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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1601

杉本は地理的に日本との交流の窓口になっている釜山に来ていた。釜山は朝鮮半島の最南端にある韓国第2の都市であり、現在も山口県の下関市との関釜フェリーや福岡県北九州市との高速艇などが就航しているため安価で手軽なだけに多くの観光客が訪れている。
「釜山の日本人観光客は買い物目的だからな。出歩くのは昼前だろう」釜山の安ホテルに泊まり、朝の市街地の歩道を脇目も振らず歩いて行く雑踏に追い立てられながら杉本は呟いた。車道でも信号があるから一般道と識別できるが、走行速度は都市高速並みだ。
「釜山は日本との窓口だから市民は親近感を抱いていると思うのは甘いな。盧武鉉の議員時代の選挙区は釜山だぞ」金大中の親北朝鮮政策と軍の弱体化を継承した盧武鉉大統領は釜山よりも東の金海市の貧しい農家の5人兄弟の末っ子として生まれだが、苦学の末に司法試験に合格すると後に大統領秘書室長(日本の内閣官房長官)になる文在寅と釜山で弁護士事務所を開設した。そこで人権派弁護士としての活躍したため金泳三の勧誘を受けて国会議員に出馬・当選した。その選挙区が釜山東区だった。
「先ずは市場の小母ちゃんたちの本音を立ち聞きするか」杉本は釜山市でも海岸沿いにあるチャガルチ市場に向かった。日本の水産市場と言えば大きな屋根の下の広いコンクリートの床に魚を並らべ、そこで仲買人たちが大声で競り(せり)をしている喧騒をイメージするが、ここはアーケード街に近く小母さんたちが大声で客引きをしながら小売りをしている。日本人の観光客にはその場で小母ちゃんに調理してもらい海鮮グルメを楽しむ人気の場所だ。杉本はアーケード街の狭い通路を歩きながら店の小母さんたちが大声で話し合っている内容に耳を向けた。チャガルチ市場では料理店が仕入れに来るため男性が歩いていても違和感はない。
「今日は何が売りだい」「蛸が入ってるよ」「ウチは海老だ」店の前には冷した海水を溜めた台が置かれており、そこに並べたプラスチック製のカゴに新鮮な魚介類が詰め込んである。杉本が小母ちゃんが「売りだ」と言った蛸を見るとまだ生きていてカゴの中で足を動かしていた。この蛸の足を切ってもらってサムジャン(コチジャン、蜂蜜、スリゴマなどを混ぜた調味料)をつけて口に入れると吸盤が舌や頬の内側に吸いついてその感触も絶妙だ。
「今日の日本人のツアーは何組だい」「旅行社から連絡があったのは昼前に4つ、夕方に6つだったんじゃあないかな」小母さんが確認すると向かいの小母さんが即答した。やはり日本人の観光ツアーが大口の売り上げになっているようだ。すると別の店の小母さんが顔をしかめながら話に割り込んできた。
「日本人も景気が悪くなってからは財布の紐が固くなってるよ」「客足そのものが減っているじゃあないか」日本のバブル景気が崩壊してから20年が経過しているが立ち直る兆しも見せていないことはアメリカから傍観していても心配になってくる。
「韓流ブームとかで中年女が大挙して押し寄せたこともあるけど、グルメよりも芸能人を追いかけるばかりだから売り上げにはつながらなかったね」「そうでもないよ。あれに夢中になったのは暇で小金持ちの女たちだからツアーで来て高級料理店で食べた分、仕入れは増えただろう」日本の韓流ブームは2003年の「冬のソナタ」が切っ掛けで始まった。マスコミはこれを利用して韓国グルメなどの文化全体に関心を広めて観光客の増大を図ったが、特に目新しい物はなく旅行に出かけたのは暇な小金持ちの中年女性だけだった。それでも映画やドラマから音楽やダンスも紹介されると若者も熱狂したもののこちらはCDやDVDで十分なので市場の売り上げに結びついてはいないようだ。
「それにしても日本人は立ち直る気がないんじゃあないの。あんな素人みたいな政治家を首相にしたんだから」小母さんの1人が吐き出すように時事問題を口にすると別の小母さんたちも顔を見合わせて何故か快哉そうにうなずいた。韓国では国民が大統領を直接選ぶため日本の政権交代も雀山由紀夫首相が投票で選ばれたと誤解しているようだ。これはアメリカでも庶民レベルでは似たようなものだから仕方ない。そのアメリカでは「イギリス方式」と説明すれば理解されるが韓国では難しいだろう。
「もう日本人に胡麻を吸っても仕方ないのかもね」「そうだよ。私たちはアイツらが払う金に頭を下げてきたんだ。金の切れ目で我慢も終わりにしよう」「金を払う日本人だけが日本人、金がなければチョッパリに逆戻り」チョッパリとは豚の足のことで日本の足袋が親指と他の指の2つに分かれていることを中国式の1つの足袋を使用している韓国人が馬鹿にして付けた蔑称だ。ちなみに青森方言の「ジョッパリ」は意地っ張りのことで蔑称ではない。
「おはようございます。いらっしゃいませ」「アンニョンハショムニカ」その時、日本人の観光ツアーが到着したらしく、小母さんたちは愛想を全開にして声をかけ始めた。
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  1. 2019/07/04(木) 12:57:26|
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