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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1791

韓国のテレビ各局も午後には昨年から週休2日制になった行政府の官僚や陸海軍の士官クラスが土曜日に出勤していることを察知して取材を始め、伝聞情報として北の異変を臭わせ始めた。それでも「最高権力者の死」と報じるには根拠が弱く、李明博政権も断定は避けているようだ。
「流石に報道も慎重だな」午後からは聖也を外で遊ばせるのを控えてテレビの前に居座り、報道番組を見続けている岡倉は個人や少数派の感情的な主張も大々的取り上げて扇動しているテレビの報道姿勢と比べて、異様に慎重な対応に薄気味悪ささえ感じた。
「聖也、お祖母ちゃんと外に遊びに行きましょう。お父さんはお仕事なのよ」「でもお父さんはテレビを見ているだけだよ」居間の床で岡倉の土産の積木で何かを作っては壊している聖也に義母が声をかけた。12月のソウル市内では幼児を外で遊ばせるのに午後の日差しが強まる時間帯を逃すことはできないのだ。
「お父さんはアメリカに行っちゃうと我が国のことが判らないでしょう。聖也が無事に元気に暮らしているか心配しないで良いように勉強していってもらうのよ」義母の説明は少し難しかったようで聖也は首を傾げた。すると岡倉がさらに難しく厳しい言葉を続けた。
「今のままこの国が転落していくようならお母さんが軍を退役したところで聖也も一緒にアメリカへ来ないとな。このままでは世界中から信用されない邪魔な国になってしまうよ。そんな国に家族を置いておく訳にはいかないぞ」「お祖父ちゃんとお祖母ちゃんも一緒なの」聖也の質問に義母は後ろから抱き締め、顔を向けると真剣な目で岡倉に問い掛けた。
「タイガーの目からも今の我が国が邪悪な道を辿っているように見えるのね」「今のこの国で一番拙いのは国民に冷静な判断力が欠落していることです。若い世代はマスコミの扇動だけではなくインターネットによる世論工作に同調して極端な政治運動に熱中している。このままでは大統領が5年の任期を全うできない不安定な国家になって、その混乱につけ行った中国と北韓に支配されることになりますよ」岡倉は今回の北朝鮮の君主の急死と言う突然の政権交代に韓国政府がどのように対応するかを見極めたいと考えていた。軍人政権の時代であれば北に異常な動きがあれば、即座に全軍に臨戦態勢を発令したはずだが、今回は指揮系統だけを確保したようだ。韓国軍は金大中、盧武鉉政権によって有能な人材が徹底的に抹殺されて、自発的に非常呼集をかける指揮官は残っていないのかも知れない。ソウル特別市は統一後の首都でもあるため休戦ライン(=事実上の国境)からは至近距離で防衛は極めて困難である。陸軍は休戦ラインに沿って並べた防御戦力の一角に首都防衛の専門部隊を割り込ませる形になっているが、そのような危機感も「同胞である北を敵視していることにされる」と言う現状はジアエから聞いている。その北朝鮮の君主の死をどのように受け止めるのか。
ニューヨークでは杉本が岡倉からの第一報を受けてテレビの国際ニュースを見ながら朝鮮情勢に関するインターネットのニュース・サイトを検索していた。第一報の直後に工藤に連絡し、工藤は諸石将補に報告したはずだが、在アメリカ大使館の外務省職員たちがこの情報を把握しているかは判らない。あまりにも突発的な事態であり、CIA(中央情報局)を要するアメリカ国務省ですら察知していないのではないか。
「北朝鮮国営放送は通常のニュース番組をやってるな。アナウンサーの服装もいつも通りだ」北朝鮮当局が世界に発信している海外向けのニュースを見ても異変は感じられない。ただ昨日は予告していた金正日の地方視察については何も触れていない。通常、金正日の視察は自国民を慈しむ君主の温情として最優先されるので違和感を与えるのは間違いない。
「杉村(岡倉の偽名)の情報が事実ならば次の指導態勢が固まってから内外に発表するんだな。今頃、国内では壮絶な権力闘争が起こっているんだろう」杉本はパソコンにリムーバー・ディスクを差し込むと一般的な北朝鮮情報を記載した資料を開き、金正日の子供の一覧表を見た。
「上から長女の金恵敬、夫の張成沢が金正日の側近で中国共産党とのパイプ役だったな。次がディズニーランドの金正男か。それで2女の金雪松、3女の金春松、それから2男の金正哲と3男の金正恩、4女の金与正。朝鮮では男にしか継承権がないから正男と正哲、正恩兄弟になるが、正男は海外を中心に活動しているから北朝鮮国内にいないんじゃあないか」杉本は資料に添付してある子供たちの顔写真を眺めながら10年前に金正男が日本に密入国しようとして成田空港で拘束された時の映像を思い出した。あのニュースはアメリカでも大々的に報道されたが田中真紀子外務大臣の軽率な対応に失望と批判の声が起こっただけで幕が下りてしまった。
「杉村の奴は女房から情報を入手したんだろうな。しかし、軍人では守秘義務があるから・・・」杉本は岡倉の第一報が極めて速かったことから入手経緯を推理したが、李知愛少佐と自分が殺害したジャーナリストの安楷林との比較になってしまい唇を噛んで目を閉じた。
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  1. 2020/01/10(金) 12:56:10|
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