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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1708

佳織が香川県に転属して間もなく1ヶ月経つが、私は低次元だが幹部自衛官としては意外に切実な問題に気がついて困っていた。そこで対策を講じるため佳織に電話した。
「そっちは読売テレビが映るだろう」「西日本放送やね。入るで」香川県の民間放送は私が善通寺にいた頃から瀬戸内海を挟んだ対岸の岡山県と電波とチャンネルを共有している。西日本放送は高松に本社を置く日本テレビ系列だ。
「だったら『なかじんのそこまで行って委員会』を録画して送ってくれよ」「そうかァ。ママさんに頼むことないんやね」私の要望に佳織も即座に反応した。「なかじんのそこまで行って委員会」は大阪の読売テレビが制作している時事問題のバラエティー番組だが関東圏では放送されていない。だからこそ出演者は教条主義の東京では暴言と糾弾されるような本音ベースの激論を戦わせている。議論の中で出演者が発言の根拠として提示する情報も東京のマスコミは絶対に報じない漏洩ネタが続出していて私が独自に確認すると意外に信憑性が高い。これまで伊丹のママさんが月に1回録画したDVDを送ってくれていたので久里浜の佳織の官舎で見ていたのだが、佳織が録画できるなら他人の手を煩わせる必要はない。むしろ佳織なら毎週送らせても郵送料は自腹のウチだから遠慮はいらない。
「番組じゃあ今度の内閣交代についてどう言ってるんだ」問題が解決したところで事前情報を取材することにした。今まではDVDを見た後、パジャマ・ミーティングに移行したのだが、その楽しみはラブ・コールになる。
「首相が交代するよりも政権を開け渡せって言う意見が目立ってるね」「勝屋だな」勝屋とは出演者の中でも過激な言動で賛否両論を集めている言論人の勝屋将彦だ。私個人は暴走して繰り広げる猥褻ネタを楽しみにしている。ただし、歯に衣を着せぬ発言が売り物の番組にもマスコミ業界の自主規制は適用されるようで、勝屋が興奮して過激な発言をすると隠蔽のための銃声が入り、猥褻な話題ではそれ以上の機関銃状態だ。
「勝屋は今回の代表選挙が世代交代に名を借りた尾沢潰しだと思って批判しているんじゃあないか」私としては勝屋が尾沢一郎を熱烈に支持していることに嫌悪感を抱いているのだが、チベットの大虐殺が起きてミャンマーの南方佛教僧からの依頼を受けて日本での抗議活動を始めていた中、北京オリンピックの聖火リレーの出発点が長野の善光寺に決まったため山内の若い僧侶たちを阻止に向けて同調させていると、勝屋がテレビで同様の主張をしたことで世論も賛同に大きく動き出した。その一点だけは同志でもある。
「三宅先生はパネル出演だけど野畑に期待してるみたいやね」「野畑かァ。空挺の元曹長の息子だからって期待している隊員も多いけど松下政経塾の出身だからな」「民政党には松下政経塾出身者が多いよね」松下電器を創業した松下幸之助会長が「ジバン」「カンバン」「カバン」の3バンを継承・譲渡する世襲制や徒弟制が常態化している政界に新たな人材を送り込もうとして開設した松下政経塾だが、政界の本流にある実力者は冷ややかに傍観していたため熊本県知事から首相になった馬鹿殿や自民党を飛び出した尾沢の愛人から野党・与党を渡り歩いた元キャスターなど知名度だけの軽薄な人物が指導に当たることになり、その申し子を量産してしまった。私は「素人が思い込みで政治権力を握ったことで日本を滅ぼした」と言う意味では松下村塾と松下政経塾は同罪だと考えている。
「今は地本の隊員が生徒を勧誘するのにも政治的立場が難しいんや。息子を自衛隊に入れようとする親だから自民党支持やと思って政権復活を期待するような話をすると逆やったりして。特に徳島県は千石官房長官の地元やから香川でも影響を受けている人が『民政党政権をどう思う』って質問してきたりするんだよ」地方協力本部は自衛隊の活動を地域に周知することが任務だが、自民党の保守政権だけが自衛隊の存在を認め、防衛力を整備してきた時代が長かったため野党支持者から「自民党の飼い犬」視されているのは間違いない。それが政権交代で野党の指揮下に入ることになった。営業マンが必死に売り込んだ商品には直接関係しない社長個人の失態で取り引きが困難になるのに近いような気がする。
「毎日の朝礼で服務の宣誓を唱和したらどうだ」「『政治的活動に関与せず』やね」全ての自衛官は入隊時に「服務の宣誓」に署名・捺印する。本来は暗唱するべきだが「自衛官の心構え」の5箇条は「シコセキダン」の頭文字で思い出せても短くはない「服務の宣誓」となると毎朝勤めるお経を覚えるような訳にはいかない。その点、我が家では毎週勤めている殉職自衛官の慰霊法要では服務の宣誓の「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に努め」の一節で魂魄に自分の死を納得してもらっているため佳織も暗唱しているのだ。
「地本の仕事って意外にウチに向いているみたいや」この言葉を聞いて安心して電話を終えた。
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  1. 2019/10/19(土) 12:43:48|
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