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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1731(かなり実話です)

中村士長は午後から大掃除にかかり、居間と台所からトイレ、浴室に至るまで自衛隊の恒例行事である年末点検並みに完璧に仕上げた。その間、松山2尉も素直に仕事部屋の片づけに励み、中村士長が夕食の支度を始める頃には名古屋市の可燃ゴミ袋2つと紐で縛った雑誌の山ができあがった。その夕食を食べ終えて帰隊すると他のWACたちが声を掛けてきた。
「中村ァ、松山2尉の官舎に行ったんだって」「アンタなら大丈夫だろうけど、やっぱ気持ち悪くない」WAC隊舎では独身の幹部に関する情報は日常的に飛び交っているが松山2尉は部外出身の若手エリートでありながら人気は低迷している。
「松山2尉って見るからに陰険そうじゃん。頭は好いかも知れないけどつき合うのは嫌だな」「何だか変態っぽい感じがするけど危ない雑誌とか置いてなかった」中村士長が返事をする前にWACたちは勝手な推測で人物評を始めた。中村士長は愛知地連本部で勤務しているため営内班以外で噂を聞くことはないが兎に角、評判が悪いようだ。
「そうでもないよ。勉強部屋には難しい本が並んでいて英語の雑誌が山積みになってたもん」本当は英語だけでなくフランス語やドイツ語の雑誌もあったのだが中村士長にはスペルの違いが判らなかった。この説明にもWACたちは拒絶反応を示した。
「そんな難しい話を聞かされたら疲れちゃうじゃん。アンタも肩がこったでしょう」そう言ってWACの1人が背後に回るとトレーナーの上から肩を揉み始めた。確かに1日中家事に励んだので肩はこっている。本当は入浴後にストレッチをやろうと思っていたのだ。中村士長は力を抜いてマッサージを受け始めた。ところがその手が下がって乳房を掴んだ。
「裕美ちゃんはまだバージンじゃない。あんな変な奴に大切な初体験をあげちゃうの」同じ年のWACは耳元に唇を近づけて悩ましげに囁いた。WAC隊舎では裸のつき合いがあるので性的体験も秘密にはできない。むしろ精力旺盛な肉食系男子に囲まれているWACのバージン率は一般社会よりもはるかに低いため希少価値があるのだ。
「相変らず固くて筋肉質な乳だ。まだ大丈夫」中村士長の乳房から手を放したWACが報告すると周りの仲間たちには嘲笑するように鼻を鳴らした。
「でも、お酒に誘われたら危ないよ」「極真空手初段も酔い潰れたらノックアウトだぞ」「目が覚めたら隣りにあの顔が寝てたなんて・・・キモイ」「アリエナーイ」採用枠が拡大されて増員されたWACたちの妄想は野性動物の男子隊員たちと変わりがない。下手をすれば男子よりも入隊に際しての「就職」と言う意識改革が弱い分、女子高生の軽いノリが抜け切れていない面もある。実際、九州の某駐屯地のWAC隊舎には未婚の母が3人いて営内で子育てに励んでいるらしい。また九州の別の駐屯地では駐屯地当直勤務についたWACの2曹が当直幹部の3佐に迫り、拒絶されたため「レイプされた」と訴えた事件もあった。WACは演習場で男子隊員と同じテントで仮眠することがあるため貞操観念を喪失するとも言われている。
「松山2尉って本当に真面目な勉強家なんだよ。1つのことに一生懸命だから周りの人を近づけないだけよ。逆に周りが近づかないのかも知れないけど」「こりゃ駄目だ。惚れちゃってるわ」「ぞっこんね」「もう、どうにも止まらない」中村士長が松山2尉の名誉のために素顔を説明するとWACたちは営内に君臨するお局さまの陸曹から習った古臭い言葉でからかった。しかし、中村士長は講話の時に見せた松山2尉の楽しげな笑顔と機知に富んだ話術に感動し、官舎での素直で穏やかな態度に安心感を覚えていた。
「久しぶりに目の焦点が合っている人間の集団に会ってホッとした」講話を終えた夜、松山2尉は独り言のように呟いていたが、孤高の人になっている自分をどう思っているのか。勉強=仕事部屋の棚の上には「独坐大雄峰」と墨書した色紙が額にも入れずに置いてあった。あれは「モリヤ1尉から押しつけられた記念品」と説明していたが互いを知る元上官が贈った教示のように思えてきた。やはり長姉・昌代が「惚れた」だけのことはある。
「松山2尉、開けて下さい」次の休日も朝10時に玄関のチャイムが鳴り、聴き慣れてしまった声が響いたが、昨夜は気に入ったAVが見つかったので自家発電に励み、寝不足だった。
「今日は疲れてるからお断りします」松山2尉は布団の中で頭だけを上げると玄関に向かって声を掛けた。すると諦めたのか声はしなくなった。松山2尉は意外に簡単に撃退できたことに安堵しながらもう一度眠りについた。
「お姉ちゃん、何しているの」「シッ、寝てるから静かにして」寝起きのトイレに行きたくなった頃、ドアの向こうの階段から子供と女性の声が聞こえてきた。腕時計を確認すると昼前になっている。松山2尉は布団を抜けるとトイレに向かい、ついでにドア・スコープを覗いてみた。
「ギャーッ」そこにはこちらを見ている目があった。危なく小便を漏らすところだった。
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  1. 2019/11/11(月) 10:52:42|
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