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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1604

本間は台湾を訪れている。目的はアメリカ国務省の陳文麗(チェン・ウェンリー)を通じて招請があった陳江河(チェン・ジィァンフェア)弁護士に会うことだが、その前に桃園国際空港から第6軍団指揮部の王茂雄(ワン・マオシィォン)中校(中佐)を訪ねて台湾=中華民国が他国に先駆けて派遣した救援隊を千石民政党の缶内閣が東京で足止めにして中国などの到着よりも後回しにした外交上最大級の非礼に対する反応を確認した。
「今田(こんだ・本間の偽名)、日本人はあれほどの大災害に遭っても規律正しく礼節を守り、あくまでも謙虚だな。我が国でも『流石だ』『もっと見習うべきだ』とあらためて感動を呼んでいるよ」これは予定外の賞賛だった。親中的な外交姿勢を公然化している馬英九政権が1999年9月21日の台湾大地震で小渕恵三内閣が極めて迅速に最大規模の救助隊を派遣したことへの謝恩とは言え即座に救援隊を派遣したにも関わらず缶内閣の方が中国の顔色を窺った形になった。これが韓国であれば救援隊を派遣すること自体に反対する世論が湧き起こり、ましてや東京に足止めすれば撤退を要求する抗日運動が起こるのは間違いない。
「日本の親中政権は折角の支援を裏切って忘恩の徒である醜態を晒してしまいました。それでも民国(中華民国)の人たちは日本に反発しないんですか」本間がその場に土下座をしそうな顔で日本政府への怒りを露わにすると王中校は苦笑しながら答えた。
「我が民国は日本の政治と経済に裏切られることは田中角栄内閣の国交回復以来、慣れ切っているよ。田中は中共(共産党中国)から言われるままに長年にわたる民国との外交関係を一方的に放棄したんだ。隣国でありながらいまだに公式の外交関係すら遮断されている。今更、救助隊を足止めされても驚きはしない。追い返されなかっただけでも恩の字だ」この痛烈な皮肉は本間にとっては生まれる前の日中外交史の補習講座でもあった。本間が学校で習った歴史では日中国交回復は中国を侵略した日本を中国が許したことで成立し、そこからは経済発展に協力しながら友好を深めてきたことになっていた。しかし、実際は周恩来首相の指揮の下、親中派マスコミを使って台湾・国民党政権との関係を重視する佐藤内閣の次を睨んだ日中国交待望論と田中角栄人気を扇動して後継者争いを制することに成功した。その田中首相の訪中時には異例の厚遇で舞い上がらせておいて晩餐会の挨拶で日中戦争を「遺憾であった」と述べたことを周恩来首相が「中国語で遺憾は残念であったと言う軽い反省を意味する」と痛烈に非難し、態度急変に狼狽した日本側が全面的に譲歩したのが日中国交回復の実態である。この時、「1つの中国」を国是とする共産党中国の要求に屈服して、外交関係はおろか日本航空の台湾便まで禁じられたため日本アジア航空と言う新会社を設立して台湾便を維持した。
「中共は救助隊だけでなく外国人記者として変装させた軍人を被災地に送り込んで自衛隊の装備や活動を調査していました」「それは国際常識だろう。我が国の救助隊にだって情報収集の密命は与えられている。それなしで来てくれるのは日本の消防隊くらいだ」本間の日本的な問題意識に王中校は再び苦笑した。世界の人々に感動を与えている被災者の誠実さと素朴さを、それとは真逆の論理で活動する軍事情報の世界に身を置く軍人=自衛官も共有していることが意外であり、滑稽でもあった。
「ところで陸海空3軍は極めた大規模な災害派遣を遂行しているようだが、ロシアや中共の奇襲攻撃に即応できる戦力は維持しているんだろうな」ここで民政党政権の危機管理を確認する質問が入った。本間としては日本政府の公式発表に補足説明するしかないが、その程度の情報は王中校も言われるまでもなく承知しているはずだ。
「陸は15万2千人の中の7万人だから概ね半数、海は4万5千人の中の1万5千人だから3分の1、空は4万7千人の中の2万1千6百人だから概ね半数です。これでは平時の領土への不法侵入や領海・領空侵犯には対処できても本格的な侵攻では無理です」「当然、戦闘用の燃料は確保しているだろうが、災害派遣部隊に武器弾薬は持たしているのか」「いいえ、武器は危険ですから・・・」日本人の感覚では災害に見舞われた地域や人々には保護と復興の手を差し伸べるだけだが、海外では建物の防護設備が破壊されて警察力の低下により治安活動が緩めば略奪の好機にもなる。だから災害の後には商店の打ち壊しと略奪が横行するのだ。ましてや侵略を狙う国家にとっては千載一遇の好機に他ならない。説明していて本間は横田基地で聞いた自衛隊内部で指摘されている問題を思い出した。1995年の阪神大震災で航空自衛隊は教育を任務とする航空教育集団を主力として派遣したが、今回は書類上の指揮系統の関係で航空総隊に命じた。これも組織としての使命感が失われてきている証左なのかも知れない。
「それでは車両や燃料などの警備に当たる兵員はどうするんだ」「平時の刑法で認められているのは警棒と木銃までです」これ以上、返す言葉がなかった。
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  1. 2019/07/07(日) 11:54:00|
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