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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1742(一部、実話です)

「平井堅の家ってどこにあるの」中村家に一泊した翌朝、台所では朝食の支度をしながら母子の会話が弾んでいた。松山1尉と義父になることが決まった中村曹長は寝床で大鼾をかいている。男性陣は昨夜、蕗ヶ丘にある中村家行きつけの寿司登美で水戸黄門=東野英治郎に瓜二つの大将を審判にして陸自VS空自の酒呑み対決をやっていた。母子も迎えに行ってそのまま合流したが母は運転するため酒は口にせず、中村3曹は聞き役に徹していた。
「平井堅のことなら久保井さんに訊けば何でも判るよ。有名な追っかけファンなんだから」「久保井さんってウチとは逆に男3人兄弟の家よね。みんな優秀だったけど今はどんなになったのかな」久保井家は碁盤の目の分譲地で言えば1本奥の列にあり、親が建てた家の隣りに娘夫婦も家を建てて別棟の同居をしている。
「9時になったら電話で訊いてあげるから待っていなさい。それとも松山さんを披露してくる」中村3曹は久保井夫婦を知っているが、どちらも美男美女なので当然、子供たちも美少年だった。中村3曹としては同じ町内会と言う程度のつき合いなので母に電話を頼むことにした。
「あった。表札に平井って書いてある」「平井堅って本名なんだ」朝昼兼用になった食事を終えると父は酒気帯び運転を心配して駅まで送ることは辞退し、呼んだタクシーで桔梗が丘の住宅街でも外れにある平井堅の自宅に向かった。運転手は番地を言っただけで「平井堅の自宅ですね」と答えたので訪ねて来るファンは多いようだ。
「立派な家だね」平井家は桔梗が丘でも低い丘陵からの坂道と街並みを通る道路が交差する場所にある。周囲の住宅は鉄製のフェンスが多いが、平井家は全周をコンクリート製の塀が囲っており、門から見える建物や手入れが行き届いた庭と共に独得の高級感がある。表通り側の塀の下にはプランターが並べられていて色とりどりの花が咲き競っていた。
すると門から老女が出てきて家を覗いている2人に笑顔を浮かべて会釈した。手にはジョウロと柄杓を入れたバケツを提げており、手前のプランターから水を注ぎ始めた。
「あれは平井堅のお祖母さんだよ。そっくりじゃあない」「本当だ。あんなに濃い顔をしたお婆さんは他にいないぞ」一部には183センチの長身と日本人離れした顔立ちから「平井堅はハーフではないか」とする噂があるが、この祖母と思われる老女は共通する面立ちでも日本女性に間違いない。つまり父親が祖母似でそれが濃厚に進化したと言うことになる。
「久保井さんがお姉さんはお母さん似で純和風美人でもお兄さんは堅さんにソックリだって言ってたから、そんな血統なんだね」「確かに英語の発音はネイティブじゃあないからハーフとは思えんな」ここでも松山1尉は昔の男性的な悪態をつく。そう言う松山1尉は外国留学の経験はなく、外国語は学内で留学生から習ったようだ。それでも東京6大学の雄・W稲田大学だけにアジアやアメリカだけでなくヨーロッパや中南米、アフリカなど世界各国から留学してきているため政治経済学部でありながら日常会話なら十カ国語以上をこなせるらしい。それを「単なる趣味だ」と謙遜するところも父に似て昔の男性的で可愛い。
航空自衛隊は陸上自衛隊ほど階級尊重の意識が強くないので昨夜の寿司登美での討論も完全な無礼講になっており、陸上自衛隊の宴席では考えられない光景だった。
父は「福島県の大滝根山分屯基地の第27警戒群に帰りたくて航空自衛隊でも警戒管制員になったが、小牧基地の第5術科学校に入校中に名古屋に遊びに来ていた母と知り合ったため笠取山分屯基地を希望した」と妙に熱弁を揮っていた。これは「将来は久居に来ること」を期待する気持の表明だったのだろう。それに松山1尉は「間もなく母が死ねば孤児(みなしご)になるから定住先は2人で決める」と答えた。
そんな噛み合わない酔っ払いの対話を聞きながら中村3曹は何故かケンズバーのオープニング曲だった「even if」を思い出していた。あの歌で描かれている女性は別の男性との関係をアカラサマにすることで嫉妬させて楽しんでいたが、2人には別の男女は介在しない。それでもまだ理解し切れていない松山1尉の人格に対する一片の不安が中村3曹の胸に胸によぎり、この歌を思い出させたのかも知れない。
「もう雪うさぎの番組が始まってるわよ」官舎に帰り、夕食の支度をしている松山裕美2曹は台所のテーブルで娘に宿題を教えている松山千秋3佐に声をかけた。松山3佐は娘に「少し休憩」と言ってサイドテーブルの上に置いてあるCDステレオの電源を入れた。
「次は旭川市のラジオ・ネーム、雪とけ太さんのリクエストで平井堅の2004年の大ヒット曲『瞳を閉じて』をお送りします」「これも言葉を間違えてるんだよな。閉じるのは瞼(まぶた)であって瞳孔は閉じようがないじゃないか」この夫の趣味と悪癖は相変らずだった。
「はい、歌が始まります。講義は後から聞きます」それでも妻のアシライは格段に向上していた。
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  1. 2019/11/22(金) 13:17:32|
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