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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1812

「マミィはダディに会ってるの」ハワイに帰省した佳織はリビングで志織と談笑していて真顔で問い詰められた。志織も夏休みには香川県を訪れ、四国の歴史と文化や豊かな自然を満喫してきたが、その一方で東京との距離も実感している。両親は「月に1回、父親が四国へ通う」と言っていたもののそれが可能な職務ではないことも判っていた。
「中々予定が合わなくてね。1回来てもらっただけだよ」佳織は残念そうに答えたが志織は不満げな顔になった。8月以降の日本の祝日は9月が2日、10月と11月、12月にも1日ずつあり、そのうち木曜日だった11月3日の文化の日以外は月曜日か金曜日だったので土・日曜日に合わせれば3連休になったが、間隔が中途半端なため9月23日の秋分の日だけにしたらしい。木曜日の文化の日は金曜日に休暇を取って4連休にするつもりだったが、秋の演習で発生した官用車の交通事故の処理で実現しなかったようだ。
「私のことを心配するのは好いけれどダディのことも考えて上げなさい。グラダディとグラマミィはいつも一緒で人生を共有しているのよ。マミィはダディと何年一緒に暮したの」志織は祖父母の生活を見て夫婦と言う人間関係を学んでいるようだ。しかし、佳織にはこの叱責が黙過できなかった。テーブルの向かいに座っている志織を直視すると少し口調を強めて反論した。
「私には国家から与えられた重要な職務があるのよ。ダディだって私が職務を優先することを認めてるし、誇りに思ってくれている。グランドダディも若い頃にはベトナム戦争に従軍して家には帰って来なかった。志織も軍人になるなら個人の生活と国家に対する使命のどちらを優先するべきか認識するべきよ。それが理解できないようでは上級軍事大学なんて無理ね」佳織の言葉に志織は皮肉に笑うとマンゴーのジュースを飲んでから答えた。
「『二兎を追う者、三兎を得る』、ダディはいつも言ってたじゃない。マミィだって強く希望すれば東京で転属できたんじゃあないの」これには佳織が絶句した。モリヤのこの台詞は自衛官と坊主の二足草鞋(わらじ)を履いていることを茶化した造語=改作古語だが、最近は弁護士と言う草鞋も履いているため「三足草鞋を履きたくても真ん中の足が立たない」と下ネタになっている。確かに佳織はモリヤとの生活を守るための努力を怠っていたのかも知れない。
「私、石垣島の淳ちゃんの家に泊めてもらって色々な話を聞かせてもらったんだ。淳ちゃんと私は産んだお母さんが違うんだね。それにあかりさんのお母さんはダディの昔の恋人だってことも。ダディは子供の頃から自分で見つけて育てていた大切な宝物を愛知の親に奪われて壊されてきたから自分から欲しがることができない人間になってしまった。だからマミィが愛してあげないとダディは1人で生きるようになってしまう」佳織は志織がアメリカでは年令相応に、日本では不相応な大人になっていることを実感した。それが判れば大人の女同士として話ができる。佳織もマンゴーのジュースを飲んで静かに話し始めた。
「ダディは自分から欲しがることができない人間なのね。私がダディに抱かれるようになっても奉仕するみたいな行為しかしないから『好きなようにして』って言ったら、ものすごく優しく抱いてくれたのよ。ダディには自分の欲望で快楽を求めるって言う感情がないのかも知れない。でも国家への忠節は私たち夫婦の共同作業であることは間違いないわ」あの時、淳之介は「梢とやり直した方が好い」とも言っていたのだが志織は口にしなかった。その時、庭の手入れをしていたノザキ中佐とスザンナがリビングに戻ってきた。単身赴任生活が続く自分たち両親よりもこの祖父母を見て夫婦の情愛を学ぶ方が志織には有益だと佳織は思った。
「そろそろ志織に交代しよう。ユー アー パイロット」「アイ アイ サー。アイ アム パイロット」翌日、佳織はノザキ中佐が友人の自家用機を借りての遊覧飛行に同乗した。副操縦席には志織が座っている。空港の管制空域を離れたところでノザキ中佐が志織に声をかけた。勿論、無免許の志織が航空機を操縦することは違法だが、空の上では目撃者がいない。そのため2人は会話を管制官に傍受されないようにレシーバーのマイクを額に上げている。
「いつものように急激な操作をしないように気をつけろ。先ず右に旋回してみろ」ノザキ中佐は教官パイロットとして指導を与えながら志織に操縦させている。航空機は速度が早いため操縦桿や方向舵のペダルの動きに大きく反応する。その感覚を体験させながら適性を見極めているようだ。ハワイの海の上を自由に飛びながら志織はセスナ機を自転車のように乗りこなしている。しかし、志織はまだ自動車の免許を取っていない。航空自衛隊には自動車で追突事故を起こして「ハンドルを引いたが車体が上昇しなかった」と証言した熟練の戦闘機パイロットがいたが、先に飛行機の操縦を覚えても大丈夫なのだろうか。
「操縦で一番難しいのは着陸なんだが、それは資格を取らないと教えられないな」海の上だけの遊覧飛行を終えて空港に帰投するため操縦を代わったノザキ中佐は満足そうに呟いた。
17・モリヤ志織イメージ画像
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  1. 2020/01/31(金) 11:41:25|
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