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古志山人閑話

野僧は佛道の傍らに置き忘れられた石(意志)佛です。苔むし朽ち果て、忘れ去られて消え逝くのを待っていますが、吹く風が身を切る声、雨だれが禿頭を叩く音が独り言に聞こえたなら・・・。

振り向けばイエスタディ1824

365日24時間態勢を維持する必要がない一般の国家公務員は8月15日前後に夏季休暇を取得する。これが東京と地域限定の7月15日の盂蘭盆会に重なっていないことはこの休暇が宗教色を帯びていないことを説明するのに有効だ。したがって私が担当しているイージス護衛艦と漁船の衝突事故の2審も8月上旬で中休みになる。
そんな東京高裁のロビーで私は別の裁判の取材に来ているらしい新聞記者に呼び止められた。今日は牧野弁護士と滝沢弁護士は別の裁判の準備で欠席していて私1人だった。
「海上自衛隊の裁判のモリヤ弁護士ですね」「はい、そうですが。貴方は」「A日新聞の佐々木です」佐々木と名乗った記者はワイシャツにネクタイ姿なのでズボンの後ろポケットから名刺入れを取り出して1枚渡した。確かにA日新聞の社旗が入った名刺に社会部記者の肩書と氏名が刷られている。仕方ないので私も弁護士用の名刺を取り出してボールペンで裏面に日付と「佐々木さんへ」と記して渡した。これは私の名前を語った悪用を防ぐための自衛処置だ。
「実は閣僚の靖国参拝に関するご意見を伺いたいんです」いきなり取材の申し込みになった。自民党政権の頃は敗戦の日に限らず首相が靖国を参拝したことをマスコミが報じると中国と韓国が猛烈に批判し、それを受けてA日新聞は日本の戦争犯罪の自覚と贖罪の必要性を論評していたが、民政党政権では首相はおろか閣僚も参拝しない。中でも雀山首相は「靖国は戦争賛美の神社だ」と珍しく適切な評価を述べていた。
「ご存知のように自衛官はマスコミに自衛隊に関する意見を発表するには所属する組織の審査と長の許可を受けなければなりません。したがって取材でしたら陸上幕僚監部監理部を通じて申し入れて下さい」この保全規則の規定は曖昧で本来は保全単位である法務官室でも良いのだが、それでは私が対応することになるので対外交渉の専門家に任せることにした。
「別に自衛隊に関する質問ではありませんからお願いできませんか」法令規則を盾に拒絶しても執念深く喰い下がってくる。どうやら8月15日の特集記事に使うつもりらしい。私は渋い顔を作りながら掌を突き出して所作で拒否した。
「そうですか。有り難うございます」いきなり佐々木記者が礼を言った。やはり地顔が笑っている私が態度で拒否したのが間違いだった。こうなるとアカラサマな拒否はできない。仕方ないのでオフレコと所属・氏名の非公表を前提に細心の注意を払いながら答えることにした。
「モリヤ先生は靖国についてはどのような認識を持っておられますか」いきなり敬称が先生になった。弁護士も先生と呼ばれる職業ではあるが親戚に教師が多い私は好きではない。
「あくまでも個人的見解ですが、あんな物は国家神道が国民を戦場に駆り立てるために作った悪しき遺物ですから大戦中に空襲で破壊してもらうべきでした」おそらく2等陸佐に期待していた回答とは真逆でも佐々木記者が書きたい主張に合致していたようで、メモ用ノートから顔を上げると変に計算が働き出したような卑しい目つきになっていた。
「それではモリヤ先生は靖国に参拝したことはないんですか」「付属博物館(=遊就館)には入ったことがありますが拝殿には近づきません。そもそも戦没者は自宅の佛式の葬儀で極楽往生しているのですから、後で靖国が呼んでも応じる者は皆無でしょう。死んでからまで軍隊生活を続けるよりも家で先祖の1人なって家族を見守る方が幸せですよ。これも個人的見解ですが」坊主でもある私の宗教者的見解はこのA日新聞の記者には理解できないはずだが、他の言論人が披歴しない意見らしく妙に力を入れてメモしていた。
「ところで現在の松川国家公安委員長は『みんなで靖国神社に参拝する議員の会』に所属していて今年も8月15日に参拝することを明言していますが、これについてはどう思われますか」これが本題だ。佐々木記者としては支援する民政党政権の閣僚が靖国に参拝することを肯定する意見を求めて私に声をかけたのかも知れないが、この段階では靖国参拝を否定する側として利用するつもりなっている。それでも名前を出さない約束なので本音で回答することにした。
「ワシは個人的に松川委員長を評価しているが、靖国は1993年5月4日にカンボジアで戦死した岡山県警の高田晴行警部補は合祀していない。それを考えれば国家公安委員長の職にある間は参拝を控えるべきだろう。そもそも日本と米英中の戦争が終ったのは9月2日の降伏文書への調印であって8月15日の玉音放送は国民への広報に過ぎん。実際、ソ連の侵攻を受けた千島や樺太、満州では戦闘が継続していたんだ。8月15日の参拝では全ての戦没者の慰霊にはならんよ」あえてソ連が日ソ不可侵条約を破った史実を持ち出したのは親ソ親中反日反米を社是にしているA日新聞にこの記事を採用させないための危険物だ。
「おまけに靖国は昭和25年10月17日に朝鮮戦争で戦死した海上警備隊の中谷城太郎隊員の合祀も拒否しているから首相と防衛大臣の参拝は裏切り行為だね」これは口が滑った。
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  1. 2020/02/12(水) 13:03:12|
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