FC2ブログ

古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1752

地方協力本部は地方連絡部だった時代から情報機関としての機能も隠し持っている。それは1つには反自衛隊一色のマスコミ報道に対して事実を広報することで虚偽を暴き、支持と信頼を獲得する宣伝活動だが、もう1つは募集活動を通じて生徒の入隊志望を妨害する労組活動家の教師を割り出し、担当機関に通報することだ。勿論、陸曹の広報官たちはそのようなことは知らず後輩の獲得に真摯に取り組んでいるのだが、各募集事務所の幹部が日常の業務の進捗状況の説明の中で拾い集めた情報を分析して報告している。
「本部長、善通寺の情報保全隊長がお越しです」相変らず来客が引っ切りなしのモリヤ1佐には部内者でも予約しないと面談は難しい。業務の報告でさえ来客と来客の切れ間で入室しているのだ。情報保全隊長の津島3佐も電話で予約を入れていた。
「ようこそお越し下さいました。どうぞこちらへ」モリヤ1佐は会話の内容を悪意に基づく批判に利用される惧れがない部内者を安堵して迎え入れた。その後に続くように陸曹のWACがコーヒーを運ぶが今回は来客だけだ。来客と一緒に飲んでいては流石にカフェインの摂取過剰で健康に良くない。トイレも近くなってしまう。
「善通寺地方情報保全隊長の津島3佐です」「モリヤ1佐です。ご無沙汰しております」モリヤ1佐の返事を聞いて津島3佐は少し困惑した。確かにモリヤ1佐が着任の挨拶に善通寺駐屯地を訪れた夜に開催された歓迎会には出席していたが、連隊長や善通寺市長などの大物たちに独占されて面談することはできなかった。ここで再会であることを知っていたのは顔を記憶していたのか、それとも宴席の出席を把握していたのか。情報関係者としては少し緊張した。
「お忙しいようなので単刀直入に申します。本日、伺いましたのは香川県内でも特に警戒を要する大学の存在についてお知らせするためです」地方協力本部としては大学卒業予定者を対象とする一般(部外)課程の採用試験は7月下旬、2次試験も8月中旬に終わっているが、来年度の募集への注意喚起と言うことだろう。
「香川県内の4年制大学は3つしかないでしょう。どこも対岸の私の出身地では名前も聞かない地方大学だから新隊員の募集対象かと思っていました」これは冗談なのか本気なのかは判らないが、新隊員の募集になら間に合うと言う助け船の可能性もある。何にしてもアメリカの4年制大学に留学したモリヤ1佐から見れば評価に値しなくても仕方ない。
「高松の香川大学は駅弁でも一応は国立ですよ」この3佐は部内出身らしいが夫のモリヤ2佐のような古めかしい言葉を使ったところを見ると定年まで間がないようだ。「駅弁大学」とは敗戦後の学制改革で旧制高校や師範学校、公立専門学校が大学に昇格したため、急行列車が停車して駅弁を売っているような駅がある地方都市には大学が存在することになり、それを言論人の大宅壮一が「大学と大学生の粗製乱造」と皮肉にした造語だ。
「それでもバブルの頃なら貴重な国公立大学卒業者だったのでしょう」昭和54年度に共通1次試験が導入されるまで国立大学の受験は旧帝国大学の1期と駅弁大学の2期に分けて受験生に機会を与えるのと同時に学生の質を選別していた。自衛隊の一般(部外)課程入隊者でも1期校と有名私立大学出身者を防衛大学校と同格に扱い、2期校や2流私立大学は部内よりも上程度の人事処遇を与えていた。ところがバブルで自衛隊が3K職場の代表扱いされて大卒者に徹底的に敬遠されると国公立大学卒であれば高校時代には受験勉強に励んだ貴重な人材になっていたのだ。
「確か保健医療大学も県立ですから善通寺にある四国学園大学ですね」モリヤ1佐の予備知識を確認して津島3佐はコーヒーを飲み干してから本題に入った。
「その四国学園大学ですが・・・」「あの大学は東京の国際基督教大学と同様に占領軍が日本人をキリスト教化するために作った大学でしたね」「はい、天皇陛下のお孫さんが入学されました」昨年の春、平成の天皇の次男の娘が学習院ではなく国際基督教大学に進学したことをマスコミは大々的に報道していたが皇室嫌いのモリヤ家では神道のトップの家庭に許されざる暴挙と批判していた。それでも「忠君愛国」の一般の自衛官には美談になるらしい。
「四国学園大学には現在、少数民族特待生と言う制度がありましてアイヌや沖縄に奄美、被差別部落の子供だけでなく在日の朝鮮人や台湾人、亡命してきたベトナム人などを集めているんです」「よほど募集難なのか、それとも明治以来の四国の軍都で反日活動家を育成したいのか。確かに危険ですね」モリヤ1佐の理解に津島3佐は安堵したようにうなずいた。
「日本のキリスト教会の主流派は敗戦後に反日化していますから、広報官にも大学関係者への接触を控えて一般の善通寺市民への広報に努めるように周知しましょう」津島3佐は情報保全=防諜が本職である自分を凌駕するモリヤ1佐の見識に感服して席を立った。
スポンサーサイト



  1. 2019/12/02(月) 12:21:48|
  2. 夜の連続小説8
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<昭和の終焉・中曽根康弘首相の逝去の悲報に瞑目する。 | ホーム | 第84回月刊「宗教」講座・2008年のチベットにおける惨劇・後編>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://1pen1kyusho3.blog.fc2.com/tb.php/5795-5b1e6bc0
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)