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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1681(かなり実話です)

真栄里での戦闘は第22連隊の奮戦でアメリカ軍にとっては予定外に長期化していた。5日に姿を見せた先遣隊は対戦車地雷と人力で運搬できた1式4.7センチ砲によって戦車を破壊され、歩兵部隊も随所に設けた銃座からの機関銃の掃射で大損害を出した。
アメリカ海兵隊が本格的に侵攻を再開したのは6月11日に小禄の海軍根拠地隊を全滅させてからだったが、その前には糸満沖に移動してきた艦隊が艦砲射撃を加えた。しかし、石灰岩の横穴や鍾乳洞を利用した陣地には効果が低く、日本兵の卓越した狙撃によって指揮官から倒され、進撃路上で一進一退を繰り返すばかりだった。
「対戦車地雷はもうありません」アメリカ軍との攻防戦が始まって3日が過ぎた頃、第22連隊の指揮所壕内では補給担当者が武器の在庫が報告していた。移動に際して歩兵銃と機関銃用の弾薬や擲弾は食料と一緒に荷車に載せて引き、兵隊が可能な限り携帯してきたが対戦車地雷まで運ぶ余裕がなかった。それでも敵が戦車を先頭に進撃してくる以上、それを阻止する対戦車地雷がなくなれば残る戦法は梱包爆弾しかない。
「しかし、アメリカ軍も上陸以来、梱包爆弾には散々やられていますから、これまでのような戦果は見込めないでしょう」最近は戦車に後続してくる歩兵は絶えず道路上を警戒しており、梱包爆弾を抱えた兵隊が身を乗り出した瞬間に銃撃されることが増えている。
「それでも他に手段がない以上、やるしかないだろう」壕内の照明は石油ランプしかないので薄暗く、幕僚たちの沈痛に引きつった顔が悪鬼のように見えた。
「大城、比嘉、郷土のためだ。頼んだぞ」結局、梱包爆弾の肉薄攻撃は現地招集されたシマンチュウ(沖縄の人)の新兵たちが選ばれた。連隊としては戦闘に熟練した古参兵を失うよりは銃の取り扱いもままならない新兵を使う方が戦力の低下が少ないと言う合理的な計算があったのだが、この選定が「沖縄の人間に対する差別」と感じた者がいたのは間違いない。
「お前たちは小柄だから発見されにくい上に戦車の下に潜り込むのも簡単だ。必ず戦果が上がるから安心しろ」分隊長である軍曹の激励も無理な理由づけに聞こえる。両手で黄リンを混ぜた火薬を詰め込んだ木箱を持った金城と比嘉は周囲を見回し、一緒に現地招集されたシマンチュウたちに暗い目で無言の告別の辞を送った。
そんな第22連隊の激闘も6月17日には終わりを告げた。戦車部隊が下の道路に並んで砲門を丘に向けている中、歩兵たちが銃座と壕を火炎放射機と手榴弾で破壊して回った。
そして連隊指揮所壕がある鍾乳洞の垂直に深い入り口から日本軍の対戦車用梱包爆弾と同様の黄リンを混ぜた火薬を入れた木箱を投げ入れたのだ。この爆発によって道産子の連隊長である吉田勝大佐以下は戦死し、歩兵第22連隊は全滅した。
翌18日、アメリカ軍上陸部隊司令官のサイモン・ボリバー・バックナーJr中将は前線視察として真栄里の丘を訪れた。バックナー中将の第32軍の南部への移動を「敗走」とする誤解は訂正されていない。そのため舞台を移して激烈な組織戦闘が再開されていることも十分に理解できていなかった。この危機意識の欠落は多分にバックナー中将の性質だった。
「司令官、ここは前方の高台から弾が飛んできますから先には出ない方が好いですよ」従軍記者と副官や作戦参謀、軍医、衛生兵まで引き連れたバックナー中将を海兵隊第6師団の第22連隊長のハロルド・C・ロバーツ大佐が引き留めた。
「それなら迫力のある戦場を見せられるな。楽しみだ」バックナー中将は勝者の笑顔を見せるとロバーツ大佐の肩を叩き、トラック代わりに兵員や物資の運搬に使われている戦車が縦列駐車している道路を歩いていった。この直後、ロバーツ大佐は日本兵の狙撃を受けて戦死した。
「ここがジャップの歩兵第22連隊が立て籠もっていた真栄里です」バックナー中将一行は第22連隊の指揮所壕があった鍾乳洞を見下ろす高台に立って作戦参謀の説明を聞いていた。作戦参謀は地図を広げて地点名と風景を合わせるように説明している。バックナー中将はうなずきながら作戦参謀が指差す方向に顔を向け、数歩前進して確認しようとした。従軍記者たちは周囲の風景と一緒にバックナー中将の写真を撮影していた。この時点では丘の反対側の斜面の鍾乳洞には歩兵第32連隊が潜んでいるのだが、そんなことには気を止めていなかった。
すると1名の日本兵が丘からは死角になる岩場の陰から擲弾発射筒を発射した。この日本兵は沿道に配置されていた狙撃兵で、連隊が全滅してからも単独で戦闘を継続していたが、弾薬を射ち尽くしたため銃座に残っている弾丸を拾い集めに戻っていたのだ。
「司令官、危ない」副官が落下音に気がついて駆け寄ろうとした時には擲弾がバックナー中将の至近距離で破裂し、破片が胸部を深く抉っていた。その場で衛生兵が応急処置し、医官が輸血を開始したが間もなく息を引き取った(今の戦史では「日本軍の砲撃による」とされているが)。
沖縄戦バックナー中将戦死地糸満市真栄里の「バックナー中将戦死の地碑」
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  1. 2019/09/22(日) 13:19:42|
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