FC2ブログ

古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1692

岡倉はアフガニスタンに潜入していた。今年(2011年)の5月2日にアメリカがタリバーンによるテロの首謀者と断定しているウサマ・ビン=ラーディンが海軍特殊部隊の襲撃を受けて殺害されたため、その後の国内情勢を確認することが目的だ。イラクでの核施設探しは国務省のテイラーに同行したため先に結論を立ててそれを証明する証拠を見つけるアメリカ式の調査方法に協力させられそうになったが、今回の相棒は「長年の戦友」と言っても差し支えがないイギリスの諜報機関・MI6のジェームズなので成果も期待できる。
「ハンゾー(岡倉のコード・ネーム)、アフガニスタンでは我々のようなヨーロッパ人だけではなくてお前たちアジア人も敵視されているから危険を感じれば躊躇なく発砲することだ」パキスタンとの国境をメディア・パス(報道員査証)で通過するとイスラマバードで買った中古の日本製4WDのハンドルを握っているジェームズが前を向いたまま助言した。2人はメディア・パスで入国したので本来は武器を携行することは許されない。しかし、現地は国際法を厳守していられない事態に陥っているのだ。9.11テロを口実にブッシュ政権が始めた対イスラム戦争=21世紀版十字軍は国連を利用して攻撃の正当性を演出したためイスラム過激派たちに「イスラム教徒以外は敵」と言う極端で悲壮な覚悟を抱かせてしまった。実際、2007年には岡倉も関わった韓国のキリスト教団の集団拉致・殺害事件が発生し、2008年には日本の医療・農業支援組織のメンバーが殺害されている。この殺害事件の後、タリバーンは「この組織が住民の役に立っていることは知っている。だが住民に西洋文化を植えつけようとするスパイだ」「日本のように部隊を駐留させていない国の支援団体でも我々は殺害する」との声明を発表した。やはりジェームズが言う通りに行動するべきだろう。岡倉は外から見えないようにカメラ・バッグの底に隠してある拳銃を取り出して元に戻した。
「アメリカ主導の占領政策は失敗続きだな」荒廃したままになっている街並みを眺めながらジェームズは苦々しげに吐き捨てた。アメリカが主導し、イギリスのブレア政権が追従したアフガニスタンへの侵攻はロシア正教の信者も少なくない北部の軍閥を前面に立てて開始した。アメリカはイスラムの戒律を厳格に強制していたタリバーンに対する反発が国民の間に蔓延しており、その解放者として軍閥を歓迎すると考えていたのだ。
「タリバーンは率先して戒律を守って範を垂れていたから民衆に尊敬されていたんだ。イスラム教の戒律が苦痛を与えるだけの拷問だと思い込んでいるアメリカ政府には理解できないよ」岡倉はアフガニスタンに潜入して見聞したアフガニスタン国民のタリバーンに対する絶大な支持を国務省の役人たちに説明してきたのだが耳を貸すことはなかった。
「その点、我が国はアラビアのロレンスの母国だから少しは理解できるぞ」ジェームズは自分の皮肉を自嘲した。ブッシュ政権は国連の安全保障理事会でCIAの情報を根拠にタリバーンを糾弾するだけでは支持を集められないことを知るとブレア政権に協力を持ち掛けて、MI6が否定しているにも関わらずイギリス政府の見解として「イラクのフセイン政権が大量破壊兵器を製造している」と発表させた。それでアメリカはアフガニスタンを皮切りとする対イスラム戦争を強行したのだからアラブのイスラムの気風を愛したトーマス・エドワード・ロレンス中佐も砂漠の砂の中(日本人の「草葉の陰」に当たる)で怒っているはずだ。
「おまけにタリバーンを駆逐したつもりが今度は軍閥が国内抗争を始めて、それで軍閥を武装解除したらタリバーンの残党が勢力を盛り返した。とどめがオバマ政権のアフガニスタン撤退だ。世界を巻き込んで問題を起こしておきながら手に余ると自分は撤退する。この調子では中国が国際社会で君臨することになるのは時間の問題だぞ」「やはり大英帝国の復活はないか」今日のジェームズのイギリス流ジョークは中々に冴えている。日本人はアメリカだけが唯一絶対の超大国だと思っているが、オーストラリアから東南アジア、南アジア、さらに中東、アフリカなどの旧植民地におけるイギリスの影響力は現在もアメリカを凌駕している。ただし、そこに侵出してくる旧ソ連や中国に対抗するだけの軍事力を持たないのでアメリカに情報を提供して利用して言うのも両国の同盟関係の側面だ。
「ほう、女性の服装は随分と開放的になったな」市街地でも露店が並ぶ市場に差し掛かると買い物をする女性たちの姿に2人は声を揃えて同じ所見を述べた。タリバーンの時代には街で見かける女性たちはイスラム教の戒律と気候的な理由により、顔を含む全身を布で覆い目元も網で隠すブルカばかりだったが、今回はイランに多い顔以外を布で覆うチャドルや普通の服装で髪と背中をスカーフで隠すヒマールが大半だ。
「意外に美人が多いんだな」これはジェームズのジョークではない。愛妻家のはずの岡倉も素直にうなずいた。この性的関心を防ぐためイスラム教では男性が魅力を感じる部位を隠すのだ。
スポンサーサイト



  1. 2019/10/03(木) 13:13:41|
  2. 夜の連続小説8
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<第83回月刊「宗教」講座・カソリックが犯した大罪科「十字軍」 | ホーム | 振り向けばイエスタディ1691>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://1pen1kyusho3.blog.fc2.com/tb.php/5667-c01c9f06
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)