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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1676(かなり実話です)

シュガーロ―フの攻防戦も4日目に入り、アメリカ海兵隊では第2大隊長以下が戦死・負傷して戦力が半減した第22連隊に代わって第29連隊がこの要塞を制圧する任務を負うことになった。それに先立って第6師団ではようやく日本軍の防御態勢を検討した。
「ジャップの兵力はどれくらいなんだ」「少なく見積もっても1個大隊、下手すればそれ以上だ」参考人として呼ばれている第22連隊の士官が顔を強張らせて答えた。この士官もシュガーロ―フに取りつきながら離れた陣地からの機銃掃射を受けて部下の大半を失っていた。これまで太平洋諸島での戦闘ではアメリカ軍が日本軍守備隊の3倍以上の兵力と圧倒的な火力で圧倒してきたが今回は対等に射ち合っている。これでは過去の経験は役に立たない。
「シュガーロ―フとハーフムーンからの攻撃を見ていると両者の連携が密接過ぎるようだ。これは電話線が生きていて通信が維持できていると考えるべきだろう」「あれだけ艦砲射撃を加えても切断できないとなると地下ケーブルを構築しているとしか思えないな」流石にアメリカ軍は両方の陣地が地下トンネルでつながっているとまでは考えていなかった。
「そうなると両方の陣地を同時に攻撃しないと敵の回復攻撃を受け続けることになる。連隊全力で総攻撃を加えるべきだ」しかし、この結論はまだ甘かった。
この日、第29連隊は戦車中隊の支援を受けてシュガーロ―フとハーフムーン、ホースシューの3つの丘の陣地を総攻撃したが、先行する戦車は日本兵が黄リン火薬入りの梱包爆弾を抱えて自爆し、キャタビラを切られて停車したところに1式4.7糎砲の射撃を至近距離から受けて次々に撃破されていった。歩兵だけになれば丘と周囲に分散配置されている銃座からの銃撃を受け、それに擲弾も加わり、第22連隊同様の深刻な損害を受けた。そして続きがあった
「敵の集中砲火を浴びている。艦隊に掩護射撃を要請してくれ」戦況が3つの丘からの有効射程(照準した正確な射撃が可能な距離)外で包囲したまま膠着した頃、首里の方向からの砲撃が始まった。その弾着は極めて正確でアメリカ軍が将兵を配置している場所を狙い射ちしてくる。おそらく日本軍はこちらの陣地からも情報を送り、着弾点を修正させているらしい。この時代を先取りしたような部隊運用は日露戦争から進化を止めているこれまでの日本軍には見られなかった。アメリカ軍の上層部は八原高級参謀の名前と経歴を脅威と憎悪として再認識した。
「僕たちも連れて行って下さい」結局、アメリカ軍は包囲を維持できず日没後に撤退したが、日本軍はそれを追跡し、集結地に夜襲をかけた。松泉は同級生たちと陣地の中で武装し、出撃準備を整えている夜襲部隊の指揮官に直訴した。日本軍も激戦の連続で多くの将兵が戦死、負傷しており、今回は志願してきた地元の男性たちも銃剣を手に参加することになっている。
「子供が何を言っている。戦うのは大人の仕事だ。お前たちは手伝うだけで良いんだ」指揮官の中尉は苦笑しながら首を振った。今夜も月齢が若く辺りは暗い。
「ニイニたちは戦争が終わった後のシマ(沖縄)を作ってもらわないといかんのさァ。今はオジイたちに任せておき」不満そうな顔を見合わせている松泉たち鉄血勤皇隊の少年たちに50歳に近い男性が声を掛けた。男性は浴衣の裾を帯に巻き上げ、足には地下足袋を履いている。暗い中の人影でも完全武装の兵隊と軽装の志願者は一目瞭然だった。
アメリカ兵たちは負傷兵を見捨てることはせず、衛生車両が呼べない時には担架に載せて運んで行くため撤収の足は遅い。出遅れた日本軍も十分追いつけた。集結地ではエンジン式発電機で煌々と灯りを点けて、医官と衛生兵が負傷者の処置を始めていた。
「射てェ」集結地を包囲したのを確認した指揮官は瓦礫の中で立ち上がると軍刀を振って周囲に響く号令を叫んだ。同時に数丁の99式軽機関銃が火を噴き、99式歩兵銃もお伴をする。暗闇の中、軽機関銃の射出炎が点滅し、歩兵銃は単発の閃光を放っている。
「敵襲だ」「電気を消せ」「応戦せよ」士官たちは大声で指示するが、世界最強のはずの海兵隊員たちは地面に伏せて身動きできなくなっている。その様子を見ていた指揮官は軽機関銃の弾薬が尽きて発砲が止まったところで軍刀を振り上げた。
「突撃にーィ、進めェ」「わーッ」号令を受けて兵隊と沖縄の男性たちは雄叫びを上げて駈け出した。暗闇の中から集結地の照明に映し出された日本兵が姿を現すのはアメリカ兵にとっては地獄から魔者が襲いかかってくるようにしか見えない。
「日本兵だァ」「助けてくれェ」「お母さーん」「悪魔が襲ってくるよォ」アメリカ兵たちが条件反射で応戦したため一方的殺害ではなく近接戦闘になったが、日本軍が撤収してから診断書には「戦闘疲労患者」と記述される発狂者が大量発生した。暗闇の中に叫び声が響き、束の間の仮眠を取るはずの海兵隊員たちは横になっただけだった。ただし、参戦初日に太平洋戦線で苦しめられ続けている日本軍の夜襲を経験してしまっては眠ることなどできるはずがない。
銅(あかがね)の海・民人の死沖縄戦の戦没者
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  1. 2019/09/17(火) 12:16:33|
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