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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1702

翌日は思いがけず共通の趣味を持つことになった志織と上野の東京国立博物館と墨田区の刀剣博物館で日本刀を鑑賞した。どちらも国宝・重要文化財級の銘刀が並び、その圧倒的な迫力と武具としての究極の美に父と娘は目を輝かせた。
「お嬢さんは日本刀の真剣を持っているんですか」刀剣博物館では志織が展示品の案内をしていた学芸員に真剣の手入れについて質問した。学芸員は女子高生が真剣を手入れしていることに驚いたように確認してきた。日本の銃刀法では刀剣の所持に年齢制限を設けていないが常識的に未成年者には触れさせない。その前に志織がハワイのハイスクールの生徒とは思わないはずだ。
「はい、祖父が父の軍刀を預っているので、居合道をやっている私が手入れしているんです」この説明で学芸員は納得したようだが今度は私に質問してきた。
「お坊さんが軍刀を持っておられるのはやはり戦死者の遺品ですか」作務衣を着て、首には威儀細を掛けた坊主が軍刀を持っているとすれば戦死者の遺品が寺に奉納されたと考えるのが普通だ。戦時中に軍人だった祖父の軍刀を父が受け継いでいると考えることもできるが、それでは志織の説明は順番が逆転している。
「いいえ、父はジャパン・グランド・ジエータイのルテナン・カーネルだから自分の愛刀です」すると代わりに志織が説明したが、アメリカでの軍隊関係者の陸上自衛隊の呼称と英語の階級が目の前の坊主に重ならないはずだ。私は刀匠になった高校の先輩から自作の日本刀を贈られた時、手入れの方法を刀研ぎ師の曹長から習って義父に伝えた。先輩は「自分で調べろ」と冷たかったが、材料費の自腹が痛かったのかも知れない。勿論、謝礼金に10万円を送ったが、当時は美恵子が目を光らせていたのでそれ以上は無理だった。
「それでは刀身に丁字油を塗布しているんですね。打ち粉は1ヶ月に1回でもう一度、丁字油を塗り直している。それで大丈夫ですが、打ち粉の間隔はカレンダーではなく丁字油が乾燥してきたらやるようにして下さい。ハワイと日本では自然環境が違うでしょうから」志織と私の自己紹介を聞いて学芸員は感心した後、具体的に助言を与えてくれた。刀剣の手入れと言えば時代劇などでは白い粉を刀身に打ちかけて懐紙で拭き取る場面が浮かぶが、あれは防錆に塗布してある丁字油は植物性のため経年劣化で酸化すため拭き落とす作業だ。ちなみにあの白い粉は砥石を細かく砕いた粉末だ。私も佳織と鎌倉の骨董店で買った軍刀の手入れをしているが、金属を斬って生じたような刃毀れがあり使用済みであることを実感している。
「ダディが初めてマミィとセックスした時、バージンだったの」都内で夕食をすませて帰宅し、交代でシャワーを浴びた後、志織を相手にパジャマ・ミーティングを始めると真珠湾以上の奇襲攻撃を開始した。私は缶ビールを口にしていたが飲む寸前だったので吹くことはなかった。アメリカの女子高生らしい単刀直入な質問に戸惑いながら顔を見ると目は真剣だ。
「突然、どうしたんだ」「マミィは私に心から愛する人に出会うまでバージンを守りなさいって厳しく命令するの。でもハイスクールの友だちは『好きな人が喜ぶんだったら一緒に楽しめば好い』ってロスト・バージン(処女喪失)しているわ。だから・・・」ここで私は名古屋のオリエンタルから通販で買っておいたハワイの飲み物・グアバを勧め、志織は一口飲んで「美味しい」と微笑んだ。佳織は帰国子女として編入した公立中学校で個人指導を受けていた担任の教師に純潔を奪われた。伊丹のママさんの話ではそのことが心の傷になり、神戸の国際学校に転校してからは男子生徒と距離を置き、留学したアメリカの大学でも個人的に交際することはなかったようだ。私は佳織が私に純潔を捧げた梢に羨望、そして劣等感を抱いているように感じている。この事実を志織にどのように伝えるべきか悩みながらビールを飲み、注視以上の凝視をしている志織を見返した。
「マミィはお前が逃れることができたのとは逆の残念な結果を経験しているんだ。だからワシに抱かれて結婚した後もワシだけの自分になれなかったことを悔やみ続けてきた。それはマミィの責任ではないのに自分を責めているんだ。だから志織には愛する男性だけの自分になれる至高の喜びを経験させたいんじゃあないかな」回りくどい言い方だがこれが限界だろう。佳織が担任の教師に抱かれることになった状況は暴力を用いないレイプだったのは間違いない。
「ダディはマミィを責めたの・・・そんはずないよね」志織は厳しい目で思案をを始めた。頭の中では英語と日本語が激しく錯綜しているはずだ。
「やっぱりマミィはダディが好きなんだね」志織の適切な理解に私は安堵し、1本目の缶ビールを飲み干した。今日の缶ビールは梢が送ってくれたオリオン・ビールだ。グアバとオリオンで南の島セットと洒落込んだつもりだが流石に志織は気づいてくれない。急に先週、転属したばかりの佳織に会いたくなってきた。
15・JunJiHyunイメージ画像
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  1. 2019/10/13(日) 13:14:19|
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