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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1650

「私は中共が我が国に送り込んだ北朝鮮の工作員を逮捕して処理したことがあるんだ。奴等の尋問で沖縄にも開戦時に自衛隊のパイロットを殺害する暗殺要員が潜入していると言う情報を掴んだ。それでペンタゴンを通じて日本にも伝えたんだが、すると沖縄では国籍不明の人間が突然死する事例が起こるようになった」王中校は顔を近づけると小声の英語で説明を続けた。これでは事実になってしまう。ただし、本土ではそのような「事件」は全く報じられていない。
「沖縄のニュースは地元2大紙が発信源で県庁や県警もその主張に同調しているから、連続して国籍不明の人間が死んだことに疑問を示さなければ単なる突然死として揉み消すことくらいは容易いはずだ」王中校は私の見解を予想していたようで唇を歪めて苦笑した。
「すると沖縄のマスコミは逆に処理している側にも秘密裏に任務を遂行できると言う恩恵を与えているな。中共の意向を受けて活動しているマスコミにとっては歯痒いことだろう」この言葉で王中校が言う「処理」が抹殺=殺害であることがハッキリした。私自身も北キボールで3人の若者の生命を奪っているのだから任務で敵を抹殺する処理に異存はないが、発覚した時の法的対応を考えると現在担当している裁判さえも遊びのように軽く思われてくる。
「それはどのような手段で処理しているんだね。本土の住人は知ることができないから教えてくれ」私が法務幹部的に関心を示すと王中校は同業者の顔になって説明を始めた。
「先ずは漁船が海上で炎上・爆発して沈没した。乗っていたのは1名のはずが複数の人間の遺留品があった。しかし、海上保安庁は単なる事故として処置したようだ」この事故は新聞で読んだ記憶があるが、写真なしで1行にも満たない扱いだったはずだ。
「それ以外では交通事故が多いな。自動車の衝突にひき逃げ、エンジンからの出火もある」「その当事者が国籍不明なら警察も事件性を疑うはずだがそれをしないんだな」日本国内の話題なのに私の方が疑問を感じてしまった。これで門外漢であることが理解してもらえたかも知れない。
「中共としても送り込んでいる暗殺者が次々と処理されては隠蔽し切れないと判断したらしい。前の官房長官に揉み消しを指示して戦術転換したようだ」「早い話、呼集された航空自衛隊のパイロットを殺害して初動対処を阻止しようとしたんだな。酷い話だ」一応は困惑した顔を作りながら共産党中国を非難したが、私自身も沖縄時代のデモ対処で警備地域に突入してきた車両に速度も緩めず跳ね飛ばされたことがあり、日本人の活動家でさえ「自衛官を殺せば英雄視される」と言う狂気を抱いていることを体験している。それが共産党中国と北朝鮮と言う敵国の暗殺者であれば任務として淡々と遂行するであろうことは十分判っていた。
危な過ぎる話題に区切りをつけると王中校は元の姿勢に戻って残っていた冷めたコーヒーを飲み干した。私としても同年輩の親父の顔を至近距離で見る苦痛から解放されて溜息をついた。
「先ほど貴官は日本にはスパイを処罰する軍法がないと言っていたが、我が国では・・・」「刑法103条から115条の外患罪だね」今度も私が先に説明すると王中校はさらに驚いたように口を開けて絶句した。中華民国刑法の外患罪は日本の戦前の刑法と同一の内容で民間人のスパイ行為も含まれている。勿論、軍人にはより厳格で刑罰が重い軍法がある。現在の日本の刑法にも81条から89条で外患罪が定められているが、戦前の規定が台湾と同様にスパイ行為を含めていたのに対して戦後に改定された条文では外国を誘導して日本に武力を行使させた罪と侵略してきた敵軍に参加した罪を規定しているだけだ。確かに死刑を含む重い罰則に処することになっているが適用されたことはない。逆に自衛隊法では自衛官の守秘義務は規定されているがスパイ行為に対する処罰は見当たらない。強いて言えば昭和29年に制定された日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法でアメリカ軍とアメリカ製の武器や装備品の秘密は保護されており、こちらは2007年にイージス艦・きりしまに乗り組んでいた2等海曹が中国人の妻に秘密情報を漏らしたことが発覚して関係者が大量処分された事件で情報の漏洩源になった3等海佐に適用されて有罪判決を受けている。つけ加えればこの中国人の妻は国外退去処分を受けていながら密入国して横浜の中華街に潜伏していた。つまり「ハニ―・トラップ妻だった」と言うことだ。
「日本はどうしてそこまでお気楽でいられるのかな。まるで国際社会には悪意を持った国が存在していないと信じているみたいだ」この疑問には私の本業で回答することにした。
「日本の佛教では浄土真宗と曹洞宗が2大勢力なんだが、どちらも公家の息子が始めた教団だから教義は衆生が苦悩している現世の汚濁は無視して自己満足な理想だけを追求した教条主義なんだ。だから『平和』『友好』と唱えてさえいれば結果は相手次第、危険に背を向けて只管打坐していれば殺されても満足と言う国民になってしまったんだな」この難解な日本語の説明に王中校は納得したようにうなずくとそのまま腰を浮かせた。これから王中校が美恵子の就職先として考えている台北駐日経済文化代表処那覇分処に行く予定だ。
  1. 2019/08/22(木) 11:24:10|
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