FC2ブログ

古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1777

行方知れずのガッダーフィの捜索は広大なリビア全土に及んでいる。それは政権を奪取した国民協議会に対するアマリカ軍を含むNATO軍の全面的な支援があってのことだが、松本には日本の古典芸能・文楽のようにNATO軍が人形遣いで国民評議会はその手で演じさせられる人形のように見える。特にオバマ政権はアフガニスタンやイラクを始めとする対イスラム戦争からの撤退と不関与を表明しながらアメリカ軍はNATO軍の一員として公然と介入しており、表舞台に立たない人形遣いの役割を最大限に利用しているようだ。
「ガッダーフィはニジェールへ亡命するつもりらしいぞ」2人は国民評議会の捜索隊に同行しながら車中泊を続けているが、ジャームズは眠る時にも高性能の小型無線機のイヤ・ホーンを装着している。その無線機は日本製で、それをイギリスの情報機関が長期間にわたり荒野で活動する諜報活動用に改造したものだ。そのため砂塵や強烈な直射日光、さらに高温多湿に耐え得る補強だけでなく太陽電池や車両のエンジンの発電機でも使用できる。
「またアメリカ軍のドローンが車列を発見したって言うんだろう」松本は寝袋の中で返事をした。松本が主戦場にしているアラビア方面の砂漠地帯は夜間でも気温は30度以上のままだが、サハラ砂漠では氷点下になることもある。この登山用寝袋は岡倉がアフガニスタンで使っていた物をジェームズが持って来てくれた。
「リビアとニジェールの国境線はアルジェリアとチャドに挟まれて狭くなっているから逃亡するには不利だろう。ガッダーフィを隠すための囮じゃあないのか」松本は座席を起こすと窓の外の風景を見回しながら見解を述べた。砂漠では陽が昇れば急激に気温が上がるので、そろそろ暑くなってくるはずだ。ジェームズと行動を共にし始めて1週間だが、中国と並ぶ情報強国・イギリスの諜報要員から個人教授を受け、ようやくリビアの歴史と地理、宗教、現在の政治と軍事の情勢などの知識を備蓄できてきた。
「確かにニジェールとの国境はアルジェリアとチャドの岩場に挟まれているが、そこに逃げ込まれれば捜索は困難になる。だからその手前の砂漠で捕獲しなければならないんだ」ジェームズの口調が説教になったので松本は寝袋から出て靴を履いた。イギリス紳士のジェームズはトイレ以外で用便することを嫌うが、日本人の松本は自然現象=人間の摂理として朝一番の排尿・排便をしなければならない。荷台に置いてある段ボール箱から取り出したトイレット・ペーパーを持ってドアを開けると砂漠には珍しい快適な気温だった。
捜索隊の幹部たちは集落の民家に宿泊しているが兵士たちはトラックの荷台で寝袋だ。松本のドアの音で荷台から兵士たちの話し声が聞こえ始めた。周囲に兵士の姿はなく不寝番は立てていないらしい。このような素人にリビア軍の最精鋭であるはずのガッダーフィの警護部隊を制圧することができるのか懐疑的になってくる。松本は身体が隠れる程度の岩場まで歩いて行って死角に手で穴を掘ってからしゃがんだ。大切な水で手を洗うことはできない。
松本が車両に戻ると交代にジャームズは幹部たちが宿泊している民家に用便に行った。やはりイギリス紳士としての誇りは可能な限り捨てないらしい。松本は無線機の傍受を頼まれてイヤ・ホーンを装着したが、電池を節約するため音量は限界まで下げてあり、英語を母国語としない人間の英会話を聴き取るのに苦労した。
「国民評議会がガッダーフィはバニワリードに潜伏していると言い出した。信頼できる人物からの情報らしい」バニワリードは地中海沿いのトリポリからやや内陸にある都市なのでニジェールとは逆方向だ。これはNATO軍の情報要員の専用通信と聞いているが、かなり混乱している様子が伝わってくる。
「8月29日にアルジェリアに逃亡した妻と長男、5男、長女の団体に紛れ込んでいなかったのか。ガッダーフィは警護要員に変装するのが得意だぞ」「アルジェリア政府は30日に長女が出産したと言う続報以外に国民評議会とNATOの照会に回答していない」この状況から推理するとアフガニスタンやイラクと同様にリビアでもアメリカやEUの政権やNATO軍の思い込みのように国民に反イスラムの意識は発生しておらず、逆にガッダーフィの逃亡を助けるための偽情報を流し、本人だけでなく革命評議会関係者を匿う相当数の協力者が各地に存在するのではないか。松本がシリアで見てきたのもイラクから逃亡してきた山岳地帯の少数民族たちが反フセインの反乱を期待したアメリカに供与えられた武器をイスラム教を守る聖戦としてアメリカに向けるようになった事実だった。
用便にしては中々ジェームズが戻ってこないので松本は朝食や幹部たちとの調整を始めたと考えて空腹を満たすことにした。荷台の段ボールでも一番大きい食料用の箱からパンと缶コーヒーを取り出した。途中の街の露店で買った焼きパンは砂漠の気候で乾パンになっている。次の食料を入手できるまで野菜や果物は口にできない。栄養管理は滅茶苦茶だ。
スポンサーサイト



  1. 2019/12/27(金) 13:46:28|
  2. 夜の連続小説8
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<振り向けばイエスタディ1778 | ホーム | 振り向けばイエスタディ1776>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://1pen1kyusho3.blog.fc2.com/tb.php/5848-14cca3fb
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)