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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1636

私自身も自覚がないままストレスを溜めている中、中華民国陸軍第6軍団指揮部法務官の王茂雄中校(ワン・マオシィォン中佐)から手紙が届いた。現在の王中校との話題は人生最大のストレスである玉城美恵子の件なので開封するのを迷ったが、そこは事務的に通読することにした。
「先日、送られた郵便為替を現金化して担当の宮寛君(ゴン・グァンジュン)弁護士に渡しました」定型句の時候の挨拶に続き、用件が記されている。それでも英文のため全体に目を通すことはできないが、続きが長いところを見ると用件は1つではないようだ。
「その際、宮弁護士から玉城美恵子受刑囚の様子を詳しく聞きました」ここで詳細な紹介が始まるとストレスは一気に上昇してしまう。勿論、王中校には「玉城美恵子とは関係がない=関わりを持ちたくない」と何度も伝えているので特別なことがない限り、あえて書くはずはない。
「玉城は台北拘置所で雑役係として働いていますが理髪師としても活躍しているそうで、被告人の容姿が整って法廷での印象が向上するため弁護側には賞賛され、検察側は迷惑しているそうです」私に言わせれば馬鹿の1つ覚えの技術が世の中の役に立つことは結構なことだ。その一方で弁護士としては被告人の印象を向上するための秘訣を1つ学んだような気もする。
「我が国で理容店を開業するには業界団体の技能試験に合格すれば良いので、このまま我が国に留まってその技を発揮するべきではないかと宮弁護士も考えたそうです。しかし(But)・・・」今回の王中校の文章は妙に思わせぶりだ。
「玉城は語学力が極めて弱く知識事項の学科試験に合格できな上、接客も無理だと言っていました」それを言うなら経営能力も欠落しているのではないか。本当にハサミとバリカンと剃刀を使いこなす技だけが馬鹿の1つ覚えなのだ。
「その中で私が特に驚いたのは拘置所で刑を執行される死刑囚のことです」私も拘置所生活を経験しているので死刑囚が刑務所ではなく拘置所に拘束されることは知っている。死刑囚にとっては刑を執行されることだけが受刑であって、それまでの拘束生活は執行を待つまでの時間つぶしに過ぎないのだ。そのため刑務所で服役することはない。
「刑の執行前に最期の整髪を受けた死刑囚たちは鏡で自分の顔を見ると、玉城の仕事の出来栄えに感激して自然に微笑むのだそうです」これは驚きだ。死刑囚にとっては整髪も刑の執行に向けた手順の1つに過ぎず、それが終わればまた1歩死が近づくのだ。例え覚悟を決めていても微笑むことはできないはずだ。
「私は玉城美恵子に強い関心を持ち、この神技とも言うべき技術を埋もれさせてしまうことに我慢ができなくなりました。そのため沖縄へ同行し、仕事を再開するための援助をしたいと考えています」ここだけを読んでいれば「随分とお暇ですな」「異常な世話好きだね」「過剰サービスでしょう」「通姦罪(=日本の姦通罪)に気をつけて」などと毒づくところだが、死刑囚を微笑ませる技術には感服せざるを得ないので素直に共感した。確かにあの頃、美恵子が希望していた通り都会で就職させていれば最高の同業者たちの中で技術に磨きをかけ、達人の域に至ったのかも知れない。しかし、その前に結婚するべきではなかった。
「この機会にモリヤ2佐に会いたいのですが那覇まで来られませんか」これが最大の要件だった。私としては美恵子や玉城家の元義父母に接触することは避けたいが、王中校に会っておきたい気持ちはある。欄外に記してある美恵子の国外退去=帰国に伴う搭乗予定を見ると今からでも出張その他の手続きは間に合いそうだ。
「海外軍の法務人脈の構築と言うのは出張の名目になるのかな」手紙を読み終えて封筒に戻してから私は腕を組んで思案を始めた。災害派遣を指揮する政権が与党内から退陣を迫られていながらも行動命令は終了しそうもない。そうなると沖縄へ行くには出張以外は考えられない。ただし、「外国軍の法務人脈の構築」と言うのは出張命令で合議(あいぎ=関係者の確認)と決済に回る際の説明であって名目は関係規則の範囲内だ。
「これで恵祥にも会いにいけるぞ。初孫と対面だ」思案しているうちに頭が暴走を始めた。これもストレスの合併症かも知れない。やはり思考回路に悪影響をもたらすらしい。
「台湾軍の法務官かね。尖閣問題で連携を図る必要が生じる可能性はあるな」先ず決済権者である法務官に相談と言うよりも打診をすると意外に興味を持ったような顔で呟いた。
「中華民国とは国交がありませんから連携を図ることが不可能ですが、法令に関する情報の提供を受けることができるかも知れません」ここで法務官の言葉に同意すると現状認識の瑕疵になる可能性があるので冷静に修正した。「情報の交換」と言うのも秘密漏洩になりかねない。
「モリヤ2佐もイージス艦の裁判に東北の震災も重なってストレスが溜まっているだろうから、孫の顔でも見てリフレッシュしてくれ」やはり直属上司は魂胆をお見通しだった。
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  1. 2019/08/08(木) 12:30:07|
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