた。本当は立ち話をしている時間はないのだが、この機会に誤解は解いておかなければならない。
「私は岡崎市の出身です。豊川は親が自分たちの出身地に家を建てて住み腐っているだけです。ついでに言えば祖父は山形県最上郡戸沢村の出身で集団就職で愛知県に出てきてモリヤ家の婿養子になったんです。だから血は4分の1、心は山形と岡崎が半々の人間です。私にとって豊川は現世の三悪道以外の何物でもありません」これで引き上げれば捨て台詞になってしまうが茶山元3佐は目で引き留めた。隣りで足立2曹は少し焦り始めながら黙って待っている。
「私にとっては高井中隊長の庇護の下で3尉から1尉まで育ててもらった部隊だし、家族には初めて住む土地だったから懐かしいんだが、モリヤくんは絶対に許せないような経験をしてきたんだろう。小椋くんも本当に残念だったと思うよ」「それでは退官後はボランティアに参加させるんですね」「うん、そのつもりだ」茶山元3佐の返事を聞いて私も安堵した。航空教育隊の従軍坊主の田沼准尉は阪神大震災の時、基地司令が「他の部隊が災害派遣に選手要員を参加させていればウチの優勝は間違ない」と言って山口県の防府南基地からではなく埼玉県の熊谷基地の人員で災害派遣部隊を編成して神戸に派遣したことに激怒して浄土真宗の宗教ボランティアに参加しようとしたと聞いているが、小椋1尉は最高の受け皿を得たようだ。それにしても災害派遣に参加している部隊は人員確保よりも組織としての常識を優先しているようでは必ずしも「手一杯」ではないらしい。
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  1. 2019/05/13(月) 11:57:14|
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