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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1667(かなり実話です)

沖縄本島中部に上陸したアメリカ軍はその日のうちに読谷の北飛行場と嘉手納の中飛行場を占領し、3日には陸軍の第7師団が島を横断して中城湾にまで達した。さらに戦車、トラック、火砲、弾薬を大量に運び上げて橋頭保(上陸拠点)を築いて作戦を開始する準備を整えた。
こうして南下を開始したアメリカ軍に賀谷支隊は巧妙な遊撃戦を展開した。昼間は進行方向に構築した堅牢な陣地で頑強に抵抗して前進を阻み、日没後は夜陰にまぎれて宿営地を包囲するように展開して銃撃を浴びせ、敵の反撃が始まる前に撤収して別の陣地に逃げ込む戦術で散々に翻弄したのだ。しかも敵を嘉数高地でも日本軍の主力が待ち構えている方向に誘導していった。しかし、183000人の上陸部隊に1000人に満たない賀谷支隊では進撃を遅滞させただけで作戦を左右するほどの損害を与えることはできなかった。
「さて、おいでなすった」アメリカ軍が上陸して1週間後の4月7日、日本軍が70高地と呼んでいる嘉数高地の陣地で待ち構えていた将兵の前にアメリカ軍が姿を現した。嘉手納、胡座(こざ)から普天間への緩やかな丘陵地帯を戦車部隊を先頭とする基本通りの陣形で進撃してくる。沖縄の台地は石灰岩の上に土がかぶっているため海中だった頃の浸食でできた大小の穴が開いており、爆撃や艦砲射撃で土が吹き飛んだことで穴が剥き出しになって戦車やトラックが立ち往生することも珍しくなかった。このためヨーロッパ戦線で見られる横一線に戦車が砲列を並べて迫ってくるほどの威圧的な陣形ではない。
すると1人の日本兵が穴から飛び出してM4シャーマン戦車の前に身体を投げ出した。日本兵は両手で持てる大きさの木箱を胸に抱いている。日本兵に気づかない戦車はその身体をキャタピラで踏み砕き、その瞬間、木箱が爆発して戦車が擱座した。キャタビラが外れて車軸が剥き出しになった車輪が空転して地面を擦っている。これは火薬にマッチの発火剤である黄リンを混ぜた対戦車兵器・梱包爆弾だった。ただし、使用すれば1名が犠牲になる。
上部と前部のハッチを開けて戦車兵が脱出すると、そこに陣地から軽機関銃を浴びせてきた。戦車兵たちは次々に倒れていく。別の戦車が前に出て防壁になろうとしたが手遅れだった。
後方から戦車に駆け寄った歩兵が応戦するが日本軍の機関銃の集中射撃に圧倒されている。独特の甲高い銃声が魔女の絶叫に聞こえてくる。
「マシンガンで応戦しろ」「はいはい、判ってるよ」戦車の陰に身を伏せたアメリカ軍の少尉がトンプソン・サブマシンガン=トミーガンを持っている軍曹に声をかけると憮然とした顔で返事をした。軍曹は安全な戦車の背後から視界が開ける位置まで肘を使った匍匐で前進して銃を構えた。トンプソン・サブマシンガンの棹桿(こうかん=コッキング・レバー)は銃主部の上にあり、大きく引かなければならない。その操作の後、軍曹のトンプソンが乾いた音を立てて銃口から火焔を吹き始めた。顔の反対側からは空薬莢が飛び出している。
「駄目だ。向こうは小銃弾でもこっちは拳銃弾だから届かない」1本目の弾倉を撃ち尽くした軍曹が振り返って少尉に報告した。日本軍の99式軽機関銃は99式歩兵銃と同じ7.7ミリの小銃弾だがトンプソン・マシンガンはコルトM1911ガバメント拳銃と同じ11・2ミリ拳銃弾だから射程距離と威力は比べ物にならない。
「軽機関銃はないんだよな」応戦を諦めて退ってきた軍曹に少尉が忌々しげに声を掛けた。アメリカ陸軍はセミ・オート式(引き金を落とせば連続して射撃できる)のM1ガーランド小銃を採用したことで分隊単位に配備していた軽機関銃を廃止してしまった。そのため支援火器は軍曹が持つトンプソン・サブマシンガンだけなのだ。
その時、戦車が砲塔を機関銃の発射炎の方向に合わせた。急速な方向転換で主砲を擱座した戦車に引っ掛けたため射撃を躊躇していたらしい。
「いけッ、殺(や)っちまえ」軍曹の発声に戦車の陰に集っているアメリカ兵たちも唱和して歓声になった。しかし、それも束の間の応援になった。
1名の日本兵が別の穴から飛び出すと車体によじ登ってハッチを開けると中に手榴弾を落としてハッチを閉めた。これは擱座した戦車の背後に身を潜めているアメリカ兵たちからは死角で行われた作業であり、気づいた者はいなかった。
数秒後、重苦しい音が鋼鉄製の車体の中で響き、次の瞬間、車内に満載していた砲弾が誘爆し、それが燃料に引火して大爆発を起こした。その隙に日本兵は前方の穴に転がり込んでいた。
アメリカ兵たちは腰を抜かして呆然としている。最初の爆発音を砲声だと思っていたが、続いて爆風と炎が吹き抜けてきた。少尉と軍曹が確認すると戦車は砲塔が吹き飛び、剥き出しになった車内からは熱い炎と黒煙が噴き上がっている。当時、ヨーロッパ戦線では「戦車にガソリンのエンジンを採用したのはアメリカ軍需産業最大の失敗だ」と非難されていた。
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  1. 2019/09/08(日) 12:06:11|
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