FC2ブログ

古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1679(夢は実話です)

モリヤニンジン2佐=私には幼い頃から繰り返し見ている夢がある。記憶が残っているだけでも小学校に入る前に夜中に軍隊用語を叫んで母親を心配させたことがあった。その主人公は第3種軍装を着た海軍中尉であり、舞台は豊見城城址から裏手に下った集落だ。
夜が白み始めた頃から始まったアメリカ軍の激烈な艦砲射撃の中、私は士官斥候として首里を陥落させて南下してくるアメリカ軍の動向を探るため小禄の海軍沖縄根拠地隊の司令部壕から部下の2等兵曹1名を連れて豊見城城址の背後に出ていた。ここにも小禄飛行場方向からは激しい発射音が絶え間なく聞こえ、時折、流れ砲弾が落下して爆発している。
「中尉、陸軍は酷過ぎませんか」99式歩兵銃を抱えた2等兵曹が城址からの坂道を下りながら忌々しげに不満を吐き出した。海軍沖縄根拠地隊は第32軍から「第32軍司令部は5月26日に喜屋武岬方面に移動する。海軍の新たな配置先は真栄里」との連絡を受け、人力では運搬できない重機関銃や携帯不能の弾薬、大型の通信機材などを全て破壊し、地下壕もアメリカ軍が利用できないように処置して真栄里に向かった。
ところが移動前の第32軍司令部から「命令では第32軍の移動を支援した上で6月2日に撤退せよと伝えたはずだ」と叱責する電報が入ったため、大田司令官は「海軍陸戦隊の散り花を咲かせよう」と訓示して5月28日の夜に破壊した司令部壕に戻った。戻ってからは擱座した戦闘機から機銃を取り外して地上戦用に改造し、爆破して崩した壁の石を積んで掩体にするなどの虚しい作業に励んできたのだから2等兵曹が不満を口にすることを叱責できない。
その時、空気を裂く音を発することなく砲弾が落下して背後で炸裂した。私は足元に落ちていた空薬莢を拾おうと身をかがめていたため前のめりに吹き飛ばされたが、顔を上げると目の前に千切れた首が被ったままの鉄帽が転がっていた。周囲には2等兵曹の肉片と折れ曲がった99式砲兵銃や銃剣が飛び散っている。私が無傷なのが不思議になる惨状だった。
私は1人なっても斥候の任務を遂行しなければならず、坂の下の集落に踏み入っていった。沖縄根拠地隊に着任して豊見城城址を見学した後、この集落を通ったことがあるが、あの時の沖縄風の赤い屋根と石垣が整然と並んだ美しい街並みは空襲と砲撃で破壊され尽くしていて、崩れた石垣の中に瓦が散乱し、焼け焦げた柱が倒れ重なっている。
私は砲声と鳥や虫の鳴き声が混在する空気の中に人の声を聞き、辺りを見回すと崩れ残っている石垣の影に若い母親と2人の幼い男の子が身を潜めていた。膝までの浴衣を羽織っている男の子たちは兄が5歳、弟は3歳くらいかも知れない。
「どうした。逃げ遅れたのか」私の姿を見て母親は安堵したように微笑み、すがるような視線を向けた。母親は茶色に汚れた白のブラウスを着てモンペを履いているが、胸に縫い付けてあるはずの名札は剥がれてなくなっている。
「知念半島に逃げるつもりだったんですが、義母が義父の形見を忘れたと言うんで戻ったんです」「間もなく小禄でも戦闘が始まるから早く逃げた方が良い。この食料を持って行きなさい」私は肩から吊った雑納から缶飯を取り出すと母親に手渡した。本当は護身用に拳銃も渡したいところだが余計な荷物になるので止めた。
「静かに」その時、私の耳にエンジンの音と数名の話し声が飛び込んできた。会話は英語だ。母親は下の子を抱き締めて口を塞ぎ、私が上の子の口を押さえた。
「海兵隊は今日上陸するんだ。我々が先にこの城跡を占領すれば小禄制圧の手柄は陸軍のものだ」「小禄のシンボルはジャップの海兵隊(海軍陸戦隊)の陣地よりもこの城跡ですからね」アメリカ兵たちの会話からアメリカ海兵隊の上陸が今日6月4日に始まることが判った。しかし、私にはそれを報告することはできない。私は怯えている母親の肩に手をかけると指示を与えた。
「あれはアメリカ陸軍の偵察隊だ。私が囮になるからその隙に逃げなさい」「でも、海軍さんは・・・」母親がためらいの言葉を口にし終わる前に私は上の子の頭を撫でて立ち上がった。
私は石垣の陰を走ってアメリカ兵たちの前方に回り、集落の端で拳銃を構えジープの助手席に立っている士官を狙った。そして引き金を絞ると命中を確認することなく道路に飛び出して走り出した。私は士官用の革長靴ではなく兵用の軍靴と巻き脚絆なので足は軽い。
「オーッ、ジャプス・マリンコ(日本の海軍陸戦隊だ)」背後からアメリカ兵たちの叫び声が聞こえた。続いて聞きなれたM1ガーランド小銃とトンプソン・サブマシンガンの乾いた銃声が響いてきた。両脇を熱い空気の塊が通り過ぎていく。
「軍刀が邪魔だなァ」足に絡む軍刀を手で押さえた時、背中に熱く焼いた巨石が当たったような気がして私は仰向けに倒れた。アメリカ兵たちの「ビンゴ(命中)」と言う歓声が聞こえる。
「雨が上がったな。空が青いや・・・」目に映っている光景が暗くなり、間もなく電源が切れた。
森野中尉遺影海軍陸戦隊・モリヤニンジン中尉の遺影

スポンサーサイト



  1. 2019/09/20(金) 13:31:10|
  2. 夜の連続小説8
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<9月20日・(風呂ではない)バスの日 | ホーム | 振り向けばイエスタディ1678(かなり実話です)>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://1pen1kyusho3.blog.fc2.com/tb.php/5639-315a449e
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)