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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1783

岡倉は12月14日の昼頃に開催されるらしい従軍慰安婦少女像の除幕記念式典を現地で確認することにした。早朝、近所のコンビニエンス・ストアに出かけて新聞を買い集めてきたが、私的な政治団体の行事のため反日派の新聞でも扱いは比較的小さい。その分、日本政府の抗議も在日韓国大使の説明を紹介しているだけで、外交問題に発展する懸念も可能性を否定しない程度の解説だ。残念ながら義父母は宗教者として政治問題に不関与なので感想を訊くことはできない。その義父は朝の礼拝に参加するため聖堂に出かけている。
「貴方が言っていたウィーン条約を調べてみたけど完全に違反しているわね」ジアエも今日は水曜日なので母親に聖也を預けて通常出勤だ。鏡台に座って髪を整え、化粧をしながら話しかけた。軍服姿は凛々しいが見惚れている暇はない。
「調べてみるとあの像を作るように勧めたのは鍾路区のキム・ヨンジョン区長らしいな」「それを知っているなら私が解説する必要はないわね。それじゃあ出かけるわよ」ジアエは最後に鏡台で自分の顔を確認すると立ち上がって振り向いた。昨夜も存分に愛したので余韻に浸りたいところだが折角の化粧を落とす訳にはいかない。岡倉は姿勢を正すと手を額に掲げ、敬礼をした。するとジアエも顔を引き締めて答礼する。熱い抱擁も良いが自衛官と軍人の夫婦にはこれも悪くない。工藤の後任の妻はWACの陸曹と聞いている。先日、リビアでの活動報告のためワシントンに行った松本が諸西将補から工藤の交代人事を聞かされたため、帰ってから全員に説明があったのだが、後任者は同期のモリヤ夫の元部下だったようだから年齢と期別はかなり下になる。それでも抜擢するほどの逸材と言うことなので期待するしかない。
「聖也、お母さんはお仕事に行くよ。良い子で待ってってね」岡倉が考え事をしながら後をついて行くとジアエは陸上自衛隊の障害走訓練のような身のこなしで部屋を出て階段を下り、1階の廊下で祖母に手を引かれて待っていた聖也に声を掛け、玄関に向かった。
「貴方、気をつけてね」「お前も安全運転でな」「はい、タニョオセヨ(行ってきます)」「タニョウァ(行ってらっしゃい)」3人が並んで見送るとジアエは妙に充実した腰つきで玄関を開けて出ていった。やはり女性は愛されると身体に力が漲るものらしい。
「お母さん、今日はタニョオセヨって言ったよ。いつもはタニョオゥケヨなのに」「それはお父さんがいるから敬意を表したのよ」ジアエがドアを閉めて足音が遠ざかると聖也が顔を上げて質問し、祖母が見下ろして説明した。日本では文部科学省が「平等意識に反する」と言う馬鹿な理由で敬語と丁寧語を学校教育から排除しようとしているが、韓国では国民の半数を分け合ってるキリスト教と佛教も宗教としての戒律よりも儒教の道徳を基盤としているため上下・老若の序列が揺らぐことはなく、こうして家庭での躾けが維持されているのだ。
岡倉は義母が家事を片づけている間は聖也の相手をして過ごし、昼前には鍾路区中学洞の在韓日本大使館に向かった。今までは心強い杉本と待ち合わせていたが、検察当局が安楷林の死因に疑惑を抱いているとすれば拘束される危険があるので入国はできない。
「この像は日帝が我が韓国人民に加えた屈辱の歴史を永遠に刻むだけでなく、ナチスのホロコーストと並ぶ非人道的戦争犯罪を世界に発信し、日本国が本来は絞首刑になるべき凶悪国でありながら我が韓国人の寛大な温情によって生き永らえた無期懲役囚であることを周知するための象徴なのです」記念式典が行われている大使館前の道路の向こうでは歩行者の通行を遮断するほどの人だかりができていて、キム・ヨンジョン鍾路区長がマイクを持って挨拶をしていた。このキム・ヨンジョン区長が過激反日団体である韓国挺身隊問題対策協議会が毎週水曜日に各地で実施している日本軍慰安婦問題解決デモが1000回を超えた記念碑を日本大使館前に設置することを相談したところ「記念碑だと道路占用許可が必要だが、慰安婦像なら芸術作品なので許可対象ではない」と助言した上で「チマチョゴリ姿で片方が空いた2つの木製の椅子に座り、日本大使館を直視している像」を提案したのだ。反日系の新聞は行事そのものの扱いは小さくしていても歴史的経緯と銅像製作の解説は紙面数枚を使って特集していたためキム・ヨンジョン区長の暴挙もこの歴史的事業を実願させた英雄として紹介していた。
その後もマイクを手渡しで回しながら日本を誹謗する発言の過激さを競い合っているような式典が続き、やがてここまで歩いてきながら主催者が作った人垣の影で車椅子に乗せられた白のチマチョゴリを着た老婆が登場した。従軍慰安婦を名乗っている元売春婦のようだ。
「お前は日本人だな」松念院の住職から慰安婦との物悲しい思い出話を聞いていた岡倉が吉田雄兎(=精治)の済州島での慰安婦狩りと遜色がない虚偽の告発に熱弁を揮う元売春婦を冷ややかに眺めていると揃いの鉢巻きとベストをしている若者たちに取り囲まれた。その声に元売春婦の小話に涙していた女たちも一斉に振り返って殺気立った視線を向けてきた。
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  1. 2020/01/02(木) 12:24:02|
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