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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1635

今回の週末は私が久里浜駐屯地の佳織の官舎に行った。佳織の手料理を軽めに食べた後、行きつけの小料理屋へ行くと今夜の酒は悪酔い気味に効いてきた。
「貴方、愛国心を維持できてる」貸し切りとは言えママさんの前でいきなり危ない質問だ。まだキープしている灘の生一本を冷やで乾杯した後、ぐい飲みで3杯ほど注ぎ合っただけだ。
「うーん、平成になってからは低下する一方だな」ママさんは佳織の久里浜駐屯地での立場は承知している。それを前提に本音を語るのなら私もつき合うしかない。
「私たちが前川原に入ったのが平成1年だったから幹部としては愛国心が低下する中で精神教育を垂れていたんだね」今日の佳織は少し皮肉っぽい。佳織がここまで悪酔いするのは勤務でかなりストレスが溜まっているからに違いない。
通信学校は教育課程を維持している関係で災害派遣には補助要員を差し出しているだけだ。それでも派遣部隊から通信機材に関する問い合わせや苦情が多数寄せられていることは愚痴として聞いている。結局、メーカーの売り込みを受けた通信関係の上層部がカタログ上の諸元にばかりに目を奪われて導入した最新式の機材も被災地の過酷な環境では期待した高性能を発揮せず無用の長物化している例も少なくないらしい。野戦用発動発電機では通信機材用の精密な弱電を維持することは難しく、それが周波数の乱調となり機能に障害を与えると言うのだが普通科の幹部で迷彩服を着た弁護士には理解不能だ。
「ワシは生徒会長の時、全国植樹会に参加して昭和の陛下の御竜顔を直拝(じきはい)して強烈な御稜威(みいつ)を感じて以来、完全に崇敬していたが基本的には皇室嫌いだからな」これは「平成」になって愛国心が低下した理由だ。佳織は私が古事記の天孫降臨を皇室の祖先による大陸からの侵略と見ており、明治期の廃佛毀釋の表看板になった佛敵と見ていることを知っているので何も言わずに酒を注いだがママさんは驚いたようにカウンターの中で固まった。
「旦那さんは自衛隊の幹部なのにそんなことを言って大丈夫なんですか」これが自衛隊を帝国陸海軍の末裔と見ている日本人の常識的な心配であり、疑問だろう。しかし、陸上自衛隊は帝国陸軍の元軍人が幹部に復帰してからは復古趣味が持ち込まれたが、基本的には和洋=日米折衷だ。海上自衛隊は「帝国海軍を再現している」と言われていても、その帝国海軍自体がイギリス海軍の模倣であり、マハン少将の教え子なのでアメリカ海軍とは兄弟のようなものだ。古巣の航空自衛隊は完全にアメリカ空軍の申し子だ。したがって皇室に強固な忠誠心を抱いている隊員は意外に少ない。ここだけの話、皇太子夫婦に中々子供ができなかった頃、某普通科連隊の酒席では「美人外交官に夜這いをかけて種つけしてやろう。夜間の第5匍匐で潜入だ」と言う馬鹿話が出たこともあった。ママさん的には不謹慎極まりない暴言になるはずだ。
「天皇陛下は被災地に行って慰霊されてるじゃない。私はテレビで深く頭を下げておられるお姿を見て涙が出たわ」ママさんは私よりも少し年長だが、昭和30年代生まれのはずだ。こうして忠誠心を当然視して強要されると苛烈に応戦したくなるのは私の悪癖だ。
「天皇は毎朝、宮中賢所で『災厄をわが身に』と祈願しているんだ。つまり大災害が起こるのは自分の力不足なのを自覚しているから謝罪に行っているだけだよ。慰霊なら手を合わせるべきなのに頭を下げているだけだろう。あれは謝罪の作法じゃあないか」「それは・・・」ママさんは唇を噛んでカウンターの隅に行ってしまった。これでこの店に来られなると今夜中にキープしている一升瓶を空ける必要がある。その前にママさんを呼び戻すため話題を変えた。
「ワシの場合は平成になって勤務したのが愛知県だからな。愛国心が低下する前にあの土地に吸引されたのかも知れないな。佳織と一緒じゃなければ生き地獄だったよ」かなり無理な話題の変更だが愛国者の前の天皇批判よりは好いはずだ。私は愛知県でも中学と大学2年までを過ごした東三河から一歩でも遠く離れるため就職家出として航空自衛隊に入った。運よく沖縄にまで逃れられたはずが、そこで捕まった美恵子との夫婦同時不倫による離婚で淳之介との子連れ狼=父子家庭になり、その特別事情で守山駐屯地に強制転属させられた。そこが佳織との新生活の場になったとは言え、やはり愛知県の水は肌に合わず今も帰省はしていない。
「善通寺は良いところだったの」「うん、淳之介を育てるには最高の環境だったね。通信幹部の配置があれば佳織に来てもらって志織も育てたかったくらいだ。勿論、久居も良かったよ」早い話が愛知県でなければどこでも好いところのようだが、今考えると山口県も幕末と明治を徹底的に誇示する独善的で自分たちの過ちを反省しない歴史観は教育上好ましくない。
「私も1回だけ行ったけど落ち着いた雰囲気の街だったよね」「駐屯地のラッパと善通寺の鐘の音が続いて聞こえると愛国心を実感できたな。平成2年だったけど」苦しいオチをつけたがママさんは反応しなかった。やはり店を変えなければならないのかも知れない。
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  1. 2019/08/07(水) 13:20:05|
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