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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1706

翌日は淳之介が操舵する連絡船に乗り、八重山の離島を観光することになった。淳之介としては「ちゅらさん」を知らない志織には本土の企業が作ったリゾート施設以外に見るものがない小浜島よりも竹富島で沖縄建築の街並みを観光しながら義母によれば住職は父と顔見知りらしい日本最南端の寺・喜宝院の蒐集館を見学して、昼食に竹富ソバを食べても時間があればカイジ浜の砂溜り(珊瑚礁で堰き止められて海岸の砂が溜まっている場所)で太陽の砂と呼ばれている星砂を拾うことがお勧めだが、志織は意外な抵抗を見せた。
「珊瑚礁まで行くには泳ぐんでしょう。私、水着を持ってないよ」確かに竹富島の砂溜りの水深は干潮時でも1メートルを超えるから水着でなければ無理だ。逆に水着でなければ波打ち際での砂拾いだけになってしまう。浜で星砂を拾うには掌を砂に押し当ててくっ付いた砂粒の中から探すのだが興味がなければ時間潰しにはならない。
「あかりのビキニで好ければ貸すぞ」「お義姉さん、ビキニなんて着るの」淳之介の提案に志織が意外そうな顔をした。視覚障害者のあかりは自分だけでは服を選ぶことができず、この水着も淳之介の好みなのだ。恵祥を身ごもる前、淳之介はあかりを連れて海に遊びに行ったが、それは水浴びを楽しむよりも水着姿を鑑賞することが目的だった。そうなると高校時代に寮で仲間たちと回し読みしていた雑誌のグラビアを飾っていた派手派手しいデザインになる。淳之介は志織の半分立腹した顔を見てタンスから出してくるのは止めた。
「私、胸がないからビキニは駄目なの。ハワイでもスポーツ水着専門よ」志織は結婚式で会ったあかりの清楚で真摯な雰囲気が汚されたような気がしたが、そのような性的感覚も自然な形で楽しんでいる両親の生活を思い出して納得した。それでも憧れの兄は別だ。やはり重度身体障害者である妻を大切に守っている優しさだけの夫でいてもらいたかった。
「お前の身体はスポーツ・ウーマンっぽいな。何かやってるのか」淳之介は「胸がない」と言う申告に座卓越しに志織の上半身を目で確認した。いわゆる貧乳・平乳の女性は総じて痩身だが、Tシャツから覗く志織の首筋から肩は逞しく、腕も柔らかい筋肉が発達していることが判る。
「うん、居合道をやっているよ。今は2段なんだ」「居合道って刀を振り回す型だろう。踊りみたいなものだな」石垣市内には空手以外の武道の道場はあまりないため淳之介は本土にいた頃、演武を見たくらいで居合道をよく知らない。すると案の定、志織は少し膨らんで熱く語り始めた。
「居合道の型は真剣を使う理想的な動作だから身体が覚えていればから竹刀のスポーツになっている剣道よりも実戦的なのよ」「真剣を持っていればだろう。実戦的と言うのは無理があるんじゃあないか」淳之介としては中学生の頃、久居駐屯地の居合道部の演武で見た青竹の試し斬りも技よりも真剣の斬れ味に驚いたのだ。
「そんなことないよ。私だってレイプされそうになった時、居合道の技で身を守ったんだもん」「何だって」志織は淳之介の大声に驚いた。エアコンをかけているので窓は閉まっているが、開いていれば下の道路を歩いている通行人が立ち止ったはずだ。志織は淳之介の厳しい視線を正面で受け留めながら説明を再開した。
「日系人の生徒が東北の被災地に送る義捐金の募金をやっていることを批判した韓国系の同級生を私が言い負かしたら、ナイフで脅してレイプしようとしたのよ」「韓国人ならやりそうな話だな」淳之介も1人で過ごす生活ではテレビの報道番組を見る機会が増え、最近の韓国の反日運動の背景にあるのは中国の激情とは違い怨嗟であることを感じていた。続いて沖縄の県内ニュースを見るとテレビは共通した扇動を繰り広げている。
「でも持っていた製図用の定規で一の太刀を加えたら一撃で気絶したよ」これは「気絶」と言うよりも「卒倒」だったのだが志織の日本語力はあまり高度ではない。
「それで無事だったんだな」「うん、大丈夫。居合道って実戦的でしょう」結局、志織の言いたいことはこちらだったらしい。淳之介は志織のスマートホーンで居合道の稽古の動画を見せてもらったが道衣姿も凛々しく真剣な気合いに武道系女子の雰囲気が十分に伝わってきた。
翌日、志織は朝一番の便で竹富島に渡り、島内観光と昼食を終えて昼過ぎの便で拾われるとそのまま同乗して最終便までつき合った。
「海に抱かれて 男ならば 例え破れても 燃える夢を持とう・・・海よ、俺の海よ、大きなその愛よ 男の想いを その胸に抱き止めて・・・」各離島の波止場での待ち時間には取り留めもない話をして過ごしたが、今日は持ってきたウクレレを弾きながら加山雄三の名曲を唄った。
「ハワイの海は八重山まで続いているよ。私は淳ちゃんに届くように海に話しかけてるんだ。波の音の中に私の声が聞こえるでしょう」こんな志織の想いも歌にできそうだ。
16・JunJihyunイメージ画像
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  1. 2019/10/17(木) 13:30:04|
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