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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1598

「貴方、おかえりなさい」杉本が安楷林(アン・ヘリム)のマンションで待っていると取材が長引いたのか日付が変わる直前になって帰ってきた。
「夕食は」「いや、お前と一緒に食べたくてな」「ごめんなさい」杉本の珍しく優しい言葉に安楷林は顔を強張らせて軽く頭を下げた。
「この時間では手料理は無理だろう。これから外食に出かけよう。お前が済ませてきたなら酒でつき合えよ」そう言って杉本が立ち上がると安楷林は首を振った。
「今日の取材の原稿をまとめなければならないの。貴方が1人で行って下さい」これまでも仕事のために「一緒に出かけよう」と言う誘いを断られたことはあるが、今日はハッキリとした「拒絶」を感じる。杉本は仕方なくセカンド・バッグを持つと玄関に向かって歩き出した。
「まだ頑張ってるな。お疲れさん」マンションの近くの大衆食堂で軽い食事を取って戻ると安楷林は書斎で机に向かっていた。シャワーを浴びたらしくパジャマ姿になっている。
「仕事中では飲めないだろうから終わって寝る前に飲めよ」そう言ってコンビニンス・ストアで買ってきた缶カクテルを置くと安楷林は片側だけの笑顔でうなずいた。
「今日は誰を取材したんだ」机の脇に立って安楷林が操作しているパソコンの画面を覗きながら質問すると顔を向けずに重い口調で話し始めた。
「顕忠日の特集で殉国者の遺族を取材しているのよ。独立万歳運動(日本での呼称は3・1事件)から続く抗日運動の犠牲者と6・25戦争(日本では朝鮮戦争・数字は開戦の月日)やベトナム戦争の戦没者、それに李承晩が命じた対日破壊工作の殉職者、それに・・・」これでも十分なのにまだ続きがあるようだ。
「日本政府と軍に徴用されて前線に送られた慰安婦の生存者も祖国の殉難の歴史の犠牲者として取材しているわ」これまで安楷林は韓国国内の一方的に日本を断罪する論調には疑問を示し、歴史的検証の必要性を訴えていた。杉本が説明した日本の信託統治による近代化の成果についても理解を示し、朝日新聞が「勇気ある告白」として大々的に喧伝を始めた済州島での慰安婦狩りの体験談を講演した吉田清治も素性の怪しさに納得していた。それが今回は反日的な取材活動に軸足を移している。杉本は困惑しながら安楷林の横顔を眺めていた。
「今の我が国では反日以外の主張は発表の機会すら与えられないのよ。私のように文筆活動を生業(なりわい)としている人間は過去にさかのぼって日本を擁護する記事がないかを確認されて僅かでも見つかればインターネットで徹底的に吊るし上げられるの。それをマスコミが取り上げて袋叩きね。勿論、ハングルだから日本人には判らないでしょうけど」安楷林は前を向いたまま唇を噛み、滲んだ血が顎を伝ってキー・ボードに垂れた。杉本は黙ってティッシュを2枚取ると1枚を安楷林に渡し、もう1枚で軽くキー・ボードを拭いた。それでも画面には意味のない文字が表示されて安楷林はバック・スペース・キーで消した。
「どうしてそこまで急激に事態が深刻化したんだ」この質問は今回の訪韓の目的でもある。杉本としては顕忠日に関する現地報道を確認し、韓国人の心理の変化を検証しようと考えていたのだが、安楷林の方から告白したので回答を引き出すことにした。勿論、これに危険な結末が待っていることは予測している。
「我が国には日本の放送法のようなマスコミに政治的中立性を義務づける法律がないから読者や視聴者の嫌悪の感情に同調して報道を大きく偏向させることが多いの。おまけに韓国人は付和雷同し易い国民だから反対意見に耳を貸す前に批判の声を、それも集団で吐きかけるわ」それは日本も同様だが「常識」と言うバランス感覚が働くだけ極端ではない。
「我が国が独立してから66年が経過して日本による統治を実際に体験した世代が社会から消えてしまうと学校で知識として教えられた日本の悪事が事実になって誰も否定できなくなってしまったのよ」「それは沖縄と同じだな」日本の沖縄でも実際に沖縄戦を経験し、日本軍の勇戦を目撃した世代が減少すると本土復帰後に送り込まれてきた日教組系からも排除された学生運動出身の教師と極度に左傾化したマスコミが強弁し続けている住民虐殺などの日本軍断罪史観が事実化して「沖縄は本土の捨て石にされた」と言う被害者意識だけが蔓延している。
「それでなくても日本のバブル景気が崩壊してからは中国との経済関係が強まっているから反日では協同戦線を締結したし、元々の宗主国として崇拝している相手だから意を汲んで日本を批判することは民族としての使命になっているわ」それはアメリカで中国と南北の朝鮮出身の移民たちが一体になって反日運動を繰り広げていることでも実感している。
「それでは俺と関わることでお前に不利益を与えてしまうな・・・」杉本は愛情による別離と利用するための継続の選択を胸で計りながら背後から抱き締め、首筋に唇を押し当てた。
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  1. 2019/07/01(月) 09:10:29|
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