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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1670(かなり実話です)

戦略的には何の意味もなく、アメリカ軍からは「有り難い自滅的攻撃」と皮肉に揶揄された嘉手納飛行場奪還作戦は潤沢だった武器と弾薬を浪費し、予備兵力を消失させただけだった。唯一の収獲は日米両軍の戦力差を認識せずに反転攻勢を主張して、八原高級参謀が立案する持久作戦を誹謗し続けてきた長参謀長が意気消沈して、その無謀な強硬論に同調していた参謀たちも急速に従順になったことだ。
「今回の失敗は本職の不明の致すところだ。貴官の提言を採用しなかったことを心から詫びたい。今後は作戦の一切を貴官に一任する」嘉数高地を守備する第62師団から抽出された2個大隊が全滅して2度の作戦が失敗に終わったことを確認した夜、牛島軍司令官は八原高級参謀を自室に呼んで頭を下げた。こうして遅ればせながら第32軍司令部の意思統一が図られたが、戦力の低下と言う物理的要因を挽回することは容易ではない。嘉数高地でも抵抗力が急速に弱まり、戦車に先導されたアメリカ軍が岩場の下にまで到達していた。
断崖絶壁の上に並んでいた銃座の発射口も数え切れないほどの砲撃によって壊れ、決して安全とは言えない状態になっている。銃座の大半は直撃弾を受けて中にいた兵士と共に吹き飛んでしまった。懸命に弾薬を運んでいた鉄血勤皇隊の生徒たちの多くも犠牲になっていた。
そんな発射口から顔を出して下を確認すると数人のアメリカ兵が断崖に取り付いてよじ登ってくるのが見えた。ここでは軽機関銃を下に向けて銃弾を浴びせるのが最善の策だが、全長119センチの99式軽機関銃では全身を露出させないと構えることはできない。
「おい、手榴弾を転がせ」この射座では指揮官になっている上等兵が1等兵に声を掛けた。確かに手榴弾を転がして落とせば途中で爆発するから斜面の敵を殺傷することができる。
「はい、1発いきます」指示を受けて1等兵が足元の木箱から99式手榴弾を1個取り出した。99式手榴弾は爆発力で敵を殺傷するため破片式の97式手榴弾のように本体表面に溝を掘っていない。その分、威力を強化するようにTNT火薬ではなく日本海海戦で威力を発揮した砲弾の炸薬として有名になった下瀬火薬と同じピクリン酸火薬を使っている。
「よし、アイツの真上に投げろ。そこから転がすんだ」「はい」1等兵は手榴弾の信管基部を外すと底を地面で叩き、上半身を乗り出して5メートルほど横に投げた。
その瞬間、1等兵は機関銃の集中射撃を受けて銃座の中に血飛沫を撒き散らし、断崖を落ちていった。同時に斜面では爆発音が響き、日本兵のものではない悲鳴が聞こえてきた。おそらくアメリカ軍は外を確認した上等兵の姿で銃座の位置を特定し、機関銃の照準を合わせていたのだ。
「池田・・・」上等兵は自分の指示で戦死した1等兵の名を呟き、手で顔に着いた血を拭き取ると弾倉が入った木箱を脇に引き寄せた。先ほどまで弾薬手として弾倉を手渡していた1等兵はもういない。この木箱を運んできた生徒の爆弾で吹き飛んだ遺骸も外で見つけた。
射撃準備を整えたところで上等兵は鉄帽をかぶり直してもう一度、下を確認した。すると真下を登ってくるアメリカ兵がいた。アメリカ兵は同世代の上等兵と視線が合うと何故か笑顔になった。上等兵もアメリカ兵の青い目と人懐こい笑顔、そしてヘルメットの顎紐に絡んでいる金髪から目が離せなくなったが、手は意思とは別行動をとった。
引き寄せた木箱に入っている手榴弾を1個掴むと信管基部を抜き、底を手前の岩で叩いて2秒待ってから転がり落とした。上等兵はアメリカ兵の顔が恐怖に歪むのを見る前に崩れ残っている岩場の陰に身を押し込んだ。そこで手榴弾が爆発した。
今度のアメリカ兵は悲鳴を上げることもなく戦死したようだ。ところがアメリカ軍は兵士の仇を討とうとしているかのように先ほど以上に激しい銃撃を加えてきた。銃座の発射口にしている岩場の割れ目から絶え間なく銃弾が射ち込まれくる。石灰岩の壁が砕け散り、狭い銃座の中を跳弾(ちょうだん)が飛び交っている。上等兵は可能な限り低く伏せていたが、身体には何発もの銃弾を浴びた。ただし、跳弾は硬い物に当たった時に先端が変形するため、命中しても身体には突き刺さらず一点に強烈な打撃を与えるだけだ。それでも無事でいられるはずもなく、上等兵は全身の骨が砕かれる激痛に耐えながら次第に名誉の戦死を遂げていった。
ある夜、世にも不思議な戦闘が始まった。それはアメリカ軍の方からまさしく口火を切った。
「ジャップ、お前らは好く戦った。だけど勝負はついた。早く降参しろ」月明りの中、アメリカ兵たちが断崖の下に出てきて大声で話しかけてきたのだ。
「アメ公、お前らも好く戦った。しかし、皇軍には絶対に勝てない。諦めて家に帰れ」すると日本兵も応戦した。両者のヘルメット・鉄帽は月に照らされて浮き上がっており、銃撃すれば殺傷することは容易だ。しかし、両軍は1発の銃弾も発射することなく、夜が白むまで口喧嘩と言う戦闘を繰り広げた(何故か現在の沖縄戦史には記載さていない)。
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  1. 2019/09/11(水) 13:29:50|
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