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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1675(かなり実話です)

思いがけない迎撃を受けて1個中隊を失ったアメリカ海兵隊題6師団第22連隊第2大隊は翌13日には2個中隊でシュガーロ―フを攻撃した。しかし、多大の犠牲を払って山に近づいたものの平地に身体を露出していたため陣地からの狙い射ちを受けて撤退せざるを得なかった。
「こうなると我が第2大隊の責任においてシュガーロ―フを制圧しなければならない」シュガーロ―フの名づけ親であるウッドハウス中佐は大隊長として攻撃に本腰を入れた。
「今回は全力を挙げて攻撃する。これであの小さな山にこもっている日本兵などは壊滅できるはずだ」「しかし、大損害を受けた3個中隊の残存兵力では実質的に2個中隊にもなりません」大隊本部の幕僚であるコートニー少佐は上級部隊に支援を要望せずに大隊だけで攻撃を強行するウッドハウス中佐の姿勢に疑問を感じていたが、激戦に尻込みすることはアメリカ海兵隊員が忌み嫌う「臆病」になる。コートニー少佐は自分が作成した通りの編成が執れていることを確認すると互いの銃弾が届く近距離にある集結地から部隊を送り出した。
「中隊長、山肌に取りつきました」日没前、長距離・長時間の匍匐前進でF中隊がシュガーロ―フの斜面に辿りついた。目の前にある斜面を登れば山頂は遠くない。中隊長の大尉は振り返って確認したが別の中隊が追いついてくる様子はない。
「ゴー(前進)」中隊長がおそらくアメリカ軍では最も短い号令を吐くと兵隊たちは這って斜面を登り始めた。この人員、持っている武器で山頂を確保できるかは二の次だ。すると斜面を動く人影に気づいた日本軍が銃弾を浴びせてきた。日本兵は銃座から身を乗り出して斜面に沿って銃撃してくる。そのため低い弾道を描いて弾丸が飛んできた。
「グッ・・・」「大尉」数十メートルの斜面の途中で中隊長が転がり落ちていった。手には無線機を持ったままだ。次級者が取りに行って通信を維持するのは戦闘行動の基本だが、そのような余裕はない。今は山頂を目指して這って行くだけだ。
「あの低い丘が我がアメリカ海兵隊の3個中隊でも制圧できないのか」日没後になって2個中隊が逃げ戻り、F中隊が連絡不能に陥っている状況にウッドハウス中佐は苦々しげに唇を歪めた。今日は新月から2晩目で闇は深く、その奥で銃声は続いている。
「取り敢えず連絡が取れないF中隊の確認に向かわなければなりません」「うん、通信機が壊れて戦果が報告できないだけで、すでに山頂を占領しているのかも知れんからな」ウッドハウス中佐の見解とは反対にホイットニー少佐は「全滅」の可能性を考えていた。
結局、この増援部隊も日本軍の攻撃を受けて大損害を出し、深夜には炊事兵や通信手、さらに憲兵まで投入したが壊滅し、この部隊に同行していたホイットニー少佐自身も戦死した。
この日、F中隊の一部は山頂にまで登ったものの暗闇の中、至近距離で射ち合い、最後には日米両軍兵士による手榴弾の投擲合戦が始まった。これ以降、シュガーロ―フの山頂には「ハンドグレネードリッチ(手榴弾が一杯)」と言う別名がついた。
翌朝、日の出とともに派遣されてきた第29連隊のD中隊がシュガーロ―フの山頂に踏み留まっているF中隊の増援に向かった。しかし、山肌を登るアメリカ兵を日本軍は離れた陣地から激しく攻撃し、周囲を含めて一掃してしまった。さらに日本軍はアメリカ軍の集結地に擲弾を射ち込み大隊長以下、多数の将兵を戦死・負傷させた。これではロシア軍が近代土木工学と大量の資材を注ぎ込んで建設した旅順要塞を十分な掩護火力もなく正面攻撃を繰り返した日露戦争の乃木第3軍をアメリカ海兵隊が再現しているようだ。
「玉城、弾薬を補充してこい」松泉はハーフムーンの陣地で弾薬補給に当たっている。アメリカ軍はまだ察知していないが、シュガーロ―フとハーフムーンに隣接するホースシュー(馬の蹄鉄)の3つの丘は地下壕でつながっていて鉄血勤皇隊や地元の志願者を含む約500人が配置されている。各陣地は緊密に連絡を取りながら共同で戦闘を繰り広げており、中でも那覇市民の墓苑だったハーフムーンにある多くの亀甲墓はトーチカに改造されているためシュガーロ―フに近づくアメリカ兵を背後から銃撃していた。
「弾薬の補充です。水筒も持ってきました」「おう、ありがとさん」松泉は亀甲墓の裏に開けた穴を潜って中で軽機関銃を構えている2人の兵隊に声を掛けた。松泉が水筒を手渡すと兵隊たちは早速、口に当てて飲み始めた。喉が「ゴクゴク」と音を立てて波打っている。
「うん、冷たくて美味い。汲んで来たばかりだな」「生きているってのはありがてェなァ」水筒の水はハーフムーンの裏手にある泉で汲んでいる。敵に遭遇する危険を冒しながら汲んでいる苦労もこの笑顔で報われるような気がする。
「お骨と一緒に戦っていると守ってもらえる気がするよ」松泉が空薬莢を拾い集めて木箱に入れていると兵隊は石室の隅に並べたジーシカーミ(厨子甕=骨壷)に手を合わせて呟いた。
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  1. 2019/09/16(月) 12:45:36|
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