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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1709

佳織は8月中の「なかじんのそこまで行って委員会」を録画していなかったので私は新聞各紙と東京の民放各局の報道バラエティー番組を参考にしながら民政党代表選挙を観戦することになった。それにしてもA日新聞が妙に野畑氏に肩入れしているのが気になる。
「民政党の代表選挙って実際は総理大臣を決めてるんでしょう。何だか滅茶苦茶軽いんですが・・・」「ガキどもの生徒会の選挙並みだな」出勤時、私が駅のキオスクで買い集めて来る新聞を回し読みしながら1曹と曹長は馬鹿にしたような顔で所見を述べた。職場でも「最高指揮官の交代」と言う理由でテレビを点けているが、自民党の総裁選挙のように東映ヤクザ映画を連想させるような人相で対立候補を睨む迫力がなく、素人でも「無理だ」と判る人物の乱立に元生徒会長としては仕事の一環として視聴させておく必要があるのか悩んでしまう。
「やっぱり野畑さんが有力なんでしょう。地元でも期待する声が高まっていますよ」珍しく時事問題に女性事務官も加わってきた。このままでは女性事務官は定年退官するのと最高指揮官の交代が重なることになる。当然、防衛大臣も交代するはずなので混乱の中で40年余りの防衛庁・防衛省での奉職生活を終えるのだ。
「野畑は空挺の曹長の息子なのに民政党に参加したのが納得できませんね」「弟も民政党所属の千葉県会議員でしょう」「弟さんは野畑さんが国会議員になったから交代したんですよ」女性事務官は擁護したつもりらしいが、私は「妙に自民党的だなァ」と別の感想を持った。
「息子が揃って野党に入ったくらいだから、親父は空挺でも不満分子だったんじゃあないですか」中途半端な知識と見解で新聞を読むと論説を疑い過ぎて極端な批判に走ってしまうことがある。野畑の出身家庭については新聞の人物紹介記事で読んでいるが、父親の曹長は富山県の農家の6人兄弟の末っ子、母親は千葉県の農家の11人兄妹の末っ子だったはずだ。ただし、野畑はインタビューの中で「生活は困窮していた」と強弁していたが、降下手当てがもらえる空挺隊員は一般の自衛官よりも高給取りであり、兄は早稲田大学、弟は法政大学に進学しているのだから単なる「苦労人伝説」の創作らしい。
「結局、貧乏な農家の末っ子が自衛隊に入ったのは生活のためで、国防と言う意識を持つのは入隊後なんだよ」「それにしても精鋭を誇示する第1空挺団で使命感を持たないなんて有り得るんですかね」曹長と1曹の議論は自衛隊の常識の枠から踏み出せないようだ。自民党を支持していれば使命感を持ち、していなければ不満分子と言うのはあまりにも独断と偏見に過ぎる。私自身も根っからの自民党嫌いなので選挙で投票したことはないが、それでも今回の政権交代で考え方を変える必要性は感じている。
「野畑さんの奥さんは素敵な方ですよ」ここで女性事務官が陸曹2人の話の腰を折るために地元情報を提供した。確かに政権交代の前からマスコミは雀山の妻・辛(かのと)が宝塚歌劇団の端役だったことを花形スターだったかのように喧伝し、不倫の略奪婚だったことまで美談にしていた。缶の妻・信子は学生運動の同志時代からの感覚で夫を論破することを誇示していた。それに比べれば野畑の妻はテレビや新聞どころか雑誌にも登場した記憶がない。
「本当に控え目な奥ゆかしい方ですが、ピアノの先生だけに声が美しくて選挙の応援演説や集会での挨拶もプロのアナウンサーのようだって評判なんです。カラオケを唄うと聞き惚れてしまいますよ」どうやら女性事務官は野畑の熱烈な支持者らしい。退職後は政治活動が自由になるから後援会に入っても問題はないが、あと1週間は待ってもらいたいものだ。
「それで自民党の議員みたいに地元に利権を持って来てるんですか」「それは・・・」今度は私が話の腰を折るための質問をすると女性事務官は黙って机の上に広げた新聞に目を落とした。
民政党の代表選挙は「総理大臣を選ぶ」と言う責任を考えていないのか、逆に「総理大臣なんて誰でも務まる」と見切ってしまったとしか思えないような軽い人物たちで争われた。私としては「これは民政党の人材払底であり、誰が総理大臣になっても果たして組閣ができるのか=防衛大臣はどうなる」と他人事ではない心配をしていた。
「私の定年が野畑総理の下で迎えられるなんて思いませんでした。感激です」結局、8月29日に行われた代表選挙で女性事務官が支持する野畑が当選した。女性事務官はテレビの決選投票の中継を見ながら感激しているが、衆参両院の首班指名を受けた後に天皇の認証を受けなければ総理大臣にはなれない。最近の国会運営を見ていると2日以内の開会は難しいのではないか。
野畑首相は演説で佛教系の書家である相田みつおの「どうじょうがさ 金魚のまねすることねえんだよなあ」と言う詩を引用したことで「どじょう総理」と仇名されてしまった。しかし、容貌は泥鰌(どじょう)と言うよりも鯰(なまず)だ。それでも妻は登場しない。本当に奥ゆかしい女性のようだ。そんな常識がかえって安心なのはこれまでが非常識過ぎたからだろう。
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  1. 2019/10/20(日) 12:40:03|
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