FC2ブログ

古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1668(かなり実話です)

「2日で突破できる」と見積もっていた嘉数高地の激闘でアメリカ軍は大損害を出している。日本軍は断崖絶壁の上の石灰岩の穴を利用した銃座から身体を露出させているアメリカ兵に軽機関銃を正確に連射してくるので前進もままならない。
このため戦車を盾にして前進しても低地の横穴の陣地からは口径が小さく威力不足が指摘されていた1式4.7糎砲(対戦車砲)が砲撃してくる。これも十分に引きつけての近距離からの射撃のため野戦では通用しなかったM4シャーマン戦車の正面装甲を貫通することがあった。
「生徒、弾込めを急げ」嘉数高地の弾薬作業壕で作業指揮官の曹長が生徒たちに声を掛けた。この陣地にも那覇市内の師範学校や中学校の生徒たちが鉄血勤皇隊として配置されている。生徒たちは戦闘が始まってからは機関銃の弾倉に7.7ミリ弾を30発詰めてそれを木箱に入れて各銃座に届ける作業に忙殺されている。木箱にギッシリ詰め込まれているボール紙製の小箱から弾丸を取り出して素早く弾倉に装填し、それを同級生は空になった木箱に詰め替えると両手で抱えて半地下壕の出入り口から飛び出していく。
ここでも「生徒たちを直接戦闘に参加させない」と言う第32軍司令部=八原高級参謀の指導が守られているのだが、現場指揮官としても徴兵年限に達している出征学徒とは違い、まだ少年である生徒たちの手を血で汚させたくないと言う親心と分別があった。
「弾薬です」「おう、早かったな」生徒たちは手分けして高地に並ぶ銃座に弾薬を届けていく。弾丸30発が装填された弾倉が詰まっている木箱は生徒の腕力では重く、1回1箱で各銃座を往復している。弾薬作業壕から各銃座までの交通壕(溝の通路)は岩盤であることが災いして構築できなかったが、各所に窪地や立岩があるためその間を疾走して数キロ向こうの銃座までも届けていた。それでも生徒たちは激しい銃撃戦の合間にもねぎらいの言葉を掛けてくれる兵隊たちのためにも、むしろ遠い銃座まで届けることに使命感を覚えていた。
「砲撃が始まるぞ。外ではこれをかぶれ」空になった木箱を抱えて銃座の壕を出ようとした生徒に兵隊が自分の鉄帽を投げ渡した。アメリカ軍は部隊が狭い谷を隔てた台地にまで迫ってからは友軍相撃を避けるため艦砲射撃を控えるようになっている。その代わり野戦砲部隊が正確に照準しながら砲撃するようになり、最近はかなりの精度で陣地内に着弾している。
「着弾だ。伏せろ」その時、無音のまま強烈な衝撃が銃座壕を揺らした。石灰岩の穴の上に並べた丸太がずれたのか上に盛った土が崩れ落ちてくる。爆弾や砲弾の落下を知らせる空気を引き裂く甲高い叫び声は至近距離への着弾では聞こえないのだ。
「怪我はないか」気がつくと生徒の上に兵隊が覆いかぶさってくれていた。兵隊は生徒が自分の鉄帽を咄嗟にかぶっているのを見て感心したように笑いながら声を掛けた。
「銃座が5つ、やられたのさァ」弾薬作業壕に戻ると一緒に弾薬を届けに出た生徒たちが暗い顔をして声を掛けてきた。先ほどの砲撃で直撃弾を受けたらしい。他の生徒も危険を冒して弾薬を届ける自分を気遣ってくれる兵隊たちを慕い始めており、兵隊たちも故郷に残してきた弟のように思っているようだ。その兵隊たちの死は生徒たちに痛撃を与えた。すると作業を指揮している曹長が厳しい口調で叱責した。
「それが戦争と言うものだ。アイツらは軍人として名誉の戦死を遂げたんだ。喜んでやれ。お前たちも臆病風に吹かれるんじゃあないぞ」曹長の言葉が終わるの待っていたかのように直撃弾が陣地の傍で炸裂した。丸太の天井に吊ってある白熱電球が消えて壕内が真っ暗になり、地面に置いた板に並べていた弾丸が入った小箱と弾倉が吹き飛んだのも音だけで判った。
激闘・奮戦を続ける第32軍の足を引っ張ったのは日本軍自身だった。大本営は硫黄島に続くアメリカ軍の侵攻目標を台湾と誤認して第9師団を抽出し、第32軍の戦略を持久戦に転換させておきながら本土への空襲に利用されることを嫌って読谷・嘉手納・小禄の飛行場の守備を強要した。しかし、第32軍がそれらを放棄すると陸軍参謀総長は天皇への報告=上奏で「第32軍の奮戦を期待する」と言わせて、それを「攻勢への転換=飛行場の奪還が天皇の意思」として伝達してきた。冷徹な八原高級参謀はこれを無視して持久戦を堅持しようとしたが、皇道派の残党である長参謀長は作戦転換を強弁し、日本陸軍伝統の積極攻勢を美学として育ってきた多くの参謀たちも上陸後に混乱を見せるアメリカ軍を侮り、こちらに同調した。最終的に牛島軍司令官が作戦転換を裁可したため、4月8日と12日に貴重な戦力と弾薬を使ってアメリカ軍に占領されている嘉手納基地を奪還する夜襲が実施されて惨敗を喫した。
結局、アメリカ軍の戦術を熟知していることから「マックアーサーの参謀」と仇名される堀栄三中佐の提言を受けての持久戦を遂行するにはペリリュー島の中川州男大佐や硫黄島の栗林忠道大将のように最高指揮官自身の発想の転換が必要不可欠だった。
スポンサーサイト



  1. 2019/09/09(月) 12:24:43|
  2. 夜の連続小説8
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<9月10日・世界自殺予防デー | ホーム | 9月8日・ナチス・ドイツがV2ロケットを実戦に投入した。>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://1pen1kyusho3.blog.fc2.com/tb.php/5617-768f6977
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)